先生の怖い話「廃屋」(10/11)

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投稿者投稿者ななっしーいいね0お気に入り登録
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(かれはふらふらとしていたが、こんどはあのへやにもどりたそうなそぶりはいっさい)

彼はふらふらとしていたが、今度はあの部屋に戻りたそうな素振りは一切

(しなかったので、すむーずにしきちないからにげだすことにせいこうした。ただそのろうかを)

しなかったので、スムーズに敷地内から逃げ出す事に成功した。ただその廊下を

(でようとしているとき、そのへやのしょうめんにいちしているはんびらきになったままの)

出ようとしている時、その部屋の正面に位置している半開きになったままの

(おことのへやが、ほんのすこしだけめにはいった。いとてきではなかったが、じさんした)

お琴の部屋が、ほんの少しだけ目に入った。意図的ではなかったが、持参した

(かいちゅうでんとうのひかりにてらされたおことは、ありがたいことにそのがらすけーすは)

懐中電灯の光に照らされたお琴は、ありがたい事にそのガラスケースは

(われていなかった。ひかりがそれにはんしゃしておことじたいはみえなかったのだが・・・。)

割れていなかった。光がそれに反射してお琴自体は見えなかったのだが・・・。

(やかたをでて、ちかくのこんびにでのみものをかい、まえのあかるいところにこしをおろした。)

館を出て、近くのコンビニで飲み物を買い、前の明るい所に腰を下ろした。

(ふだんならよるのこんびにまえにすわるのははずかしいのでこうえんなりにいくのだが、)

普段なら夜のコンビニ前に座るのは恥ずかしいので公園なりに行くのだが、

(そのときはくらいところはいやだった。ごぜん2じまえともなると、ていばんのこんびにまえのひまな)

その時は暗い所は嫌だった。午前2時前ともなると、定番のコンビニ前の暇な

(わかものたちのすがたもみえず、おちつくためにはちょうどよかった。みやしたのてはよごれていて、)

若者達の姿も見えず、落ち着く為には丁度よかった。宮下の手は汚れていて、

(あのへやのわれたがらすけーすのせいだろうか、きずもすこしあったが、いちばん)

あの部屋の割れたガラスケースのせいだろうか、傷も少しあったが、一番

(いたいのはぼくがなぐったほほらしく、しゅっけつこそなかったがもうすでにはれはじめていて、)

痛いのは僕が殴った頬らしく、出血こそ無かったがもう既に腫れ始めていて、

(てでおさえたのだろう、くろくよごれていた。とりあえずぼくはかれにそのことについて)

手で押さえたのだろう、黒く汚れていた。とりあえず僕は彼にその事について

(あやまった。するとみやしたはおこるどころかれいをいってきた。かれがいうには、かれは)

謝った。すると宮下は怒るどころか礼を言ってきた。彼が言うには、彼は

(あのへやにはいってにんぎょうにあやまったことまではおぼえていたが、なんどもくりかえして)

あの部屋に入って人形に謝った事までは覚えていたが、何度も繰り返して

(あやまっていたことや、ぼくがへやからつれだそうとくびねっこをつかんだこともおぼえて)

謝っていた事や、僕が部屋から連れ出そうと首根っこを掴んだ事も覚えて

(いなかった。かれのきおくがぼんやりとだがかいふくしはじめたのは、あしのちからがぬけて)

いなかった。彼の記憶がぼんやりとだが回復し始めたのは、足の力が抜けて

(ゆかにてをついたときだったらしい。そのすこしまえからかれにきおくがあるにはあるのだが)

床に手を付いた時だったらしい。その少し前から彼に記憶があるにはあるのだが

(あいまいであり、またぼくになぐられたときは、かれのもうろうとしたいしきのなかには、ぼくを)

曖昧であり、また僕に殴られた時は、彼の朦朧とした意識の中には、僕を

(つうじょうではかんがえられないほどにくいとかんじた、かれとはまたべつのいしのようなものが)

通常では考えられないほど憎いと感じた、彼とはまた別の意思のようなものが

など

(あったらしい。ひょっとしたらあのとき、じせいしんがきかないまま、ぼくをころして)

あったらしい。ひょっとしたらあの時、自制心が利かないまま、僕を殺して

(しまっていたかもしれない、とかれはいった。しかしぼくがけんかごしにかれにことばを)

しまっていたかもしれない、と彼は言った。しかし僕が喧嘩腰に彼に言葉を

(いったとき、かれをしはいしていたもうひとつのいしきにとって、ぼくがとてつもなくつよく)

