先生の怖い話「廃屋」(4/11)

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投稿者投稿者ななっしーいいね0お気に入り登録
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(くちはてたそのしょさいのとなりには、あのくさりでとざされたげんかんがあった。あかるかった)

朽ち果てたその書斎の隣には、あの鎖で閉ざされた玄関があった。明るかった

(しょさいにくらべそのきょだいなげんかんのうちがわはまっくらで、ろうそくのひかりなしではほぼなにも)

書斎に比べその巨大な玄関の内側は真っ暗で、蝋燭の光なしではほぼ何も

(みえなかった。そこにはおおきなくつばこがあり、そのうえにはてつでできたはいざらのような)

見えなかった。そこには大きな靴箱があり、その上には鉄でできた灰皿のような

(ものやみんぞくふうのそうしょくだい、そして10たいをこえるきゅーぴーにんぎょうと3たいのにほんにんぎょうが)

物や民族風の装飾台、そして10体を超えるキューピー人形と3体の日本人形が

(かざられていた。くらやみのなかでろうそくでてらされたきゅーぴーにんぎょうぐんはこのうえなく)

飾られていた。暗闇の中で蝋燭で照らされたキューピー人形群はこの上なく

(ぶきみであり、またにほんにんぎょうとのみすまっちもそれにわをかけてぼくらをきょうふに)

不気味であり、また日本人形とのミスマッチもそれに輪をかけて僕らを恐怖に

(おとしいれた。にげばがない!でぐちがない!げんかんはもちろんあかないので、とにかく)

陥れた。逃げ場がない!出口がない!玄関はもちろん開かないので、とにかく

(たんさくをつづけるにしても、このやかたのいっかいにぼくらがじゆうにでいりできるでいりぐちが)

探索を続けるにしても、この館の一階に僕らが自由に出入りできる出入口が

(ひつようだった。とくにこのときのようにきょうこうじょうたいにおちいったときはことさら、「そとにいつでも)

必要だった。特にこの時のように恐慌状態に陥った時は殊更、『外にいつでも

(にげられる」というあんしんかんはひつようふかけつだった。このいえのいっかいのひがしがわは、)

逃げられる』という安心感は必要不可欠だった。この家の一階の東側は、

(かいだんをおりてきたへやをちゅうしんとして、そのまわりにろうかがあり、そのろうかぞいに)

階段を下りてきた部屋を中心として、その周りに廊下があり、その廊下沿いに

(ほかのへやがはいちされているらしく、げんかんのおくにはさいしょにおりてきたあのきかいな)

他の部屋が配置されているらしく、玄関の奥には最初に下りてきたあの奇怪な

(かいだんのへやがかくにんできた。とりあえずぼくらはやかたのひがしがわ、ようふうにかいちくされたほうの)

階段の部屋が確認できた。とりあえず僕らは館の東側、洋風に改築された方の

(いっかいはまわりきったようだ。そのときのぼくらのしんきょうは、にしがわのたんさくよりもでいりぐちを)

一階は回り切ったようだ。その時の僕らの心境は、西側の探索よりも出入口を

(さがしたいというきもちのほうがつよかった。そしてそれはいがいにもすぐに、ぶきみな)

探したいという気持ちの方が強かった。そしてそれは意外にもすぐに、不気味な

(げんかんのとなりのへやでじょうじゅすることとなった。そのげんかんのとなりのへやもまたあれていた。)

玄関の隣の部屋で成就する事となった。その玄関の隣の部屋もまた荒れていた。

(おそらくおうせつまだったのだろう、やぶれたそふぁがあり、あかぐろいしみがたくさん)

恐らく応接間だったのだろう、破れたソファがあり、赤黒い染みがたくさん

(あった。またそのへやのかべにはかなりおおきなくろいきんこがあった。ゆうに3にんは)

あった。またその部屋の壁にはかなり大きな黒い金庫があった。ゆうに3人は

(ひとがはいれるおおきさであろうそのきんこは、かべにはめこみがたのものなのにそのかべから)

人が入れる大きさであろうその金庫は、壁にはめ込み型の物なのにその壁から

(はんぶんいじょうもずりでていた。のちにいろいろとさわってみたのだがそのきんこがひらくことは)

半分以上もずり出ていた。後にいろいろと触ってみたのだがその金庫が開く事は

など

(なかった。そのへやには、そとからはきづかなかったのだが、こうしのはめこまれた)

