心霊写真 -36-

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師匠シリーズ
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(かたやみあげるようなちょうしんにふくのうえからでもわかるくらいのぶあついむないた。) かたや見上げるような長身に服の上からでも分かるくらいの分厚い胸板。 (くびすじからのぞくりゅうのたとぅ。) 首筋から覗く龍のタトゥ。 (つりあがったまゆとするどいめつきには、おもわずめをそらしてしまいそうないかついおとこ。) 吊り上がった眉と鋭い目つきには、思わず目を逸らしてしまいそうな厳つい男。 (かたやせんがほそくびょうじゃくそうないろのしろいくろかみのしょうじょ。) かたや線が細く病弱そうな色の白い黒髪の少女。 (しかもなつおのほうはだいがくごねんめのにじゅうに、さんさいのはずなので、) しかも夏雄の方は大学五年目の二十二、三歳のはずなので、 (おんなのこがしょうがっこうのさんねんせいかよねおくらいだとすると、) 女の子が小学校の三年生か四年生くらいだとすると、 (すくなくともじゅっこいじょうはとしがはなれている。) 少なくとも十コ以上は歳が離れている。 (ぼくのとまどいに、ししょうが「こせきじょうはな」とつけくわえる。) 僕の戸惑いに、師匠が「戸籍上はな」と付け加える。 (あ、やっぱり。) あ、やっぱり。 (そうおもったが、ししょうはわらって「うそうそ、ほんとにちがつながってるんだって」) そう思ったが、師匠は笑って「うそうそ、ホントに血が繋がってるんだって」 (といい、なつおのほうはふゆかいそうににらみつけている。) と言い、夏雄の方は不愉快そうに睨みつけている。 (ぼくらはしんれいしゃしんのせんもんかをたずねてきたはずだ。) 僕らは心霊写真の専門家を尋ねてきたはずだ。 (じゅうしょくがやましのいんちきおやじだとすれば、せんもんかというのはこのくろたにのことか。) 住職が山師のインチキ親父だとすれば、専門家というのはこの黒谷のことか。 (ぼくはいぜん「m.c.d」のらいぶのさいちゅうにあらわれたれいを、) 僕は以前「M.C.D」のライブの最中に現れた霊を、 (このなつおがかべごとなぐりつけてげきたいしたことをおもいだした。) この夏雄が壁ごと殴りつけて撃退したことを思い出した。 (そんなそぼうなおとこに、しんれいしゃしんのかんていなどできるのか。) そんな粗暴な男に、心霊写真の鑑定など出来るのか。 (おもったことをくちにすると、ししょうはわらって「ちがうちがう」とてをふった。) 思ったことを口にすると、師匠は笑って「違う違う」と手を振った。 (「ようがあるのは、このこのほうにだよ」) 「用があるのは、この子の方にだよ」 (そうしてすこしかがみながらみをのりだし、) そうして少し屈みながら身を乗り出し、 (あきちゃんというおんなのこにほほえみかけた。) アキちゃんという女の子に微笑みかけた。
など
(「ね」) 「ね」 (しかしあきちゃんはくびをさゆうにふると、) しかしアキちゃんは首を左右に振ると、 (けいかいしたようになつおのせなかのうしろにまわってみをかくした。) 警戒したように夏雄の背中の後ろに回って身を隠した。 (「きらわれてんだよ。これが」) 「嫌われてんだよ。これが」 (ししょうはぶぜんとしてじょうはんみをおこす。) 師匠は憮然として上半身を起こす。 (あきちゃんはなつおのうしろからでてこない。) アキちゃんは夏雄の後ろから出てこない。 (「このこ、かんぜんになんとかこんぷれっくすだし」) 「この子、完全になんとかコンプレックスだし」 (ししょうはいみふけなしせんをなつおになげかける。) 師匠は意味深な視線を夏雄に投げかける。 (ぶらこんか。) ブラコンか。 (あのみるからにおそろしいおとこが、いもうとにはやさしいいうところをそうぞうしようとして、) あの見るからに恐ろしい男が、妹には優しいいうところを想像しようとして、 (うへえ、というきもちになる。) うへえ、という気持ちになる。 (あれ?) あれ? (「このこのほうにようがあるって、どういうことですか」) 「この子の方に用があるって、どういうことですか」 (そうきくと、ししょうはなつおのこしのあたりから) そう訊くと、師匠は夏雄の腰の辺りから (かみのけだけがみえているあきちゃんをゆびさして、いった。) 髪の毛だけが見えているアキちゃんを指さして、言った。 (「このこは、わたしやなつおなんかおよびもつかない、) 「この子は、わたしや夏雄なんか及びもつかない、 (しょうしんしょうめいのれいのうりょくしゃだよ」) 正真正銘の霊能力者だよ」 (あきちゃんやあい。) アキちゃんやあい。 (あきちゃんやあい。) アキちゃんやあい。 (さけびごえがつづく。) 叫び声が続く。 (さんかんのきぎのなかをはしるさわやかなはるのかぜが、いっしゅんとまったようなきがした。) 山間の木々の中を走る爽やかな春の風が、一瞬止まったような気がした。 (「じゃあ、わしはこれで。でも、かなちゃん、たのむよ。ほどほどでね」) 「じゃあ、わしはこれで。でも、加奈ちゃん、頼むよ。ほどほどでね」 (じゅうしょくがふすまをあけてでていこうとする。) 住職が襖を開けて出て行こうとする。 (でんきゅうのあかりに、あぶらぎったはげあたまがやけにてりかえしている。) 電球の明かりに、脂ぎったハゲ頭がやけに照り返している。 (なつおとあきちゃんのちち、くろやしょうげつはなまえのとおり) 夏雄とアキちゃんの父、黒谷正月(くろたにしょうげつ)は名前のとおり (しょうがつがたんじょうびといううまれついてのおめでたいおとこだった。) 正月が誕生日という生まれついてのおめでたい男だった。 (おやからてらをついだものの、じょれいだのたきあげくようだのといった) 親から寺を継いだものの、除霊だの焚き上げ供養だのといった (うさんくさいことにしょうばいっけをだし、じもとのだんかしゅうにもあきれられているそうだ。) 胡散臭いことに商売っ気を出し、地元の檀家衆にも呆れられているそうだ。 (それだけでなく、まーじゃんやぱちんこ、けいりんにきょうていといったかけごとがだいすきで、) それだけでなく、麻雀やパチンコ、競輪に競艇といった賭けごとが大好きで、 (でんらいのぶつぞうをひそかにしちいれしたことがあるといういつわをもっていた。) 伝来の仏像を密かに質入れしたことがあるという逸話を持っていた。 (また、さけはじんごにおちないほどのむし、) また、酒は人後に落ちないほど飲むし、 (おんなあそびもだいすきというまさになまぐさぼうずをじでいくおとこであり、おくさんには) 女遊びも大好きというまさに生臭坊主を地で行く男であり、奥さんには (とっくにみきりをつけられ、りこんこそしてないがべっきょじょうたいなのだという。) とっくに見切りをつけられ、離婚こそしてないが別居状態なのだと言う。 (おがわしょちょうはそのおくさんのおとうとで、しょちょうからするとなつおはおいっこということになる。) 小川所長はその奥さんの弟で、所長からすると夏雄は甥っ子ということになる。 (「いいから、はやくいけよ」) 「いいから、早く行けよ」 (なつおにじゃけんにいわれ、しょうげつおしょうはすごすごとでていった。) 夏雄に邪険に言われ、正月和尚はすごすごと出ていった。 (けさのすそがふすまにはさまり、「あれ?」というこえがふすまごしにしたかとおもうと、) 袈裟の裾が襖に挟まり、「あれ?」という声が襖ごしにしたかと思うと、 (ぐいぐいとけさのはしがむこうがわにひっぱられてきえていった。) ぐいぐいと袈裟の端が向こう側に引っ張られて消えていった。 (そのこっけいなうごきに、あきちゃんがくすくすとわらう。) その滑稽な動きに、アキちゃんがクスクスと笑う。
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