先生の怖い話「廃屋」(7/11)

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投稿者投稿者ななっしーいいね1お気に入り登録
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(ぼくにはわからなかったのだが、こうりょうとしたくらいへやのなかで、なにかがたたみのうえを)

僕にはわからなかったのだが、荒涼とした暗い部屋の中で、何かが畳の上を

(いそぎあしで、しかもふくすうにんの、うろうろしているようなかすかなあしおとのようなものが)

急ぎ足で、しかも複数人の、ウロウロしているような微かな足音のようなものが

(きこえた、とかれはいった。そしてかれは、みょうなにおいがするといいはじめた。)

聞こえた、と彼は言った。そして彼は、妙な臭いがすると言い始めた。

(いわれてみるとぼくがせんこくかんじたふかいなにおいはあたりにじゅうまんしつつあった。)

言われてみると僕が先刻感じた不快な臭いは辺りに充満しつつあった。

(それはなにかなまぐさいにおいで、さかなをほしたあと、またみずにひたしてもどしたような、)

それは何か生臭い臭いで、魚を干した後、また水に浸して戻したような、

(いやなにおいだった。しりょくではありえないいようなかんかくをかんじはじめたぼくらに、)

嫌な臭いだった。視力ではありえない異様な感覚を感じ始めた僕らに、

(おいうちをかけるように、こうほうから、いやせいかくにはこうほうのにかいのほうから、)

追い打ちをかけるように、後方から、いや正確には後方の二階の方から、

(またかすかではあるがなにかがうごくきみょうなおとがきこえた。そのおとはたたみのうえを)

また微かではあるが何かが動く奇妙な音が聞こえた。その音は畳の上を

(ゆっくりとなにかをひきずるようなおとで、たんちょうではあるがあるいっていのりずむを)

ゆっくりと何かを引きずるような音で、単調ではあるがある一定のリズムを

(きざんでいた。そしてそのおとはゆっくりとにかいをかいだんのほうにむかってきている)

刻んでいた。そしてその音はゆっくりと二階を階段の方に向かってきている

(ようにかんじた。そのおとのしょうたいはいまだにわからない。ごうりてきかいしゃくとして、それは)

ように感じた。その音の正体は未だにわからない。合理的解釈として、それは

(かぜがえだのようなものをやかたのかべにおしつけて、ゆっくりとうごいてけずれていくような)

風が枝のようなものを館の壁に押し付けて、ゆっくりと動いて削れていくような

(おとのようにもおもえるが、そのふしぎなおとはそのやかたでぼくらがはじめてきくいしつな)

音のようにも思えるが、その不思議な音はその館で僕らが初めて聞く異質な

(おとだった。かがみがないことや、みずたまりのあとなど、そのていどのきみょうなことはこのやかたには)

音だった。鏡が無い事や、水溜りの跡など、その程度の奇妙な事はこの館には

(つきものであり、それほどきにはならなかったのだが、このときのやみよりもくろいかげ、)

付き物であり、それほど気にはならなかったのだが、この時の闇よりも黒い影、

(そのふかいきわまるいしゅうと、ちかづいてくるふあんをあおるおとははじめてこのへやへ)

その不快極まる異臭と、近づいてくる不安を煽る音は初めてこの部屋へ

(はいったときのわすれかけていたきょうふいじょうのものをおもいださせてくれた。すべては)

入った時の忘れかけていた恐怖以上のものを思い出させてくれた。全ては

(きのせいだとじぶんにいいきかせようとしたが、ごかんにうったえかけてくるきょうふにより)

気のせいだと自分に言い聞かせようとしたが、五感に訴えかけてくる恐怖により

(ぼくらのかんかくは、にかいのはいずるようなおとをだすものがかいだんをおりてくるまえに)

僕らの感覚は、二階の這いずるような音を出すものが階段を下りてくる前に

(このやかたからにげだしたほうがいい、とひっしにうったえた。けっきょく、そのぶつだんのへやに)

この館から逃げ出した方が良い、と必死に訴えた。結局、その仏壇の部屋に

など

(あしをふみいれることはできなかった。もちろんしゃしんをとるよゆうなどあるわけもなく、)

足を踏み入れる事はできなかった。もちろん写真を撮る余裕などある訳もなく、

(じわりじわりとつよくなるいしゅうと、もうにかいのたたみのへやをとおりこして、いまやかいだんの)

じわりじわりと強くなる異臭と、もう二階の畳の部屋を通り越して、今や階段の

(おどりばからこちらへおりてこようとしているようなそのおとから、いそぎやかたを)

