先生の怖い話「廃屋」(2/11)

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投稿者投稿者ななっしーいいね2お気に入り登録
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問題文

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(ふるいどのさき、このやかたのがいしゅうじょうでゆいいつのすきとおるがらすばりのまど・・・、)

古井戸の先、この館の外周上で唯一の透き通るガラス張りの窓・・・、

(つまりそとからなかがのぞけるまどがあった。こうきしんいっぱいでのぞいてみると、そこは)

つまり外から中が覗ける窓があった。好奇心いっぱいで覗いてみると、そこは

(だいどころのようで、きれいにそうじされたながしだいがみえた。そのおくはくらくて)

台所のようで、綺麗に掃除された流し台が見えた。その奥は暗くて

(みえなかったのだが、ひかくてきちかくのわきにきょだいなしょっきだながみえた。そこに)

見えなかったのだが、比較的近くの脇に巨大な食器棚が見えた。そこに

(かずおおくのさらがきちんとかさねられてせいりされていた。ぼくがもっていた、あきやには)

数多くの皿がきちんと重ねられて整理されていた。僕が持っていた、空き家には

(なにもないはずだ・・・、というせんにゅうかんとのそういにたしょういわかんがうまれたが、)

何もないはずだ・・・、という先入観との相違に多少違和感が生まれたが、

(そのままなかにはいることのできるみちをさがしてすすむことにした。ふるいどのむこう。)

そのまま中に入る事のできる道を探して進むことにした。古井戸の向こう、

(ほうこうてきにはやかたからとおざかるかたちになるが、ていえんはおかなりになっていて、そのたけが)

方向的には館から遠ざかる形になるが、庭園は丘なりになっていて、その竹が

(おいしげるおかのちゅうふくあたりにはすこしひらけたばしょがあり、そこにはいぜんなにかが)

生い茂る丘の中腹辺りには少し開けた場所があり、そこには以前何かが

(おこなわれていただろうじんこうてきなもののざんがい、じめんにしかれていたであろうあかくおおきな)

行われていただろう人工的な物の残骸、地面に敷かれていたであろう赤く大きな

(ぬのや、きょだいなわがさのはへんらしきものがちらばっていた。かここのていえんでおちゃの)

布や、巨大な和傘の破片らしき物が散らばっていた。過去この庭園でお茶の

(ざしきでもひらいていたのだろう・・・。ひとがすんでいたころにはせんごくぶしょうたちに)

座敷でも開いていたのだろう・・・。人が住んでいた頃には戦国武将達に

(よくにあいそうな、すばらしかったであろうこのみどりのていえんがぼくのあたまにうかんだ。)

よく似合いそうな、素晴らしかったであろうこの緑の庭園が僕の頭に浮かんだ。

(やかたのひがしがわのいっかくにふるいくらがあった。もちろんそのしらきでできたぶあついとびらは)

館の東側の一角に古い蔵があった。もちろんその白木でできた分厚い扉は

(ひらくことはなかったが、そのすぐとなりのかべにやく1めーとるしほうのあながあいていて)

開くことは無かったが、そのすぐ隣の壁に約1メートル四方の穴が開いていて

(なかにはいることができた。まっくらやみのそのなかにはいろいろあったが、そのなかでも)

中に入る事ができた。真っ暗闇のその中にはいろいろあったが、その中でも

(ひときわめだつ、20せんちしほうほどのごうかなしらきのはこがあった。そとのあかるいところに)

一際目立つ、20センチ四方ほどの豪華な白木の箱があった。外の明るい所に

(もってきてあけてみると、かえるのおきものだった。しかしふつうのかえるではなかった。)

持ってきて開けてみると、蛙の置物だった。しかし普通の蛙ではなかった。

(そのおきものは、くさりかけたかえるをかたどったあおぐろいどうぞうだった。よくちゅういしてほしい、)

その置物は、腐りかけた蛙を象った青黒い銅像だった。よく注意してほしい、

(かえるのどうぞうがくさりかけているのではなく、さいしょからくさりかけたかえるをかたどった)

