沙漠の花

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投稿者投稿者ふすいいね0お気に入り登録
プレイ回数2難易度(3.1) 60秒

問題文

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(ほりたつおしから「ぼっか」といふ)

堀辰雄氏から「牧歌」といふ

(しょめいいりのうつくしいほんを)

署名入りの美しい本を

(おくつていただいた。わたしはほりさんを)

送つて頂いた。私は堀さんを

(とほくからけいあいするばかりで、まだいちど)

遠くから敬愛するばかりで、まだ一度

(もおめにかかつたこと)

もお目にかかつたこと

(はないのだが、これは)

はないのだが、これは

(こうりょうとしたなかにさいている)

荒涼としたなかに咲いてゐる

(はなのやうにおもはれた。)

花のやうにおもはれた。

(このしょうさくひんしゅう)

この小作品集

(をよんでいると、ふと)

を読んでゐると、ふと

(ぶんたいについてわたしはかんがへさせられた。)

文体について私は考へさせられた。

(あかるくしづかにすんで)

明るく静かに澄んで

(なつかしいぶんたい、すこしはあまえているやうで)

懐しい文体、少しは甘えてゐるやうで

(ありながら、きびしくふかいもの)

ありながら、きびしく深いもの

(をこらへているぶんたい、)

を湛へてゐる文体、

(ゆめのやうにうつくしいが)

夢のやうに美しいが

(げんじつのやうにたしかなぶんたい。)

現実のやうにたしかな文体・・・・・・。

(わたしはこんなぶんたい)

私はこんな文体

(にあこがれている。だがけっきょく、)

に憧れてゐる。だが結局、

(ぶんたいはそれをつくりだす)

文体はそれをつくりだす

など

(こころのはんえいでしか)

心の反映でしか

(ないのだらう。)

ないのだらう。

(わたしにはし、ごにんのどくしゃ)

私には四、五人の読者

(があればいいとかんがえている。)

があればいゝと考えてゐる。

(だが、はたしてわたしじしんは)

だが、はたして私自身は

(わたしのどくしゃなのだらうか、)

私の読者なのだらうか、

(さうおもひながら、いぜんかいた)

さう思ひながら、以前書いた

(さくひんをよみかへしてみた。)

作品を読み返してみた。

(こころをこめてかいたものはやはり)

心をこめて書いたものはやはり

(じぶんをかんどうさせる)

自分を感動させる

(ことができるやうだつた。)

ことができるやうだつた。

(わたしはじぶんでじぶんにかんどうできるにんげんに)

私は自分で自分に感動できる人間に

(なりたい。りるけはさいごの)

なりたい。リルケは最後の

(「ひか」をかきあげたとき)

「悲歌」を書上げたとき

(かういふている。)

かう云つてゐる。

(「わたしはかくてこのものの)

「私はかくてこの物の

(ためにいきぬいてきた)

ために生き抜いて来た

(のです、すべてにたへ)

のです、すべてに堪へ

(て。すべてに。そして)

て。すべてに。そして

(ひつようだつたのは、これ)

必要だつたのは、これ

(だつたのです。ただし)

だつたのです。ただし

(これだけだつたのです。)

これだけだつたのです。

(でも、もうそれはある)

でも、もうそれはある

(のです。あるのですあ)

のです。あるのですア

(ーめん」)

ーメン」

(かういふことがいへ)

かういふことがいへ

(るひがきたら、どんな)

る日が来たら、どんな

(にいいだらうか。わたしも。)

にいいだらうか。私も。

(わたしはわたしのかきたいも)

私は私の書きたいも

(のだけかきあげたらはや)

のだけ書き上げたら早

(くあのよにいきたい。)

くあの世に行きたい。

(と、こんなことをゆうじん)

と、こんなことを友人

(にはなしたところ、おくの)

に話したところ、奥野

(しんたらうさんからでんわが)

信太郎さんから電話が

(かかつてきた。)

かかつて来た。

(「しんではいけません)

「死んではいけません

(よ、しんでは。げんきを)

よ、死んでは。元気を

(だしなさい」)

出しなさい」

(わたしがじさつでもするの)

私が自殺でもするの

(かときづかはれたのだ)

かと気づかはれたのだ

(が、わたしについてそんな)

が、私についてそんな

(にしんぱいしていただけたのは)

に心配して頂けたのは

(うれしかつた。)

うれしかつた。

(「わたしはまるでどことも)

「私はまるでどことも

(しれぬところへゆくために、)

知れぬ所へゆく為に、

(むげんのこどくのなかをよこ)

無限の孤独のなかを横

(ぎつているやうなきがし)

切つてゐる様な気がし

(ます。わたしじしんがさばくで)

ます。私自身が沙漠で

(あり、どうじにたびびとであ)

あり、同時に旅人であ

(り、らくだなのです」と、)

り、駱駝なのです」と、

(さくひんをかくことのほか)

作品を書くことのほか

(になにもじんせいからきたいし)

に何も人生から期待し

(ていないふろーべーる)

てゐないフローベール

(のてがみはわたしのこころをむちうつ。)

の手紙は私の心を鞭打つ。

(むかしから、たくましいさっか)

昔から、逞しい作家

(やえらいさっかなら、ありあまるほどいるやうだ。)

や偉い作家なら、ありあまるほどゐるやうだ。

(だが、わたしにとつて、こころ)

だが、私にとつて、心

(ひかれるなつかしいさっかは)

惹かれる懐しい作家は

(だんだんすくなくなつていくやうだ。)

だんだん少くなつて行くやうだ。

(わたしがるてんのなかでもちあるいている)

私が流転のなかで持ち歩いてゐる

(「まるてのしゅき」のよはくに、)

「マルテの手記」の余白に、

(ちかごろかうかきこんでおいた。)

近頃かう書き込んでおいた。

(しやうわにじふよねんあき、)

昭和廿四年秋、

(わたしのみちはすでにけつていされているのでは)

私の途は既に決定されてゐるのでは

(あるまいか。こうりょうにたへて、)

あるまいか。荒涼に耐へて、

(ひとすぢなつかしいもの)

一すぢ懐しいもの

(をにじみますことができ)

を滲じますことができ

(ればなにものぞむところはなささうだ。)

れば何も望むところはなささうだ。

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