TOKYO/椎名林檎

(おなじゆめでめざめた)

同じ夢で目覚めた

(なぜいままたむかしのおとこなどあらわれる)

なぜ今また昔の男など現れる

(まゆやめでさえおぼえていないあいてじゃ)

眉や目でさえ憶えていない相手じゃ

(はるかおぼろのつきあいまいもこ)

遥か朧の月　曖昧模糊

(そんなかおをみてすごしていたみょうなばめん)

そんな顔を見て過ごしていた　妙な場面

(ゆめはじゅっちゅうはっくはれもようすがすがしく)

夢は十中八九晴れ模様　清々しく

(せいぜいがんぼうをうつしだしているようで)

清々願望を映し出しているようで

(ばかにしあわせそうにはしゃいでいたっけ)

莫迦に幸せそうに燥いでいたっけ

(ああしんどいわあたまのみさえている)

ああしんどいわ　頭のみ冴えている

(どこともだれともつながらないこのいのち)

どことも誰とも繫がらないこの命

(ああおもいわもてあましたじが)

ああ重いわ持て余した自我

(いそいでゆめのとちゅうにもどして)

急いで夢の途中に戻して

(おきていたくない)

起きていたくない

(びねつをおびたまぶたがいなおると)

微熱を帯びた瞼が居直ると

(うつつのせかいはあれもよういまいましく)

現の世界は荒れ模様忌々しく

(かさもたずさえよういしゅうとうだった)

傘も携え用意周到だった

(だのにぬれているじぶんふこうなんだって)

だのに濡れている自分　不幸なんだって

(まあしんどいよしとどになくあし)

まあしんどいよ　しとどに泣く足

(どこへもだれへもつづいていないこのみち)

どこへも誰へも続いていないこの道

(まあひどいよふみはずしたかこ)

まあ酷いよ　踏み外した過去

(いけどもかえれどもせめられてうせてしまいたい)

行けども帰れども責められて失せてしまいたい

(そうとうざしのぎにひっしのじんせい)

そう当座凌ぎに必死の人生

(かなしくてもうたえられない)

悲しくてもう耐えられない

(ねえせめてあいされてみたかったひとたびでも)

ねえせめて愛されてみたかった　ひと度でも

(どんなさいごをむかえてしぬんだろう)

どんな最期を迎えて死ぬんだろう

(かわらずだれにもあまえずずっとひとりならながいわ)

変わらず誰にも甘えず　ずっとひとりなら長いわ

(たかがしれたみらい)

高が知れた未来

(みじかくきりあげてきえさりたい)

短く切り上げて消え去りたい

(のみこんでとうきょう)

飲み込んで東京