踊場からこちらへ下りてこようとしているようなその音から、急ぎ館を

(にげだした。あせだくだくでそのやかたからにげだしたぼくらは、すこしおちつくまで)

逃げ出した。汗だくだくでその館から逃げ出した僕らは、少し落ち着くまで

(ちかくのこうえんのべんちにこしをおろしていた。せんこくのことをおたがいにはなしあってみた)

近くの公園のベンチに腰を下ろしていた。先刻の事をお互いに話し合ってみた

(ところで、もちろんこたえなどでるはずもなく、じかんがたつとともにそれは)

ところで、もちろん答えなど出るはずもなく、時間が経つと共にそれは

(きのせいであったとふたりでむりやりなっとくし、つぎはもっとおおぜいなかまをつれて、)

気のせいであったと二人で無理やり納得し、次はもっと大勢仲間を連れて、

(にかいになにかひきずったあとがあるかどうかや、あのぶつだんのへやをしらべよう、などと)

二階に何か引きずった跡があるかどうかや、あの仏壇の部屋を調べよう、などと

(はなしていた。そのひぼくらはよていしていたよりもはやくたんさくをおえてしまったので、)

話していた。その日僕らは予定していたよりも早く探索を終えてしまったので、

(まだまだひはたかくそとはあかるかった。しかしくもりぞらということもあってどんよりと)

まだまだ日は高く外は明るかった。しかし曇り空という事もあってどんよりと

(していたせいか、そのこうえんにひとかげはなかった。しもだはそのとき、かれがかよっていた)

していたせいか、その公園に人影は無かった。下田はその時、彼が通っていた

(じゅくになつやすみのかだいをわすれていたらしく、それをとりにいかなければならないと)

塾に夏休みの課題を忘れていたらしく、それを取りに行かなければならないと

(いった。ぼくはとりあえずなにもようじはなかったので、そのこうえんでしもだとわかれ、)

言った。僕はとりあえず何も用事はなかったので、その公園で下田と別れ、

(おとなしくじぶんのいえにかえることにした。ぼくのいえはそのこうえんからすこしはなれていて、)

おとなしく自分の家に帰る事にした。僕の家はその公園から少し離れていて、

(いえにつくまでのみちはいっぽんちょうしののぼりざかになっていたので、じてんしゃでかえるのは)

家に着くまでの道は一本調子の上り坂になっていたので、自転車で帰るのは

(なかなかたいへんなみちのりだった。しかたなく、いつもがっこうからかえるときにつかうそのみちを)

なかなか大変な道のりだった。仕方なく、いつも学校から帰る時に使うその道を

(だらだらじてんしゃをこいでいると、ふとなにかがいつもとちがうことにきがついた。)

ダラダラ自転車をこいでいると、ふと何かがいつもと違う事に気が付いた。

(・・・そのみちはしずかすぎた。8がつのおわりのごごだというのに、せみのこえが)

・・・その道は静かすぎた。8月の終わりの午後だというのに、蝉の声が

(いっさいきこえなかった。くるまのおとも、ふきんのいえいえからきこえてきてもいいはずの)

一切聞こえなかった。車の音も、付近の家々から聞こえてきてもいいはずの

(せいかつおんも、なにひとつきこえなかった。またそのみちはけっしてひとどおりのすくないみちでは)

生活音も、何一つ聞こえなかった。またその道は決して人通りの少ない道では

(ないはずで、にぎわうはずのにちようびのごごなのにまったくひとけがなかった。)

ないはずで、賑わうはずの日曜日の午後なのに全く人気が無かった。

(そのいわかんにきづいてからよくよくまわりをみわたしてみると、かぜもふいていない、)

その違和感に気づいてからよくよく周りを見渡してみると、風も吹いていない、

(とりもとんでいない、まるでこの1まいのふうけいがのなかを、ぼくはたったひとりで)

鳥も飛んでいない、まるでこの1枚の風景画の中を、僕はたった一人で

(うごいているような、そんなそうぞうがあたまにうかんだ。じぶんのじてんしゃをこぐ)

動いているような、そんな想像が頭に浮かんだ。自分の自転車をこぐ

(きぃきぃというおとと、あせだくのいきづかいがやけにおおきくきこえたのをせんめいに)

キィキィという音と、汗だくの息遣いがやけに大きく聞こえたのを鮮明に

(おぼえている。しかしぼくはどんかんかもしくはらくてんてきで、めずらしいこともあるもんだ、と)

覚えている。しかし僕は鈍感かもしくは楽天的で、珍しい事もあるもんだ、と

(それをきにもとめずにさかをのぼっていた。すると、しかいのひだりはしすぐそばに、)

それを気にも留めずに坂を上っていた。すると、視界の左端すぐ傍に、

(ほんのかすかだったが、ちいさなしろいぬののようなものが、ぱたぱたとかぜに)

ほんの微かだったが、小さな白い布のようなものが、パタパタと風に

(なびいているようなものがみえた。・・・なんだろう、なにかついているのかな?)

