先生の怖い話「廃屋」(5/11)

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投稿者投稿者ななっしーいいね0お気に入り登録
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(ろうかのひだりがわに、ぼろぼろでもうほとんどかみものこっていないはんびらきのしょうじのおくに、)

廊下の左側に、ボロボロでもうほとんど紙も残っていない半開きの障子の奥に、

(いままでとはくらべものにならない、このへやだけどくりつしていっかいてんでもしたのか?)

今までとは比べ物にならない、この部屋だけ独立して一回転でもしたのか?

(とおもうほどのこうはいをしめすへやがあった。たたみじきで12じょうほどのそのへやは)

と思うほどの荒廃を示す部屋があった。畳敷きで12畳ほどのその部屋は

(たんすがたおれていたり、なげちらかされたいるいやおちたがく、ほうりだされたままの)

タンスが倒れていたり、投げ散らかされた衣類や落ちた額、放り出されたままの

(ふとんなどでゆかがみえないほどであった。ただこのいえにおいて、どのような)

布団などで床が見えない程であった。ただこの家において、どのような

(かたちであってもいるいのたぐいをみることはめずらしく、ぴんくいろのとれーなーのようなもの、)

形であっても衣類の類を見る事は珍しく、ピンク色のトレーナーのようなもの、

(またこふうのしっかりしたきじのきもののようなものもみうけられた。このへやの)

また古風のしっかりした生地の着物のようなものも見受けられた。この部屋の

(たたみはくさっているのかしずみこむようなふかいなかんかくがくつをとおしてつたわってくる。)

畳は腐っているのか沈み込むような不快な感覚が靴を通して伝わってくる。

(しっくいのかべにはおおきなひっかききずのようなものがあった。きのてんじょうはひびわれ、)

漆喰の壁には大きな引っ掻き傷のようなものがあった。木の天井はひび割れ、

(たれさがり、3かしょほどしたからうえにながいぼうのようなものでつきやぶったかのような、)

垂れ下がり、3か所ほど下から上に長い棒のような物で突き破ったかのような、

(おしあげられてあいたようなあながあいていた。そのてんじょうにはところどころしみが)

押し上げられて開いたような穴が開いていた。その天井にはところどころ染みが

(あり、それがぼくにはなにかくつしたをはいたちいさなにんげんのあしあとにもみえたのだが、)

あり、それが僕にはなにか靴下を履いた小さな人間の足跡にも見えたのだが、

(そんなわけはないとおもいなおし、ひげんじつてきなもうそうをひていした。またこのへやにあった)

そんな訳はないと思い直し、非現実的な妄想を否定した。またこの部屋にあった

(かれんだーはだいどころにあったかれんだーとおなじつきだった。だれがなんのために)

カレンダーは台所にあったカレンダーと同じ月だった。誰が何のために

(このへやをここまであらしたのだろう・・・?よきんつうちょうやはんこならもっと)

この部屋をここまで荒らしたのだろう・・・?預金通帳や判子ならもっと

(わかりやすいだいどころのひきだしにみうけられたはずなのに・・・。そのせいさんなへやの)

わかりやすい台所の引出しに見受けられたはずなのに・・・。その凄惨な部屋の

(となりにあるうすぐらいへやのかたすみに、とうしょからぼくらがもくてきにしていたものがさびしく)

隣にある薄暗い部屋の片隅に、当初から僕らが目的にしていたものが寂しく

(おかれていた。あのうわさのとうしんだいのにほんにんぎょうが。そのへやは、となりとは)

置かれていた。あの噂の等身大の日本人形が。その部屋は、隣とは

(うってかわっておだやかで、たたみのゆかもちらかっているようすはなかった。おおきな)

うって変わって穏やかで、畳の床も散らかっている様子はなかった。大きな

(がらすけーすにはいったそのにんぎょうは、120せんちほどのしんちょうで、かこの)

ガラスケースに入ったその人形は、120センチ程の身長で、過去の

など

(にほんじんじょせいがしていたようにそのながいかみはうしろにゆわれていて、のっぺりと)

日本人女性がしていたようにその長い髪は後ろに結われていて、のっぺりと

(むひょうじょうなにんげんてきではないしろいかお、そしてあわいむらさきいろのきものをきて、にほんぶようでも)

無表情な人間的ではない白い顔、そして淡い紫色の着物を着て、日本舞踊でも

(おどっているかのように、かたてをあたまのうえあたりにあげていた。そのがらすけーすの)

踊っているかのように、片手を頭の上あたりに上げていた。そのガラスケースの

(したがわのすみには、ちいさなきのいたがたてられており、そこには「おこと」と)