蛙の銅像が腐りかけているのではなく、最初から腐りかけた蛙を象った

など

(どうぞうなのである。・・・なぜこんなものがだいじそうに・・・?それにたいして)

銅像なのである。・・・なぜこんなものが大事そうに・・・?それに対して

(わきあがるふかいかんとふあんかんはいなめなかったが、とりあえずそれいじょう)

湧き上がる不快感と不安感は否めなかったが、とりあえずそれ以上

(そのどうぞうのわだいにふれることをせず、そのままそれをあとにして、またがいしゅうぞいを)

その銅像の話題に触れることをせず、そのままそれを後にして、また外周沿いを

(すすんだ。きがつけばどうやらやかたをいっしゅうしてしまったようだ。とじまりはかんぺきで、)

進んだ。気が付けばどうやら館を一周してしまったようだ。戸締りは完璧で、

(どこからもしんにゅうできるけはいはない。「どうしよう、もうかえろっか?」)

どこからも侵入できる気配はない。「どうしよう、もう帰ろっか?」

(としもだにいったとき、ふとあるものがめにはいった。いまぼくらはげんかんのまえにいる。)

と下田に言った時、ふとある物が目に入った。今僕らは玄関の前にいる。

(そのななめうえがわ、かいちくされたやかたのようふうがわのにかいにあるがらすまどがあいていて、)

その斜め上側、改築された館の洋風側の二階にあるガラス窓が開いていて、

(しろいかーてんがふきつにふわふわとゆれている。それをみたぼくは、「おいしもだ、)

白いカーテンが不吉にふわふわと揺れている。それを見た僕は、「おい下田、

(あっこあいてる、あっこからはいれるやん」といってしまった。これだけげんじゅうな)

あっこ開いてる、あっこから入れるやん」と言ってしまった。これだけ厳重な

(とじまりでそこだけあいているといういわかんにはきづかないまま。ぼくらはやねに)

戸締りでそこだけ開いているという違和感には気づかないまま。僕らは屋根に

(とびのり、そのまどからはいることにしたのだが、まどはぼくらのしんちょうよりもたかく、)

飛び乗り、その窓から入る事にしたのだが、窓は僕らの身長よりも高く、

(あらかじめなかをのぞいてかくにんすることはできなかった。しもだがさいしょにせのびをして)

あらかじめ中を覗いて確認する事はできなかった。下田が最初に背伸びをして

(まどにてをかけからだをもちあげた。そしてなぜかそのままなかにはいらずにもどってきて、)

窓に手を掛け体を持ち上げた。そして何故かそのまま中に入らずに戻ってきて、

(「ごめん・・・、おれ、はいれへんわ・・・。」とおびえたようにいった。)

「ごめん・・・、俺、入れへんわ・・・。」と怯えたように言った。

(「なにびびってんねん。」としもだにはきすて、こんどはぼくがまどにてをかけてからだを)

「何びびってんねん。」と下田に吐き捨て、今度は僕が窓に手を掛けて体を

(もちあげた。そのにかいのへやはたたみじきで、9じょうほどのなんのへんてつもない)

持ち上げた。その二階の部屋は畳敷きで、9畳ほどの何の変哲もない

(へやだった・・・、だいしょうさまざまなぶつぞうぐんがぼくがいまはいってきたまどのほうをむけて)

部屋だった・・・、大小様々な仏像群が僕が今入ってきた窓の方を向けて

(おかれているいがいは・・・。そのぶつぞうたちはじつにさまざまで、おおきさも20せんちほどの)

置かれている以外は・・・。その仏像達は実に様々で、大きさも20センチ程の

(ものからおおきいものでは1めーとるいじょうはあっただろう。しんちょうのたかいものは)

物から大きい物では1メートル以上はあっただろう。身長の高いものは

(そのへやのおくのとこのまに、ちいさなものはまどにむかっててまえがわのふるしんぶんのうえに)

その部屋の奥の床の間に、小さなものは窓に向かって手前側の古新聞の上に

(おかれていた。そのへやの3ぶんの2ほどはそのぶつぞうぐんにうめつくされており、)