なびいているようなものが見えた。・・・何だろう、何かついているのかな?

(とひだりにふりかえってもなにもない。またまえをみてじてんしゃをこぎはじめると、こんどは)

と左に振り返っても何もない。また前を見て自転車をこぎ始めると、今度は

(みぎがわにおなじようにぱたぱたとなにかがみえる。しかしやはりそこにもなにも)

右側に同じようにパタパタと何かが見える。しかしやはりそこにも何も

(なかった。またじてんしゃをこぎはじめる・・・。するとこんどはぼくのうなじに、)

なかった。また自転車をこぎ始める・・・。すると今度は僕のうなじに、

(つめたくもあつくもないなにか・・・、かたいゆびのようななにかがゆっくりとふれてきた。)

冷たくも熱くもない何か・・・、硬い指のような何かがゆっくりと触れてきた。

(おどろいてじてんしゃをとめ、うしろをふりかえったがそこにはなにもない。ぼうぜんとして、)

驚いて自転車を止め、後ろを振り返ったがそこには何もない。呆然として、

(またじてんしゃをこぎはじめると、またひだりがわにぱたぱたと、つぎにみぎがわ、そしてくびすじと、)

また自転車をこぎ始めると、また左側にパタパタと、次に右側、そして首筋と、

(それはまるでじゅんばんがきまっているかのようにきそくてきになんどもおこなわれた。)

それはまるで順番が決まっているかのように規則的に何度も行われた。

(ただそのてのようななにかは、らんぼうではなく、そっと・・・、むしろやさしくくびの)

ただその手のような何かは、乱暴ではなく、そっと・・・、むしろ優しく首の

(うしろからかたにかけてそえられてくる。そのてのようなかんかくは、まさにおもさのない)

後ろから肩にかけて添えられてくる。その手のような感覚は、まさに重さのない

(なにかがぼくのうしろにたってふたりのりでもしているかのようにおもえた。それが)

何かが僕の後ろに立って二人乗りでもしているかのように思えた。それが

(なぜかはわからない、それはただのぼくのそうぞうかもしれない・・・、しかしぼくには)

何故かはわからない、それはただの僕の想像かもしれない・・・、しかし僕には

(いちてきにみえるはずのないそのてのしかくてきなきおくがある。それはぼくのうなじの)

位置的に見えるはずの無いその手の視覚的な記憶がある。それは僕のうなじの

(あたりにそえられる、にんげんてきなしろさではないしんぴんのこぴーようしのようなしろいて、)

辺りに添えられる、人間的な白さではない新品のコピー用紙のような白い手、

(あれはおことのそれではなかったか・・・?さすがにどんかんなぼくもこわくなって)

あれはお琴のそれではなかったか・・・?さすがに鈍感な僕も怖くなって

(じてんしゃのそくどをあげた。とりあえずだれか、なにかうごくものをみたかった・・・。)

自転車の速度を上げた。とりあえず誰か、何か動くものを見たかった・・・。

(だがあいかわらずそらはどんよりとしていて、そのひにかぎってとりのいちわもみえない。)

だが相変わらず空はどんよりとしていて、その日に限って鳥の一羽も見えない。

(ふだんならじてんしゃをおしてのぼるきゅうなさかみちも、むりをしてじてんしゃをこいだまま)

普段なら自転車を押して上る急な坂道も、無理をして自転車をこいだまま

(のぼりきってしゃどうにでたのだがくるまはかいむ、またいつもならいぬのさんぽやくらぶがえりの)

上り切って車道に出たのだが車は皆無、またいつもなら犬の散歩やクラブ帰りの

(ちゅうがくせいでにぎわうはずのそのほどうにもひとけはなく、ぼくはただじぶんのかよっていた)

中学生で賑わうはずのその歩道にも人気は無く、僕はただ自分の通っていた

(ちゅうがっこうやそのよこにあるほどうがえがかれたふうけいがのなかをただただいそいでいた。)

中学校やその横にある歩道が描かれた風景画の中をただただ急いでいた。

(しかしじぶんのいえがちかくなりはじめたころには、そのおもみのないなにかもかんじなく)