言った時、彼を支配していたもう一つの意識にとって、僕がとてつもなく強く

(みえたようで、そのときにかれのかたあたりからぜんしんのちからがぬけていって、ひざをつき、)

見えたようで、その時に彼の肩辺りから全身の力が抜けていって、膝をつき、

(そのときにきおくといしきがはっきりしたのだといった。かれがもうしわけなさそうに)

その時に記憶と意識がはっきりしたのだと言った。彼が申し訳なさそうに

(あやまりながらそうかたったとき、ぼくはほんとうにおそろしかった。みやしたはじっさいそうとうつよいやつ)

謝りながらそう語った時、僕は本当に恐ろしかった。宮下は実際相当強い奴

(だったので、いっぽまちがえればあのとき、あのばしょでしんでいたかもしれない、)

だったので、一歩間違えればあの時、あの場所で死んでいたかもしれない、

(そうかんがえるとひやあせがとまらなかった・・・。もうかんぜんにしょうきにもどったみやしたの)

そう考えると冷や汗が止まらなかった・・・。もう完全に正気に戻った宮下の

(めとくちぶりはしっかりしていて、そのひぼくにでんわするまえになにがあったのかを)

目と口振りはしっかりしていて、その日僕に電話する前に何があったのかを

(きくことにした。ひょっとしておぼえていないのかもしれない、とおもったが、みやしたは)

聞く事にした。ひょっとして覚えていないのかもしれない、と思ったが、宮下は

(しっかりしたくちょうで、よごれたてのひらでほほをさすりながらはなしてくれた。そのひ、)

しっかりした口調で、汚れた手の平で頬をさすりながら話してくれた。その日、

(みやしたはがっこうがえりにそのままひがおちるまでまち、おんなのこをふくめたすうにんの)

宮下は学校帰りにそのまま日が落ちるまで待ち、女の子を含めた数人の

(ぐるーぷであのやかたにいったらしかった。ぐるーぷのたいはんはそともんでりたいやして、)

グループであの館に行ったらしかった。グループの大半は外門でリタイヤして、

(そとでまっていることをせんたくした。やかたにはいったのは、みやしたをふくめただんし3にんと)

外で待っている事を選択した。館に入ったのは、宮下を含めた男子3人と

(おんなのこひとりで、また、はいったといってもまともにはいれたのはいっかいのせんこくのへや)

女の子一人で、また、入ったといってもまともに入れたのは一階の先刻の部屋

(だけであり、ほんかんどころかおことのへやじたいにも、おんなのこがきょうふでなきはじめたので)

だけであり、本館どころかお琴の部屋自体にも、女の子が恐怖で泣き始めたので

(いれなかったようだ。おんなのこがなきはじめたのも、みやしたがせんこくのへやで、あのきで)

入れなかったようだ。女の子が泣き始めたのも、宮下が先刻の部屋で、あの木で

(できたたんすのようなものをちょうしにのってつよくけったひょうしに、そのうえに)

できたタンスのような物を調子に乗って強く蹴った拍子に、その上に

(かざられていたいちまつにんぎょうががらすけーすごとおおきなおとをたてておちてしまったから)

飾られていた市松人形がガラスケースごと大きな音を立てて落ちてしまったから

(のようだった。みやしたとしては、おんなのこのまえでじぶんがおじけづいていることを)

のようだった。宮下としては、女の子の前で自分が怖気づいている事を

(さとられたくなかったからだったようだが、すこしやりすぎた、とちからなくわらった。)

悟られたくなかったからだったようだが、少しやり過ぎた、と力無く笑った。

(そとでまっていたぐるーぷもなきながらかえってきたおんなのこをみて、ばはきょうざめして)

外で待っていたグループも泣きながら帰ってきた女の子を見て、場は興醒めして

(みなおとなしくかくじのいえにかえることにした。みやしたはいえについてから、がっこうのてすとが)

皆おとなしく各自の家に帰る事にした。宮下は家に着いてから、学校のテストが

(ちかかったのでべんきょうしようとつくえにむかった。よだんだが、みやしたはけんかもつよく、ほんとうに)

近かったので勉強しようと机に向かった。余談だが、宮下は喧嘩も強く、本当に

(こんじょうをもっているやつだったので、べんきょうからもにげたりはせず、せいせきはいつも)

根性を持っている奴だったので、勉強からも逃げたりはせず、成績はいつも

(とっぷくらすだった。そしてしばらくしてかれのははおやがのみものとおかしをもって)

トップクラスだった。そしてしばらくして彼の母親が飲み物とお菓子を持って

(きた。そしてかれのははおやはへやをみまわしていった。「あれ、さっきのこかえったん?)