なかった。その部屋には、外からは気付かなかったのだが、格子のはめ込まれた

(まどがあった。そのこうしをつかんですこしちからをいれると、おどろくほどかんたんにそのうちのいっぽんが)

窓があった。その格子を掴んで少し力を入れると、驚く程簡単にその内の一本が

(はずれた。しょうしょうせまいがとおれないこともなく、そこをとりあえずのでいりぐちにきめた。)

外れた。少々狭いが通れないこともなく、そこをとりあえずの出入口に決めた。

(げんかんでぼくらはいちじきょうこうじょうたいにおちいったのだが、でいりぐちがあるというあんしんかんからか、)

玄関で僕らは一時恐慌状態に陥ったのだが、出入口があるという安心感からか、

(ぼくらはもうすこしたんさくをつづけるということでごういした。ぶきみなげんかんをこうほうに、)

僕らはもう少し探索を続けるという事で合意した。不気味な玄関を後方に、

(きでできたひものようなのれんをくぐりぬけて、ぼくらはさいしょのかいだんのへやにふたたび)

木でできた紐のような暖簾をくぐり抜けて、僕らは最初の階段の部屋に再び

(たどりついた。さいしょにきたときはあかりをもっていなかったのでないぶをよくみることは)

たどり着いた。最初に来た時は灯りを持っていなかったので内部をよく見る事は

(できなかったのだが、こんかいはろうそくのあかりのおかげでぼんやりとだがみえることは)

できなかったのだが、今回は蝋燭の灯りのおかげでぼんやりとだが見えることは

(みえた。それはおもったよりもひろいよこながのへやで、みぎがわのおくのほうにかいだんからの)

見えた。それは思ったよりも広い横長の部屋で、右側の奥の方に階段からの

(よわよわしくしかくいひかりがみえた。そのへやにはおおきなしょくたくがあり、かこにこのばしょで)

弱々しく四角い光が見えた。その部屋には大きな食卓があり、過去にこの場所で

(このいえのじゅうにんたちがしょくじをとっていたのだとおもえた。しかしいまはらんざつに)

この家の住人たちが食事をとっていたのだと思えた。しかし今は乱雑に

(はこにはいったほんやらいえのそうしょくひんやらがつみあげられていて、りびんぐというよりも)

箱に入った本やら家の装飾品やらが積み上げられていて、リビングというよりも

(ふるどうぐやのそうこといったかんじだった。またはしらのわきのでんわだいにはじだいおくれの)

古道具屋の倉庫といった感じだった。また柱の脇の電話台には時代遅れの

(くろでんわがとりのこされていた。そのでんわのうえがわにはかれんだーがはしらにとめられた)

黒電話が取り残されていた。その電話の上側にはカレンダーが柱に留められた

(ままであり、またそのうえがわのてんじょうふきんには、ときをきざむことをやめてしまった)

ままであり、またその上側の天井付近には、時を刻むことをやめてしまった

(あかくふちどられたふりこどけいがしずかにかけられていた。そのとき、いぜんこの)

赤く縁どられた振り子時計が静かに掛けられていた。その時、以前この

(ゆうれいやしきのうわさをかたってくれた、ゆうじんのかめたにのはなしをおもいだした。かめたにはいぜん、)

幽霊屋敷の噂を語ってくれた、友人の亀谷の話を思い出した。亀谷は以前、

(しょうがくせいのころにかれのゆうじんたちといっしょに、このやかたにはいったことがあった。かれのはなしでは、)

小学生の頃に彼の友人達と一緒に、この館に入ったことがあった。彼の話では、

(そのころはこのいえのそともんにも、げんかんにもかぎなどはかかっておらず、すどおりできた)

その頃はこの家の外門にも、玄関にも鍵などはかかっておらず、素通りできた

(らしい。げんかんからはいってまっくらなしょうめんのへや、つまりぼくらがいまいるところなのだが、)

らしい。玄関から入って真っ暗な正面の部屋、つまり僕らが今いる所なのだが、

(そこについたとたんあかいふりこどけいがぶきみにときをきざみはじめた。いつなりやむとも)

そこに着いた途端赤い振り子時計が不気味に時を刻み始めた。いつ鳴り止むとも

(しらぬそのふきつなひびきのもととつぜんくろでんわがなりはじめたという。しょうがくせいである)

知らぬその不吉な響きのもと突然黒電話が鳴り始めたという。小学生である

(つよみなのかかめたにのゆうじんはそのでんわにでたらしい。しかしそのでんわのむこうからは)