置かれていた。その部屋の3分の2程はその仏像群に埋め尽くされており、

(きみょうなことにそのすべてがぼくがはいってきたまどのほうにむけておかれている。しもだは)

奇妙なことにその全てが僕が入ってきた窓の方に向けて置かれている。下田は

(これをみてたじろいだのはめいはくだった。しょうじきなところぼくじしんにもそれほどよゆうは)

これを見てたじろいだのは明白だった。正直なところ僕自身にもそれほど余裕は

(なかったのだが、しもだにあのようなぼうげんをはきすてたいじょう、あともどりは)

なかったのだが、下田にあのような暴言を吐き捨てた以上、後戻りは

(できなかった。そしてすぐにぼくのあとにしもだもはいってきた。そのへやは)

できなかった。そしてすぐに僕の後に下田も入ってきた。その部屋は

(ぼくらにとって、しょうじきかなりいようだったので、そのこうけいになれるまでにすこしじかんが)

僕らにとって、正直かなり異様だったので、その光景に慣れるまでに少し時間が

(ひつようだった。ぶつぞうぐんがまどにむけておかれているということは、「まどになにかある」)

必要だった。仏像群が窓に向けて置かれているという事は、「窓に何かある」

(ということなのだろうか?すこしじかんをへて、まどにむかってひだりがわに、いまでは)

という事なのだろうか?少し時間を経て、窓に向かって左側に、今では

(どのいえにもいっぱんてきにあるようふうのひらきとびらと、りんしつにつづくふすまがあることにきがついた)

どの家にも一般的にある洋風の開き扉と、隣室に続く襖がある事に気が付いた

(ぼくらは、まずふすまのほうをあけてとなりのへやへいくことにした。あのときぼくは、)

僕らは、まず襖の方を開けて隣の部屋へ行くことにした。あのとき僕は、

(なぜかへやにほこりっぽさをかんじないことへのいわかんと、たたみのへやをくつのまま)

なぜか部屋に埃っぽさを感じないことへの違和感と、畳の部屋を靴のまま

(あるくということへのざいあくかんをおしころしてあるいていた。りんしつもたたみじきのへやで)

歩くという事への罪悪感を押し殺して歩いていた。隣室も畳敷きの部屋で

(だいたい6じょうくらいのひろさだった。そこにはぶつぞうはひとつもなかったのだが、かわりに)

大体6畳くらいの広さだった。そこには仏像は一つも無かったのだが、代わりに

(へやのちゅうおうにふとんがしいてあった。そのふとんはいままさにだれかがぬけでた)

部屋の中央に布団が敷いてあった。その布団は今まさに誰かが抜け出た

(ところのように、かけぶとんはめくれあがり、そのかぶにあたるところはぽっこりと)

ところのように、掛け布団はめくれ上がり、その下部に当たる所はぽっこりと

(あなになっていた。せいかつかんがあるとまではいかなかったが、それはぼくらに、そこに)

穴になっていた。生活感があるとまではいかなかったが、それは僕らに、そこに

(ぼくらいがいのにんげんがいるかのうせいをうかびあがらせ、ふたりのあいだにきんちょうがはしった。)

僕ら以外の人間がいる可能性を浮かび上がらせ、二人の間に緊張が走った。

(しかしれいせいにぶんせきしてみると、たしゃのけはいなどあるわけもなく、ふとんもながいあいだ)

しかし冷静に分析してみると、他者の気配などがあるわけもなく、布団も長い間

(しかれっぱなしのようであり、きたがわにあるすりがらすのまどからさしこむ)

敷かれっぱなしのようであり、北側にあるすりガラスの窓から差し込む

(ひにやけて、すこしちゃいろをおびてかんそうし、そのかたちのままかたくなっていた。そのとなりの)

日に焼けて、少し茶色を帯びて乾燥し、その形のまま固くなっていた。その隣の

(へやはまえのふたへやとくらべて、むこうがわがみえないほどだんぼーるにはいったにもつが)

