先生の怖い話「廃屋」(3/11)

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投稿者投稿者ななっしーいいね0お気に入り登録
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(・・・あかないとびらとはなんのためにそんざいする・・・?そんなことはあのときには)

・・・開かない扉とは何の為に存在する・・・?そんなことはあの時には

(みじんもあたまにうかばなかった。おしてもひいてもびくともしないそれはただの)

微塵も頭に浮かばなかった。押しても引いてもびくともしないそれはただの

(かべにちかかった。そのどあはじょうげにひとつずつおおきなしかくけいがでざいんされていて、)

壁に近かった。そのドアは上下に一つずつ大きな四角形がデザインされていて、

(そのしかくけいのあいだにどあのぶがとりつけられているという、いまでもいっぱんてきな)

その四角形の間にドアノブが取り付けられているという、今でも一般的な

(でざいんだった。たしかにそのどあはあかなかったが、そのしたがわのしかくけいの)

デザインだった。確かにそのドアは開かなかったが、その下側の四角形の

(でざいんにそって、50せんちしほうくらいのあながきれいにぬかれていた。)

デザインに沿って、50センチ四方くらいの穴が綺麗に抜かれていた。

(かいだんのさんだんめあたりからひっしにみをよじってそのあなをのぞいてみると、むこうがわは)

階段の三段目辺りから必死に身をよじってその穴を覗いてみると、向こう側は

(かんぜんなやみがしはいしており、なつのひるまだというのになにもみえなかった。そとから)

完全な闇が支配しており、夏の昼間だというのに何も見えなかった。外から

(みたときにいっかいはかんぜんにあまどがしまっていたのであたりまえかもしれないが、ひのひかり)

見た時に一階は完全に雨戸が閉まっていたので当たり前かもしれないが、日の光

(あふれるにっちゅうに、きかいなかいだんから、きみょうなしせいでみるやみ、それらはぼくにとって)

溢れる日中に、奇怪な階段から、奇妙な姿勢で見る闇、それらは僕にとって

(おおいにふしぜんなものであり、そのやみのおくから、なにかがたえずぼくらに)

大いに不自然なものであり、その闇の奥から、なにかが絶えず僕らに

(めをむけているようなもうそうがつのるばかりだった。ぼくはそのやみをめにしてから、)

目を向けているような妄想が募るばかりだった。僕はその闇を目にしてから、

(「どうする・・・?」としもだにきいてみた。ひょっとするとぼくは、しもだが)

「どうする・・・?」と下田に聞いてみた。ひょっとすると僕は、下田が

(「もうかえろう」というのをきたいしていたのかもしれない。しかししもだは)

『もう帰ろう』と言うのを期待していたのかもしれない。しかし下田は

(ぼくのきたいにはんして、「じゃあ、おれがさきにいくわ。」といった。しもだもそれほど)

僕の期待に反して、「じゃあ、俺が先に行くわ。」と言った。下田もそれほど

(よゆうがあるかおをしていたわけではなかったのだが、もしかしたらあのまどのところで)

余裕がある顔をしていたわけではなかったのだが、もしかしたらあの窓の所で

(ぼくにさきにはいられたのをきにしていたのかもしれない。そしてかれはきみょうな)

僕に先に入られたのを気にしていたのかもしれない。そして彼は奇妙な

(しせいのまましかくいやみのなかにきえていった。そしてそのあとにぼくもしぶしぶ)

姿勢のまま四角い闇の中に消えていった。そしてその後に僕もしぶしぶ

(ついていった。なにもみえない。とりあえずしもだのけはいがするので、なまえを)

ついていった。何も見えない。とりあえず下田の気配がするので、名前を

(よびあっておたがいをかくにんし、きかいなどあにさえぎられているかいだんのおどりばからの)

呼びあってお互いを確認し、奇怪なドアに遮られている階段の踊場からの

など

(わずかなしかくいひかりをたよりに、ぼくらはしばらくどあのまえからうごけなかった。くらやみの)

僅かな四角い光を頼りに、僕らはしばらくドアの前から動けなかった。暗闇の

(たれこめるいっかい、まずはめがなれるまでそのばをうごかずにいた。じょじょにめが)

垂れ込める一階、まずは目が慣れるまでその場を動かずにいた。徐々に目が

(なれてくると、かいだんからのひかりとはべつにひだりこうほうのへやからかすかなひかりがみえる。)