来た。そして彼の母親は部屋を見回して言った。「あれ、さっきの子帰ったん?

(こんなじかんにまたおんなつれこんで、ちゅういしようとおもってきたのに。」といった。)

こんな時間にまた女連れ込んで、注意しようと思ってきたのに。」と言った。

(たしかにかれのははおやのてのうえのぼんには、ふたりぶんののみものとたべものがあった。ふしんに)

確かに彼の母親の手の上の盆には、二人分の飲み物と食べ物があった。不審に

(おもったみやしたは、ははおやにそのなぞのおんなのくわしいとくちょうをきいてみた。するとどうやら)

思った宮下は、母親にその謎の女の詳しい特徴を聞いてみた。するとどうやら

(そのおんなのこはこがらでかたまでのくろかみ、だいだいいろのはでなながめのわんぴーすのようなふくを)

その女の子は小柄で肩までの黒髪、橙色の派手な長めのワンピースのような服を

(きていて、みやしたのよこによりそうようにしていたらしい。そしてあるきかたがすこし)

着ていて、宮下の横に寄り添うようにしていたらしい。そして歩き方が少し

(きみょうで、すべるようだったそうだ。もっとも、みやしたにかくれてはっきりとは)

奇妙で、滑るようだったそうだ。もっとも、宮下に隠れてはっきりとは

(みえなかったらしいが・・・。みやしたはそれをきいてぎょうてんした。もちろんみやしたは)

見えなかったらしいが・・・。宮下はそれを聞いて仰天した。もちろん宮下は

(おんなのこなどつれこんではいなかった。しかしそのふくのいろは、じぶんがけって)

女の子など連れ込んではいなかった。しかしその服の色は、自分が蹴って

(おとしてしまったあのいちまつにんぎょうのいろだった。みやしたじしん、すこしやりすぎだったと)

落としてしまったあの市松人形の色だった。宮下自身、少しやり過ぎだったと

(おもったからこそ、そのいちまつにんぎょうのすがた、いろ、かたちはみやしたのあたまにしっかりこびりついて)

思ったからこそ、その市松人形の姿、色、形は宮下の頭にしっかりこびりついて

(しまっていた。みやしたのきおくにある、そのゆかにうつぶせにおちたままのいちまつにんぎょうの)

しまっていた。宮下の記憶にある、その床にうつ伏せに落ちたままの市松人形の

(かみはかたまでで、だいだいいろのきものをきていた。まさかとおもってへやをみまわしてみても)

髪は肩までで、橙色の着物を着ていた。まさかと思って部屋を見回してみても

(なにもなかったが、なんとなくこわくなり、へやにひとりでいるよりも、ともだちのいえに)

何も無かったが、なんとなく怖くなり、部屋に一人でいるよりも、友達の家に

(いこうとおもったらしい。そしてかれのまんしょんにちかい、よるでももんだいないともだちの)

行こうと思ったらしい。そして彼のマンションに近い、夜でも問題ない友達の

(いえにいったのだが、そのともだちのいえのまえでふいに、そのいえのにかいのまどでたばこを)

家に行ったのだが、その友達の家の前で不意に、その家の二階の窓で煙草を

(すっていたそのともだちからこえをかけられた・・・、「そのこ、だれ?」と・・・。)

吸っていたその友達から声を掛けられた・・・、「その子、誰?」と・・・。

(みやしたははんきょうらんでともだちのいえにもはいらずにあわててじぶんのまんしょんにかえった。)

宮下は半狂乱で友達の家にも入らずに慌てて自分のマンションに帰った。

(そしてかれはみた・・・。じぶんのまんしょんのえれべーたーのとびらのがらすぶぶんに)

そして彼は見た・・・。自分のマンションのエレベーターの扉のガラス部分に

(うつるじぶんいがいに、がらすのぶぶんいがいのあかくぬられたてつぶぶんにだいぶぶんはかくれて)

映る自分以外に、ガラスの部分以外の赤く塗られた鉄部分に大部分は隠れて

(いたが、かたからてにかけてだけうつっている、じぶんのちょうどとなりにならぶようにたって)

いたが、肩から手にかけてだけ映っている、自分の丁度隣に並ぶように立って

(いただいだいいろのきものを・・・。そしてまたえれべーたーからとびだしていえにむかう)

いた橙色の着物を・・・。そしてまたエレベーターから飛び出して家に向かう

(とちゅう、まんしょんのじぶんのいえのいりぐちのまえに、かわきかけだったが、うっすらと、)