下側の隅には、小さな木の板が立てられており、そこには『お琴』と

(かかれていた。そのとなりには4たいのいつものおおきさのにほんにんぎょうがとこのまに)

書かれていた。その隣には4体のいつもの大きさの日本人形が床の間に

(おかれていた。へやのいりぐちからくらやみのおく、ろうそくのあかりにてらされてぼんやりと)

置かれていた。部屋の入口から暗闇の奥、蝋燭の灯りに照らされてぼんやりと

(みえたそのとうしんだいのにほんにんぎょうには、なぜかふたりともきょうふをかんじなかった。)

見えたその等身大の日本人形には、なぜか二人とも恐怖を感じなかった。

(このやかたにおいてずっとかんじてきたひにちじょうてきなくうかんのれんぞくに、ぼくらのこころは)

この館においてずっと感じてきた非日常的な空間の連続に、僕らの心は

(なれてしまったのだろう・・・、まったくれいせいにその「おこと」とむきあうことが)

慣れてしまったのだろう・・・、まったく冷静にその『お琴』と向き合うことが

(できた。ふとそとのきぎがかぜにふかれてすれあうさーっというおとがきこえた。)

できた。ふと外の木々が風に吹かれて擦れ合うサーっという音が聞こえた。

(それにまじって、とおくかすかになにかふえのおとのようなおとがきこえたようなきがした。)

それに混じって、遠く微かに何か笛の音のような音が聞こえたような気がした。

(おそらく、かぜがいどかなにかときょうめいしてそんなおとをだすのだろう・・・。しもだに)

恐らく、風が井戸か何かと共鳴してそんな音を出すのだろう・・・。下田に

(かくにんするとそんなこたえがかえってきて、ぼくはなっとくせざるをえなかった。そのへやは)

確認するとそんな答えが返ってきて、僕は納得せざるを得なかった。その部屋は

(ふるいどのてまえにあったろうかのつきあたり、せんこくそとからあけようとしたきのひきどの)

古井戸の手前にあった廊下の突き当り、先刻外から開けようとした木の引戸の

(うちがわだった。いちてきに「おこと」のむかいがわにそのきのひきどがあった。とっての)

内側だった。位置的に『お琴』の向かい側にその木の引戸があった。取っ手の

(あるちいさなてつでつくられたぼうのようなかぎをひきぬいてとをあけようとしたのだが、)

ある小さな鉄で造られた棒のような鍵を引き抜いて戸を開けようとしたのだが、

(そとからうたれたくぎにひっかかっているようでかんたんにはあかなかった。ぼくらが)

外から打たれた釘に引っ掛かっているようで簡単には開かなかった。僕らが

(なんどもがたがたやっているうちに、そのひきどごとはずれてしまった。こわすきは)

何度もガタガタやっている内に、その引戸ごと外れてしまった。壊す気は

(なかったのだが、ともかくこれでだいにのだっしゅつけいろはおさえたわけだ。はずれて)

なかったのだが、ともかくこれで第二の脱出経路はおさえたわけだ。外れて

(しまったひきどをむりやりもとのばしょにおしこんで、なつかしくかんじるそとにめを)

しまった引戸を無理やり元の場所に押し込んで、懐かしく感じる外に目を

(むけると、ひはかたむいてはいたが、まだまだくらくなるけはいはなかった。けっして)

向けると、日は傾いてはいたが、まだまだ暗くなる気配はなかった。決して

(つよくはないかぜのなか、このはがゆれてすれるおとがどうにもぼくのふあんなかんじょうを)

強くはない風の中、木の葉が揺れて擦れる音がどうにも僕の不安な感情を

(かきたてた。とうしょのにんぎょうをみるというもくてきははたしたわけなので、もうかえっても)

掻き立てた。当初の人形を見るという目的は果たしたわけなので、もう帰っても

(よかったのだが、おことのあるへやからつづくくらいろうかのつきあたりに、はんびらきに)

よかったのだが、お琴のある部屋から続く暗い廊下の突き当りに、半開きに

(なったしろいふすまがみえかくれしていた。・・・せっかくきたのだからのこりのへやも)

なった白い襖が見え隠れしていた。・・・せっかく来たのだから残りの部屋も

(みてみよう・・・。どちらともなしにぼくらはそういうふんいきになり、おことの)

見てみよう・・・。どちらともなしに僕らはそういう雰囲気になり、お琴の

(へやのでいりぐちをあけはなしたままにしておいて、じっしつじょうこのやかたでさいごとなるへや、)