慣れてくると、階段からの光とは別に左後方の部屋から微かな光が見える。

(そのひかりにさそわれるようにぼくらはそちらにむかった。よわいひかりがもれていたのは、)

その光に誘われるように僕らはそちらに向かった。弱い光が漏れていたのは、

(せんこく、そとからゆいいつのぞくことができただいどころだった。そとからみたとおりなかはきちんと)

先刻、外から唯一覗くことができた台所だった。外から見た通り中はきちんと

(せいとんされていて、はばが3めーとるいじょうもありそうなきょだいなきづくりのしょっきだなの)

整頓されていて、幅が3メートル以上もありそうな巨大な木造りの食器棚の

(なかには、ぼうだいなかずのさらがびっしりつまれていた。そのちゅうだんにはひきだしがあり、)

中には、膨大な数の皿がびっしり積まれていた。その中段には引出しがあり、

(そのひきだしをあけてみるとなかにはさまざまなものがいれられたままだった。)

その引出しを開けてみると中には様々な物が入れられたままだった。

(そしてあるべきではないものもあった・・・。よきんつうちょうとはんこだ。そのはんこは)

そしてあるべきではない物もあった・・・。預金通帳と判子だ。その判子は

(いぜんここにはfだというなのじゅうにんがいたとものがたっていて、またよきんつうちょうには)

以前ここにはF田という名の住人がいたと物語っていて、また預金通帳には

(かなりのざんだかもはいったままだった。じぶんのもつあきやのがいねんへのいわかんが)

かなりの残高も入ったままだった。自分の持つ空き家の概念への違和感が

(さらにました。おそらくだれしもがたずねたくなるといをあえてくちにはださず、せっとうを)

さらに増した。恐らく誰しもが尋ねたくなる問いを敢えて口には出さず、窃盗を

(するきにもならなかったので、ぼくらはただそれをみただけだった。それよりも)

する気にもならなかったので、僕らはただそれを見ただけだった。それよりも

(ぼくらにとっていまはあかりがひつようだった。そういうわけで、ぼくらはそのしなじなよりも、)

僕らにとって今は灯りが必要だった。そういうわけで、僕らはその品々よりも、

(そのとなりのたなにはいっていたいっぱんてきなろうそうくにちゅうもくした。ぼくらはたばこを)

その隣の棚に入っていた一般的な蝋燭に注目した。僕らは煙草を

(すわなかったのでらいたーももってはいなかったのだが、ちゃんとまっちも)

吸わなかったのでライターも持ってはいなかったのだが、ちゃんとマッチも

(おなじたなにあった。そしてうえのしょっきだなからさらをとりだしてろうそくをたてるだいにした。)

同じ棚にあった。そして上の食器棚から皿を取り出して蝋燭を立てる台にした。

(これでやっとあかりがてにはいった。いまかんがえてみると、それはわざわざこわいふんいきを)

これでやっと灯りが手に入った。今考えてみると、それはわざわざ怖い雰囲気を

(えんしゅつしてしまっているようだったが、そのときのぼくらにはそれにたいするきょうふを)

演出してしまっているようだったが、その時の僕らにはそれに対する恐怖を

(かんじるよゆうはなかった。ろうそくのあかりにてらされて、うすぐらかったまわりが)

感じる余裕はなかった。蝋燭の灯りに照らされて、薄暗かった周りが

(おぼろげではあるがはっきりしてきた。あたりまえだがだいどころにはみずけはなく、)

朧気ではあるがはっきりしてきた。当たり前だが台所には水気はなく、

(からからにかわいたふきんがながしだいのふちにおきざりにされていた。ただちょうど)

カラカラに乾いた布巾が流し台の縁に置き去りにされていた。ただちょうど

(まどのしたがわに、ながしだいにむかってたて40せんち、よこ20せんちほどのがらすけーすに)

窓の下側に、流し台に向かって縦40センチ、横20センチ程のガラスケースに

(はいったいちまつにんぎょうがおかれていた。そういえばせんこくのはなれのこべやにもおなじような)

入った市松人形が置かれていた。そういえば先刻の離れの小部屋にも同じような

(ものがあったのをおもいだした。うすぐらいだいどころのきのゆかのかたすみにぽつんとおかれた)

物があったのを思い出した。薄暗い台所の木の床の片隅にポツンと置かれた

(にほんにんぎょうはぶきみでかんしょうようともおもえないので、そのおかれたいとがわからず)