部屋は前の二部屋と比べて、向こう側が見えないほど段ボールに入った荷物が

(やまづみにされていた。またてんじょうがおちていたり、たたみがぬけていたりと、なぜか)

山積みにされていた。また天井が落ちていたり、畳が抜けていたりと、何故か

(いようなほどあれていた。ぶつりてきないみできけんだったので、あまりふかくは)

異様な程荒れていた。物理的な意味で危険だったので、あまり深くは

(はいらなかったのだが、はいったすぐみぎてにはおしいれがあり、かちのありそうな)

入らなかったのだが、入ったすぐ右手には押入れがあり、価値のありそうな

(かけじくや、ねんだいもののちくおんき、くさってしまったくろこだいるのはくせいなどと、おおくの)

掛け軸や、年代物の蓄音機、腐ってしまったクロコダイルの剥製などと、多くの

(ものがおしこめられていた。かここのいえのしゅじんだったものはどうせならこれらを)

物が押し込められていた。過去この家の主人だった者はどうせならこれらを

(うりにだしておかねにかえればよかったのに、なぜそうしなかったのだろう?)

売りに出してお金に換えれば良かったのに、なぜそうしなかったのだろう?

(ぼくらはそんなことをはなしあった。にかいはへやもみっつだけで、さほどひろくも)

僕らはそんなことを話し合った。二階は部屋も三つだけで、さほど広くも

(なかった。にかいはだいたいしらべおわったので、さいしょのぶつぞうのへやにあるひらきとびらの)

なかった。二階は大体調べ終わったので、最初の仏像の部屋にある開き扉の

(むこう、ちいさなおどりばにつづくかいだんからしたのかいにいくことにした。そのおどりばには)

向こう、小さな踊場に続く階段から下の階に行くことにした。その踊場には

(ちいさなまどがあり、すじのようにようこうがさしこんでいた。かいだんのしたには)

小さな窓があり、筋のように陽光が射し込んでいた。階段の下には

(またどあがみえた。なんとなくかいだんをおりながらそこのかべにふれてみると、)

またドアが見えた。なんとなく階段をおりながらそこの壁に触れてみると、

(ふるくなっているのかそれはぼろぼろとすなのようにひょうめんがくずれおちた。そのかいだんは)

古くなっているのかそれはボロボロと砂のように表面が崩れ落ちた。その階段は

(じつにきみょうなもので、したからかぞえていちだんめにきでつくられたどあがある。)

実に奇妙なもので、下から数えて一段目に木で造られたドアがある。

(いちだんめのうえにどあがあるのだから、おりていくとさんだんめくらいでどあのぶを)

一段目の上にドアがあるのだから、降りていくと三段目くらいでドアノブを

(にぎることになるわけなのだが、そこからなので、そのどあのぶはいちてきにひくくて)

握る事になるわけなのだが、そこからなので、そのドアノブは位置的に低くて

(にぎりにくい。なぜこんなひごうりてきなところにどあがあるのだろう?そしてそのどあは)

握りにくい。なぜこんな非合理的な所にドアがあるのだろう?そしてそのドアは

(あかなかった。かぎあなもない。てんじょうはななめになっていたので、おしてあけるには)

開かなかった。鍵穴もない。天井は斜めになっていたので、押して開けるには

(ななめのてんじょうにあたってあけられない。ひいてあけるにはかいだんのにだんめがじゃまで)

斜めの天井に当たって開けられない。引いて開けるには階段の二段目が邪魔で

(あけられない。そしてなによりどあのぶもまわらなかった・・・、おそらくそれは)

開けられない。そして何よりドアノブも回らなかった・・・、恐らくそれは

(もともとまわるようにつくられてはいなかった。てれびやしょうせつのなかでしか)

もともと回るように作られてはいなかった。テレビや小説の中でしか

(みたことのないあかずのとびらが、たしかにぼくらのめのまえにそんざいしていた。)

見たことのない開かずの扉が、確かに僕らの目の前に存在していた。

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