強みなのか亀谷の友人はその電話に出たらしい。しかしその電話の向こうからは

(でんしおんはもとよりこえもつうわおんもなにもきこえなかった。ただこっぷを)

電子音はもとより声も通話音も何も聞こえなかった。ただコップを

(みみにちかづけたのとかわらぬように・・・。そのちょくご、へやのどこからか)

耳に近づけたのと変わらぬように・・・。その直後、部屋のどこからか

(おるごーるのおとがきこえはじめ、かめたにたちはこぞって、だれにむけてかもわからぬ)

オルゴールの音が聞こえ始め、亀谷達はこぞって、誰に向けてかもわからぬ

(ひれいをわびることばをれんこしながら、このいえからにげだしたのだという・・・。)

非礼を詫びる言葉を連呼しながら、この家から逃げ出したのだという・・・。

(ぼくはそれをきいたときははなしはんぶんで、それをさいしょからさいごまでつくりばなしだとばかり)

僕はそれを聞いた時は話半分で、それを最初から最後まで作り話だとばかり

(おもっていた。しかしまったくのきょげんとはおもえなくなってきた。かめたにのはなしには、たしかに)

思っていた。しかし全くの虚言とは思えなくなってきた。亀谷の話には、確かに

(このいえにきたしょうこがある。やかたのなかのちりてきなことやくろでんわのいち、そして)

この家に来た証拠がある。館の中の地理的な事や黒電話の位置、そして

(ふりこどけいのいろなど・・・。たしかにかめたにたちはこのいえにはいったのだろう。それは)

振り子時計の色など・・・。確かに亀谷達はこの家に入ったのだろう。それは

(げんじつとかれのしょうげんのいっちがものがたっている。とすると、このいえは5、6ねんまえまでは)

現実と彼の証言の一致が物語っている。とすると、この家は5、6年前までは

(げんかんのくさりもなく、だれでもはいることができて、でんわせんもそのころまではいきていたの)

玄関の鎖も無く、誰でも入る事ができて、電話線もその頃までは生きていたの

(だろうか?しかしあのげんかんのとびらのくさりは、そのあかさびたぐあいと、そのさびがげんかんの)

だろうか?しかしあの玄関の扉の鎖は、その赤錆びた具合と、その錆が玄関の

(とびらにつけたあかちゃいろいさびのいろ、どうかんがえてもかめたにのらいほうよりもまえからあのとびらに)

扉に付けた赤茶色い錆の色、どう考えても亀谷の来訪よりも前からあの扉に

(かかっていたようにおもえる。だがぼくはしろうとなのでさびのねんだいなどさっぱり)

かかっていたように思える。だが僕は素人なので錆の年代などさっぱり

(わからない。かぎもかけられずによきんつうちょうまでがのこっているあきやもかんがえてみれば)

わからない。鍵も掛けられずに預金通帳までが残っている空き家も考えてみれば

(きみょうなものなのだが・・・。そのはなしをおもいだしたぼくはそのくろでんわをみてみた。)

奇妙な物なのだが・・・。その話を思い出した僕はその黒電話を見てみた。

(それはもうすでにでんわとしてのきのうをはたしているわけもなく、ただのおきものに)

それはもう既に電話としての機能を果たしている訳もなく、ただの置物に

(なりさがっていた。ふとそのうらがわをみてみると、なんとでんわせんのこーどが)

なりさがっていた。ふとその裏側を見てみると、なんと電話線のコードが

(2せんちほどしかなく、そのせんたんはあきらかにじんいてきにせつだんされていた。ひとが)

2センチ程しかなく、その先端は明らかに人為的に切断されていた。人が

(でんわせんをせつだんするりゆうはまったくおもいうかばない。もしもじゅうにんがそのおとをみみざわりだと)

電話線を切断する理由は全く思い浮かばない。もしも住人がその音を耳障りだと

(かんじるのならば、そのこーどをぬいてしまえばいいだけなのだから・・・。)

感じるのならば、そのコードを抜いてしまえばいいだけなのだから・・・。

(あのだいどころのほうちょうにしろだついじょにまでおかれているにんぎょうにしろ、いみのわからない)

あの台所の包丁にしろ脱衣所にまで置かれている人形にしろ、意味のわからない

(ことがおおすぎる。そんなことをおもいながら、ふとそこにかかっているかれんだーに)

事が多すぎる。そんな事を思いながら、ふとそこにかかっているカレンダーに

(めがいった。そういえば、さっきしょさいでみたかれんだーとつきがちがっているような)

目がいった。そういえば、さっき書斎で見たカレンダーと月が違っているような

(きがした・・・。・・・そういえばだいどころにもかれんだーがなかったか・・・?)