日本人形は不気味で観賞用とも思えないので、その置かれた意図がわからず

(ただせすじがひえるばかりだった。そのしょっきだなのすぐよこにからっぽのれいぞうこ、)

ただ背筋が冷えるばかりだった。その食器棚のすぐ横に空っぽの冷蔵庫、

(そしてそのかたすみにちかへつづくせまいかいだんがあった。あまりふかくまではいるきは)

そしてその片隅に地下へ続く狭い階段があった。あまり深くまで入る気は

(しなかったがすこしだけのぞいてみた。そこはせまいちかしつで、ちょくりつするのもこんなんなほど)

しなかったが少しだけ覗いてみた。そこは狭い地下室で、直立するのも困難な程

(てんじょうもひくかったが、よういにおくまでみることができた。つちでできたかべはもろくみえて、)

天井も低かったが、容易に奥まで見る事が出来た。土でできた壁は脆く見えて、

(かるいじしんでもおこればいっきにくずれてしまうのではないかというふあんにかられた。)

軽い地震でも起これば一気に崩れてしまうのではないかという不安に駆られた。

(そのちかしつのおくのかべのじょうほうにきでつくられたかんたんなたながみえた。そのたなのうえに)

その地下室の奥の壁の上方に木で造られた簡単な棚が見えた。その棚の上に

(ちゃいろいつぼがふたつおいてある。ひかりでてらしてなかをみてみると、そこにはどろどろの)

茶色い壺が二つ置いてある。光で照らして中を見てみると、そこにはドロドロの

(えきたいがはいっていた。みそでもちょぞうしていたのだろうとぼくはおもった。もういっぽうの)

液体が入っていた。味噌でも貯蔵していたのだろうと僕は思った。もう一方の

(つぼにはかんそうしたなにかがはいっていた。きたいしていたよりもふつうのものしかなく、)

壺には乾燥した何かが入っていた。期待していたよりも普通の物しかなく、

(ぼくらはそのちかしつをあとにしてふたたびだいどころにもどった。だいどころにもどるためにそのせまい)

僕らはその地下室を後にして再び台所に戻った。台所に戻るためにその狭い

(かいだんをのぼったのだが、ぼくらのめせんがそのゆかにさしかかったときに、あるきみょうな)

階段を上ったのだが、僕らの目線がその床に差し掛かった時に、ある奇妙な

(ものにきがついた。なにかがはえている・・・?それはだいどころのゆかのすみ、きれいに)

ものに気が付いた。何かが生えている・・・?それは台所の床の隅、綺麗に

(せいりされているだいどころとはまるでべつせかいのような、やく20せんちしほうにくぎられた)

整理されている台所とはまるで別世界のような、約20センチ四方に区切られた

(きのゆかに・・・、あかくぼろぼろにさびついたほうちょうが20ぽんいじょうもつきたてられて)

木の床に・・・、赤くボロボロに錆び付いた包丁が20本以上も突き立てられて

(いた・・・。ひろいだいどころのゆかのかたすみ、そのげんていされたいっかくだけに・・・。それは)

いた・・・。広い台所の床の片隅、その限定された一角だけに・・・。それは

(いようきわまるこうけいだった。うしろのきかいなかいだんよりも、おどろおどろしいあのかえるの)

異様極まる光景だった。後ろの奇怪な階段よりも、おどろおどろしいあの蛙の

(どうぞうよりも、ぼくのみはそうけだった。そのこぶりなほうちょうをぬいてみると、ゆかのなかに)

銅像よりも、僕の身は総毛立った。その小振りな包丁を抜いてみると、床の中に

(ささっていたはのぶぶんにはさびはなく、そとにでているぶぶんだけがさびている。)

刺さっていた刃の部分には錆は無く、外に出ている部分だけが錆びている。

(そのちいさなひとくかくにいったいなにがおこったのか・・・?いったいなぜ、ゆかをめったづきに)

その小さな一区画に一体何が起こったのか・・・?一体なぜ、床をめった突きに

(しなければならなかったのだろう・・・?そのときふと、いまこのくらやみのなかにひそむ)

しなければならなかったのだろう・・・?その時ふと、今この暗闇の中に潜む

(なにかがふいにおそってきたとしても、じぶんたちがせんこくにそとからかくにんしたとおり、)

何かが不意に襲ってきたとしても、自分達が先刻に外から確認した通り、

(くさりとあまどとくぎでがいかいからとざされたこのばしょにはにげばのないことがあたまにうかび、)