部屋の出入口を開け放したままにしておいて、実質上この館で最後となる部屋、

(このやしきからにげだすじゅうぶんなりゆうとなったばしょにむかった。とちゅう、ろうそくの)

この屋敷から逃げ出す十分な理由となった場所に向かった。途中、蝋燭の

(うすあかりにしろくはんしゃしてみえるそのかざりふすまのてまえ、ろうかのわきにかべにはめこむかたちで)

薄明かりに白く反射して見えるその飾り襖の手前、廊下の脇に壁にはめ込む形で

(しかくくたながつくられており、そこにはまたにほんにんぎょうがかざられていた。)

四角く棚が作られており、そこにはまた日本人形が飾られていた。

(そのさいごのへやというのは、せんこくそとからみたときにくぎのうたれたあまどのうちがわに)

その最後の部屋というのは、先刻外から見た時に釘の打たれた雨戸の内側に

(いちするばしょであり、たたみじきのかなりひろいへやだった。はんびらきになったふすまから)

位置する場所であり、畳敷きのかなり広い部屋だった。半開きになった襖から

(おそるおそるのぞいてみたが、なかはまっくらでなにもみえなかった。そのへやは)

おそるおそる覗いてみたが、中は真っ暗で何も見えなかった。その部屋は

(そのひろさゆえ、ろうそくのひかりではよわすぎてぜんぼうをてらしだすことはできず、)

その広さゆえ、蝋燭の光では弱すぎて全貌を照らし出すことはできず、

(えいえんにつづいているかとおもわれるようなやみのせかいだった。まひるのくらやみへのきょうふには)

永遠に続いているかと思われるような闇の世界だった。真昼の暗闇への恐怖には

(もうかんぜんになれきってしまっていたのだが、それよりもまなつであまどがしめきられ)

もう完全に慣れ切ってしまっていたのだが、それよりも真夏で雨戸が締め切られ

(むしあつく、そのたぐいのふへいふまんはかぞえあげればきりがなかったのだが、そのへやに)

蒸し暑く、その類の不平不満は数え上げればキリがなかったのだが、その部屋に

(はいったとどうじに、ぼくらはせいしんてきなものではなく、たいかんできるさむけをかんじた。)

入ったと同時に、僕らは精神的なものではなく、体感できる寒気を感じた。

(「なぁ、このへやなんかさむくない?なんかかぜもふいてるような・・・」)

「なぁ、この部屋なんか寒くない?なんか風も吹いてるような・・・」

(「ほんまやな、れいぼうでもついてるんちゃう?」としもだはじょうだんをいったつもり)

「ほんまやな、冷房でもついてるんちゃう?」と下田は冗談を言ったつもり

(なのだろうが、そのかおがあまりにしんこくなかおなのでじょうだんにきこえなかった。)

なのだろうが、その顔があまりに深刻な顔なので冗談に聞こえなかった。

(ただそのばにいたふたりとも、せいしんてきにではなく、さむいとたいかんしたのはたしかなことの)

ただその場にいた二人とも、精神的にではなく、寒いと体感したのは確かな事の

(ようだった。ふとしもだのろうそくのあかりがきえてしまった。ぼくらはいちおう、だいどころから)

ようだった。ふと下田の蝋燭の灯りが消えてしまった。僕らは一応、台所から

(まっちももってきていたので、またひをつけることはできたのだが、それが)

マッチも持ってきていたので、また火をつけることはできたのだが、それが

(きえたりゆうとして、そこにはほんとうにかぜがふいていたのかもしれない・・・。)

消えた理由として、そこには本当に風が吹いていたのかもしれない・・・。

(ぼくらはそのとき、いりぐちのふすまをせに、へやのいりぐちからはいってすぐのところによこにならんで)

僕らはその時、入口の襖を背に、部屋の入口から入ってすぐの所に横に並んで

(たっていた。しもだはぼくのひだりがわにたっていた。あかりもとどかないそのくらやみのなか、)

立っていた。下田は僕の左側に立っていた。灯りも届かないその暗闇の中、

(ぼくはじぶんのみぎがわのすこしはなれたところになにかがみえたようなきがした。すこしずつ、)

僕は自分の右側の少し離れた所に何かが見えたような気がした。少しずつ、

(ゆっくりとそのなにかときょりをつめていくと、それはたんすだった。)

ゆっくりとその何かと距離を詰めていくと、それはタンスだった。

(そのたんすにはおそらくそこになにかをかざれるよう、じょうほうにひきだしいちだんぶんほどの)

そのタンスには恐らくそこに何かを飾れるよう、上方に引出し一段分ほどの

(くうかんがあった。そこにはいつものにんぎょうはなく、かわりにいちまいのしきしがあった。)