気がした・・・。・・・そういえば台所にもカレンダーが無かったか・・・?

(しもだにそれをきいてみてもおぼえていないとのことだったので、あとでかくにんしようと)

下田にそれを聞いてみても覚えていないとの事だったので、後で確認しようと

(はなした。そのかれんだーのちょうどじょうほうのはしらには、いんでぃあんちょうのわらのような)

話した。そのカレンダーのちょうど上方の柱には、インディアン調の藁のような

(ものでつくられたちいさなにんぎょうがぶらさがっていた。とーてむぽーるをおもわせる)

もので作られた小さな人形がぶら下がっていた。トーテムポールを思わせる

(きみょうなもんようがえがかれたあざやかなむらさきいろのそのふくは、どこかこのやかたとはいしつな)

奇妙な文様が描かれた鮮やかな紫色のその服は、どこかこの館とは異質な

(ものであることをおもわせた。しもだがすこしはなれたところ、ちいさなかっしゃのついたでんわだいの)

ものであることを思わせた。下田が少し離れた所、小さな滑車の付いた電話台の

(ようなだいのうえに、てまきのおるごーるをみつけた。かめたにのしょうげんがまたしんじつみを)

ような台の上に、手巻きのオルゴールを見つけた。亀谷の証言がまた真実味を

(おびはじめた。まわしてみると、それはまだおとはなるようだったのだが、なにかに)

帯び始めた。回してみると、それはまだ音は鳴るようだったのだが、何かに

(ひっかかっているようで、すむーずにおとをかなでてはくれなかった。いまこのじょうきょうで)

引っ掛かっているようで、スムーズに音を奏でてはくれなかった。今この状況で

(きくそのたどたどしいねいろはぼくらにとってふあんをあおるひきつなものにしか)

聞くそのたどたどしい音色は僕らにとって不安を煽る不吉なものにしか

(きこえなかった。またそのへやはせんこくのだいどころのとなりにいちしていたので、)

聞こえなかった。またその部屋は先刻の台所の隣に位置していたので、

(かれんだーのかくにんをした。やはりとしはおなじだがつきがちがっていて、だいどころのそれの)

カレンダーの確認をした。やはり年は同じだが月が違っていて、台所のそれの

(ほうがあとのきせつになっている。ぼくらのようなぼうけんしゃが、いたずらにかれんだーを)

方が後の季節になっている。僕らのような冒険者が、いたずらにカレンダーを

(ちぎったとかていしてみたが、しゅうへんにそのざんがいはのこされていなかった。だれかの)

ちぎったと仮定してみたが、周辺にその残骸は残されていなかった。誰かの

(いたずらならまだいい・・・。しかしもしそうでなかったなら・・・、へやごとに)

悪戯ならまだいい・・・。しかしもしそうでなかったなら・・・、部屋ごとに

(ちがうかれんだーには、どんないみがこめられているのだろう?しょさいのそれも)

違うカレンダーには、どんな意味が込められているのだろう?書斎のそれも

(かくにんしたかったのだが、そこまでもどるのはいやだったのでそのときはあきらめた。)

確認したかったのだが、そこまで戻るのは嫌だったのでその時はあきらめた。

(あとあとわかったことだが、しょさいのかれんだーはつきどころかとしもちがっていた。つきでなく)

後々わかった事だが、書斎のカレンダーは月どころか年も違っていた。月でなく

(としがちがうということは、あたらしいかれんだーをこうにゅうしたものがいたはずだ。かつての)

年が違うという事は、新しいカレンダーを購入した者がいたはずだ。かつての

(やかたのじゅうにんがそうしたのなら、なぜしょさいのそれだけなのだろう・・・?)

館の住人がそうしたのなら、なぜ書斎のそれだけなのだろう・・・?

(またひとつふにおちないぎもんがむねのなかにちくせきされた。そのへやのなか、)

また一つ腑に落ちない疑問が胸の中に蓄積された。その部屋の中、

(だいどころへのほうこうとはべつにまだみちのりょういきにつながるまっくらなろうかがみえた。)

台所への方向とは別に、まだ未知の領域に繋がる真っ暗な廊下が見えた。

(いまぼくらはやかたのにしがわのだいかんやしきのほうにあしをふみいれようとしていた。)

今僕らは館の西側の代官屋敷の方に足を踏み入れようとしていた。

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