しかし自分の家が近くなり始めた頃には、その重みの無い何かも感じなく

(なっていた。ぼくはじたくにつくやいなやじたくのがれーじにじてんしゃをいれて、いえのかぎを)

なっていた。僕は自宅に着くや否や自宅のガレージに自転車を入れて、家の鍵を

(あけてとびこんだ。にちようびということもあって、ありがたいことにへいじつならしごとで)

開けて飛び込んだ。日曜日という事もあって、ありがたい事に平日なら仕事で

(いえにいないはずのははがいた。これほどいえにだれかがいてよかったとかんじたのは)

家にいないはずの母がいた。これほど家に誰かがいてよかったと感じたのは

(はじめてかもしれない・・・。ぼくはいえにつくまでのあいだ、ひげんじつてきにも、じたくにも)

初めてかもしれない・・・。僕は家に着くまでの間、非現実的にも、自宅にも

(だれもいないというかのうせいをつよくかんじていたからである。はははあきらかに)

誰もいないという可能性を強く感じていたからである。母は明らかに

(ふつうではないぼくをみて、なにがあったのかをぼくにたずねた。ぼくがいまあったことをはなすと)

普通ではない僕を見て、何があったのかを僕に尋ねた。僕が今あった事を話すと

(はははわらって、そんなことよりもさきにまっくろなかおをあらえとぼくにいった。じぶんのかおが)

母は笑って、そんなことよりも先に真っ黒な顔を洗えと僕に言った。自分の顔が

(よごれていたことなどすっかりわすれてしまっていたぼくは、あせもびっしょりであったし)

汚れていた事などすっかり忘れてしまっていた僕は、汗もびっしょりであったし

(とりあえずふろにはいることにした。ぼくは、いぜんからこわいはなしやてれびをみたり、)

とりあえず風呂に入る事にした。僕は、以前から怖い話やテレビを見たり、

(なにかれいてきなきょうふにおそわれたりしたときは、せなかがすーすーしておちつかなくなる)

何か霊的な恐怖に襲われたりしたときは、背中がスースーして落ち着かなくなる

(ことがあった。そんなときはあつめのふろにはいるとおちつくことがおおかったので、)

事があった。そんなときは熱めの風呂に入ると落ち着く事が多かったので、

(こんかいもそのほうほうをとることにした。まなつのあついふろはおもったよりもこうかがあり、)

今回もその方法をとる事にした。真夏の熱い風呂は思ったよりも効果があり、

(まだそとがあかるかったのもてつだって、せんこくのことはすべてきのせいだとおもえるほどに)

まだ外が明るかったのも手伝って、先刻の事は全て気のせいだと思えるほどに

(ぼくのせいしんはかいふくした。またとうじ、にちようの8じからかんさいてれびでにんきおわらいばんぐみが)

僕の精神は回復した。また当時、日曜の8時から関西テレビで人気お笑い番組が

(ほうそうされていて、ぼくはそのばんぐみがだいすきだった。そのひもぼくはそのばんぐみをみて)

放送されていて、僕はその番組が大好きだった。その日も僕はその番組を視て

(おもいっきりわらい、とこにつくころになると、そのひあったきょうふなどかんぜんにわすれて)

思いっきり笑い、床に就く頃になると、その日あった恐怖など完全に忘れて

(しまっていた。ぼくはとうじ、3びきのねこをかっていて、そのなかであおいめのしろいねこ、)

しまっていた。僕は当時、3匹の猫を飼っていて、その中で青い目の白い猫、

(しろというなまえだったのだが、そのひはそのしろがこういうまなつのあついひには)

シロという名前だったのだが、その日はそのシロがこういう真夏の暑い日には

(めずらしく、いっしょにねたいといったそぶりをしつこくみせたので、かれをべっどの)

珍しく、一緒に寝たいといった素振りをしつこく見せたので、彼をベッドの

(あしもとにおいていっしょにとこにつくことにした。ぼくがねむりについてからどのくらい)

足元において一緒に床に就くことにした。僕が眠りについてからどのくらい

(たったのだろうか、とつぜんひじょうにつよく、らんぼうにりょうあしくびをだれかにつかまれ、なかば)

経ったのだろうか、突然非常に強く、乱暴に両足首を誰かに掴まれ、なかば

(ひきずられるようにひっぱられてめがさめた。ぼくはきがつくとねまきのまま、)

引きずられるように引っ張られて目が覚めた。僕は気が付くと寝間着のまま、

(はんぶんみをおこしたじょうたいで、あのやかたのろうかにたったひとりですわっていた。)

半分身を起こした状態で、あの館の廊下にたった一人で座っていた。

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