空間があった。そこにはいつもの人形は無く、代わりに一枚の色紙があった。

(ろうそくでてらしてみるとそこにはおくやみのことばなのか、ひとがしんだときに)

蝋燭で照らしてみるとそこにはお悔やみの言葉なのか、人が死んだ時に

(おくられるようなことばのようなものがかかれてあった。「きみがしに・・・」)

贈られるような言葉のようなものが書かれてあった。『君が死に・・・』

(ぼうとうしかおぼえていないがそんなくからはじまっていた。そしてそのしのさいごに、)

冒頭しか覚えていないがそんな句から始まっていた。そしてその詩の最後に、

(おもおもしくどこかのかいちょうときざまれたはんがおしてあった。ぼくはそれをみていっきに)

重々しくどこかの会長と刻まれた判が押してあった。僕はそれを見て一気に

(おそろしくなって、うしろをふりかえった。するとてっきりついてきているとばかり)

恐ろしくなって、後ろを振り返った。するとてっきりついて来ているとばかり

(おもっていたしもだはそこにいなかった。こんなところにたったひとりでのこされたのかと)

思っていた下田はそこにいなかった。こんな所にたった一人で残されたのかと

(おもってすこしあせったが、すこしはなれたところにしもだのろうそくのあかりがみえる。ぼくはしもだを)

思って少し焦ったが、少し離れた所に下田の蝋燭の灯りが見える。僕は下田を

(よぼうとした。「おい、しもだ、きもちわるいもんみつけたぞ!」といいおわらない)

呼ぼうとした。「おい、下田、気持ち悪いもん見つけたぞ!」と言い終わらない

(うちに、ぼくをよぶしもだのひめいにちかいこえにぼくのこえはかきけされた。あまりにひっしな)

内に、僕を呼ぶ下田の悲鳴に近い声に僕の声はかき消された。あまりに必死な

(さしせまったこえだったので、ぼくはとりあえずそのしきしをもとのところにもどしてしもだのほうへ)

差し迫った声だったので、僕はとりあえずその色紙を元の所に戻して下田の方へ

(むかうことにした。しもだのところにむかうとちゅう、あかりをとおしてうっすらとみえるゆかの)

向かうことにした。下田の所に向かう途中、灯りを通してうっすらと見える床の

(たたみには、とうかんかくでむかいあうようになんくみかのざぶとんがしかれたままだった。ほかの)

畳には、等間隔で向かい合うように何組かの座布団が敷かれたままだった。他の

(へやとくらべてはこにはいったにもつもなく、あまりにきれいでせいとんされたままだった。)

部屋と比べて箱に入った荷物も無く、あまりに綺麗で整頓されたままだった。

(しもだはへやのおくにあるかべぎわにいた。そのかべはいちめん、きょだいなくろいぶつだんであり、)

下田は部屋の奥にある壁際にいた。その壁は一面、巨大な黒い仏壇であり、

(はっきりとはしないがはばは5めーとるいじょうもありそうだった。そのぶつだんのとびらは)

はっきりとはしないが幅は5メートル以上もありそうだった。その仏壇の扉は

(ひらかれたままであり、ちゅうしんにはきんいろのかんのんさまはもとより、しろくろしゃしんのいえいまで)

開かれたままであり、中心には金色の観音様はもとより、白黒写真の遺影まで

(のこっていた。そのしゃしんにはえがおのろうじんのじょせいがうつっていた。きらきらとろうそくの)

残っていた。その写真には笑顔の老人の女性が写っていた。キラキラと蝋燭の

(あかりにはんしゃしてひかるきんいろのそうしょくひんがやけにちんぷなものにみえた。ただぼくには、)

灯りに反射して光る金色の装飾品がやけに陳腐な物に見えた。ただ僕には、

(そのいえいにはすこしみのけがよだったが、それほどそのぶつだんがおそろしいとは)

その遺影には少し身の毛が弥立ったが、それほどその仏壇が恐ろしいとは

(おもえなかった。「おいおい、こんなんでびびってたらあかんやろ~。」と、)

思えなかった。「おいおい、こんなんでびびってたらあかんやろ~。」と、

(なかばしもだをばかにするようにいってのけた。するとしもだは、)

なかば下田を馬鹿にするように言ってのけた。すると下田は、

(「ちがう、そっちじゃない・・・、そっちじゃないねん・・・。」)

「違う、そっちじゃない・・・、そっちじゃないねん・・・。」

(とおびえるようにべつのほうこうをゆびさしていた。)

と怯えるように別の方向を指さしていた。

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