途中、マンションの自分の家の入口の前に、乾きかけだったが、うっすらと、

(ちいさなぬれたくつしたをはいたままのあしあとのようなものが、てんてんとじぶんのいえのなかの)

小さな濡れた靴下を履いたままの足跡のようなものが、点々と自分の家の中の

(ほうにつづいていたことを・・・。みやしたはぱにっくになってどうするのがいちばんよいかと)

方に続いていた事を・・・。宮下はパニックになってどうするのが一番良いかと

(かんがえた。そしておもいついたゆいいつのかいとうが、いまそのときもとなりにいるかもしれなかった)

考えた。そして思いついた唯一の解答が、今その時も隣にいるかもしれなかった

(なにかへのしゃざいであり、あのやかたをよくしるぼくへのまよなかのでんわへとつながって)

何かへの謝罪であり、あの館を良く知る僕への真夜中の電話へとつながって

(いったわけだった。そのあたりからきおくはあいまいだといっていた。だがそのでんわに)

いったわけだった。その辺りから記憶は曖昧だと言っていた。だがその電話に

(でて、そのみやしたをこのめにしたぼくだからこそ、どのくらいみやしたがせいしんてきに)

出て、その宮下をこの目にした僕だからこそ、どのくらい宮下が精神的に

(おいつめられていたのかはわかっていた。そしてみやしたはこうつづけた。ぼくに)

追い詰められていたのかはわかっていた。そして宮下はこう続けた。僕に

(なぐられたときに、なにかかたからぬけでたかんじがして、ほんとうにらくになったきがした。)

殴られた時に、何か肩から抜け出た感じがして、本当に楽になった気がした。

(きっとそのとき、かれについていたなにかがはなれたのだろう、とそうしんじきったかおで)

きっとその時、彼に憑いていた何かが離れたのだろう、とそう信じ切った顔で

(ぼくにかたった。ぼくにそんなちからがあるわけがなく、そんなわけあるか、とないしん)

僕に語った。僕にそんな力があるわけがなく、そんなわけあるか、と内心

(おもったのだが、じこあんじにしろ、ほんとうにそうであったにしろ、みやしたのせいしんが)

思ったのだが、自己暗示にしろ、本当にそうであったにしろ、宮下の精神が

(かいふくしたのならそれでいいか、とこころからおもった。またなぜ、しもだでなくそれほど)

回復したのならそれでいいか、と心から思った。また何故、下田でなくそれほど

(なかのよかったわけでもないぼくにでんわしたのかときくと、みやしたはなぜかわからないが)

仲の良かった訳でもない僕に電話したのかと聞くと、宮下は何故かわからないが

(ぼくでないとだめだというぜったいてきなおもいがあのときにはあったらしい。たしかに)

僕でないと駄目だという絶対的な思いがあの時にはあったらしい。確かに

(けっかてきには、もしそれがしもだだったとしたら、しんたいのうりょくてきにあのときみやしたを)

結果的には、もしそれが下田だったとしたら、身体能力的にあの時宮下を

(とめることができず、さいあくのじたいにおちいっていたかもしれない・・・。しかしそれは)

止める事ができず、最悪の事態に陥っていたかも知れない・・・。しかしそれは

(あくまであとづけのけっかろんである。とりあえずはみなぶじでよかったとなっとくして、)

あくまで後付けの結果論である。とりあえずは皆無事で良かったと納得して、

(みやしたはまだすこしおびえていたようだったが、ぼくらはたがいのいえにかえることにした。)

宮下はまだ少し怯えていたようだったが、僕らは互いの家に帰る事にした。

(これいらい、ぼくはたにんがあのやかたにいこうとすればとめるようになったし、その)

これ以来、僕は他人があの館に行こうとすれば止めるようになったし、その

(せいかくなばしょもたにんにはおしえなくなった。みやしたにはよくじつにがっこうであったが、)

正確な場所も他人には教えなくなった。宮下にはまた翌日に学校で会ったが、

(すこしほほがはれてかおがかわっていたいがいにはおかしなところはなく、それいこう、きかいな)

少し頬が腫れて顔が変わっていた以外にはおかしな所はなく、それ以降、奇怪な

(ことはおきなかったようだ。ただひとつきになるのは、さいしょからいっしょにそのやかたに)

事は起きなかったようだ。ただ一つ気になるのは、最初から一緒にその館に

(いっていたしもだにはなにひとつおこっていないのだが・・・。)

行っていた下田には何一つ起こっていないのだが・・・。

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