鎖と雨戸と釘で外界から閉ざされたこの場所には逃げ場の無い事が頭に浮かび、

(ぼくらのあいだにふあんときょうふがただよいはじめた。だいどころからつづくきぃきぃときしみごえをあげる)

僕らの間に不安と恐怖が漂い始めた。台所から続くキィキィと軋み声をあげる

(くらいきのろうかをあるき、つぎにみたのはふろばだった。ちいさくぼくらのあしおとやこえを)

暗い木の廊下を歩き、次に見たのは風呂場だった。小さく僕らの足音や声を

(はんきょうさせるかわききったそのふろばもまたかなりひろいつくりであり、そのくろくよごれた)

反響させる乾ききったその風呂場もまたかなり広い造りであり、その黒く汚れた

(せいほうけいのたいるでおおわれているよくそうだけみても3めーとるしほうはあっただろう。)

正方形のタイルで覆われている浴槽だけ見ても3メートル四方はあっただろう。

(ただいちようにぶきみであったのはどのへやにも、ろうかにも、そしてふろばの)

ただ一様に不気味であったのはどの部屋にも、廊下にも、そして風呂場の

(だついじょ、さらによくそうのとなりのあらいばにさえも、あのがらすけーすにはいったちいさな)

脱衣所、さらに浴槽の隣の洗い場にさえも、あのガラスケースに入った小さな

(にほんにんぎょうがおかれていることだった。にんぎょうやしきとよばれるゆえんとしては)

日本人形が置かれていることだった。人形屋敷と呼ばれる由縁としては

(ぴったりではあるが、あきらかにかんしょうようではないそれらのおかれたいとはまったく)

ピッタリではあるが、明らかに観賞用ではないそれらの置かれた意図は全く

(ふめいだった。そのときはぼくらはあのはんぶんだけかいちくされたぶぶんのいっかいに)

不明だった。その時は僕らはあの半分だけ改築された部分の一階に

(さしかかっていた。だついじょからつづくうすぐらいろうかのつきあたりにはしょさいがあった。)

差し掛かっていた。脱衣所から続く薄暗い廊下の突き当りには書斎があった。

(このへやはすりがらすがあって、そとのやわらかなひかりがさしこみふつうのいえのように)

この部屋はすりガラスがあって、外の柔らかな光が差し込み普通の家のように

(あかるかった。ようふうでみどりいろのそふぁやあしのないちょうほうけいのてーぶる、おおがたの)

明るかった。洋風で緑色のソファや脚の無い長方形のテーブル、大型の

(れこーどぷれーやーなどがあり、ふうけいがやかれんだーもかざってあった。しかし)

レコードプレーヤーなどがあり、風景画やカレンダーも飾ってあった。しかし

(へやのなかはというとあれていて、そざつにわられたれこーどや、ちりぢりにやぶれた)

部屋の中はというと荒れていて、粗雑に割られたレコードや、ちりぢりに破れた

(そのじゃけっとのざんがいなどがゆかやつくえのうえにさんらんしていた。へやのいりぐちのわきに)

そのジャケットの残骸などが床や机の上に散乱していた。部屋の入口の脇に

(ほんだながあった。あれているわりにはしょもつのたぐいはぶじで、そのほんだなのうえには)

本棚があった。荒れている割には書物の類は無事で、その本棚の上には

(あいかわらずにほんにんぎょうがおかれていた。たてかけられたしょもつのなかにあるばむが)

相変わらず日本人形が置かれていた。立て掛けられた書物の中にアルバムが

(あった。なんとはなしにぼくはそれをひらいてみた。そこにはかつてここに)

あった。何とはなしに僕はそれを開いてみた。そこにはかつてここに

(すんでいたのであろうろうしんしやろうじょがほほえんでいるしろくろのしゃしんが)

住んでいたのであろう老紳士や老女が微笑んでいる白黒の写真が

(おさめられたままだった。みてはいけなかったような・・・、なにかいいようのない)

納められたままだった。見てはいけなかったような・・・、何か言いようの無い

(きみのわるさをかんじて、ぼくはそのあるばむをたなにもどした。おそらくしもだもおなじことを)

気味の悪さを感じて、僕はそのアルバムを棚に戻した。恐らく下田も同じことを

(かんじたのだろう。かれのひょうじょうもこわばっていた。)

感じたのだろう。彼の表情も強張っていた。

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