心霊写真 -58-

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師匠シリーズ
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(「「とじない」「どうして」そういったんだ、そのれいのうしゃは。) 「「閉じない」「どうして」そう言ったんだ、その霊能者は。 (たしかにまさおかたいいのめはとじていなかった。) 確かに正岡大尉の目は閉じていなかった。 (だからわたしは、それがいきているにんげんではないからではないかとおもったんだ。) だからわたしは、それが生きている人間ではないからではないかと思ったんだ。 (でもよくよくかんがえるとおかしいんだ。) でもよくよく考えるとおかしいんだ。 (ほかのしゃしんでも、めをとじたにんげんと、とじていないにんげんがいる。) 他の写真でも、目を閉じた人間と、閉じていない人間がいる。 (のみかいのしゃしんなら、ひとりのおっさんはめをとじていたけど、たはとじていない。) 飲み会の写真なら、一人のおっさんは目を閉じていたけど、他は閉じていない。 (それじたいには、なにもおかしいことはないはずだ。) それ自体には、なにもおかしいことはないはずだ。 (「ろうじん」たちのしゃしんなら、ひとりはめをひらいていて、ほかはとじている。) 「老人」たちの写真なら、一人は目を開いていて、他は閉じている。 (いまはもうしんでいるひともいるし、いきているひともいる。それだけのことだ。) 今はもう死んでいる人もいるし、生きている人もいる。それだけのことだ。 (めをとじない、なんていっておびえるひつようはない。) 目を閉じない、なんて言って怯える必要はない。 (たしかにふるいしゃしんだが、いつごろのものだとか、) 確かに古い写真だが、いつごろのものだとか、 (たいぎゃくじけんにかかわるしゃしんだなんていうはいけいはいっさいはなしていない。) 大逆事件に関わる写真だなんていう背景は一才話ていない。 (ましてこのあとかれらはしょけいされたなんてはなしは。) ましてこの後彼らは処刑されたなんて話は。 (なのになぜ、ひとりでもめをとじないにんげんがいると、おかしいんだ?) なのになぜ、一人でも目を閉じない人間がいると、おかしいんだ? (げんにせいねんしょうこうたちのねんれいをかんがえると、いまいきていたらはちじゅっさいくらいだ。) 現に青年将校たちの年齢を考えると、今生きていたら八十歳くらいだ。 (ひとりくらいめをあけていてもなにもおかしくない」) 一人くらい目を開けていてもなにもおかしくない」 (ししょうはそこでことばをきり、「とじない」「どうして」とくりかえした。) 師匠はそこで言葉を切り、「閉じない」「どうして」と繰り返した。 (なにがいいたいのかわからず、ぼくはこんわくしていた。) なにが言いたいのか分からず、僕は困惑していた。 (やっとまつうらたちがやくざとのえんもきれ、) やっと松浦たちがヤクザとの縁も切れ、 (このしゃしんにまつわるやっかいごとがおわりかけていたのに、) この写真にまつわるやっかいごとが終わりかけていたのに、
など
(なにをししょうはいおうとしているのだろう。) なにを師匠は言おうとしているのだろう。 (すっ、とししょうのゆびがしゃしんにむかう。) スッ、と師匠の指が写真に向かう。 (そしてそれは「ろうじん」のかおのうえでとまった。) そしてそれは「老人」の顔の上で止まった。 (「とじなかったのは、こいつだ」) 「閉じなかったのは、こいつだ」 (ぞくりとした。) ゾクリとした。 (なぜかわからないけれど、このふつかかんで、) なぜか分からないけれど、この二日間で、 (さいだいのさむけがまえぶれもなくふいにやってきた。) 最大の寒気が前触れもなくふいにやって来た。 (しんぞうが、いまはじめてうごきだしたかのようにばくばくとおとをたてはじめる。) 心臓が、今初めて動き出したかのようにバクバクと音を立て始める。 (「まさおかにばかりめをやっていて、わたしもきづかなかった。) 「正岡にばかり目をやっていて、わたしも気づかなかった。 (だけどそのれいのうしゃだけはみていた。) だけどその霊能者だけは見ていた。 (しゃしんのうえからてをはなしたとき、この「ろうじん」だけは、) 写真の上から手を離した時、この「老人」だけは、 (いちどとじためをもういちどうっすらとひらいたんだ」) 一度閉じた目をもう一度薄っすらと開いたんだ」 (てらからかえりかけたところで、) 寺から帰りかけたところで、 (いきなりひきかえしてあきちゃんのところへはしったのは、そのためか。) いきなり引き返してアキちゃんのところへ走ったのは、そのためか。 (「とじない」「どうして」という、あきちゃんのもらしたことばのそごにきづき、) 「閉じない」「どうして」という、アキちゃんのもらした言葉の齟齬に気づき、 (そのしんいのかくにんのためだった。) その真意の確認のためだった。 (そして、あきちゃんがみたものとは・・・・・) そして、アキちゃんが見たものとは・・・・・ (「はんがんだ。いわれなくてはわからないくらい、うっすらと。) 「半眼だ。言われなくては分からないくらい、薄っすらと。 (それがなんどてじゅんをくりかえしても、そのたびにとじためをわずかにあけたそうだ。) それが何度手順を繰り返しても、その度に閉じた目をわずかに開けたそうだ。 (まるでうすめをあけて、しゃしんのなかからこちらをのぞいているみたいに・・・・・」) まるで薄目を開けて、写真の中からこちらをのぞいているみたいに・・・・・」 (そんなげんしょうははじめてだったから、こわくなったそうだ。) そんな現象は初めてだったから、怖くなったそうだ。 (ししょうはそういってみぎのこぶしをたてにしてくちもとにあて、) 師匠はそう言って右の拳を縦にして口元に当て、 (にらみつけるようにしゃしんをみおろす。) 睨みつけるように写真を見下ろす。 (「しんだにんげんはめをとじる。いきているにんげんはめをあけたまま。) 「死んだ人間は目を閉じる。生きている人間は目を開けたまま。 (では、いちどとじて、うすめをあけるやつは?」) では、一度閉じて、薄目を開けるやつは?」 (ぶつぶつといいながら、ししょうはりゅっくさっくをてもとにひきよせ、なかみをさぐる。) ぶつぶつと言いながら、師匠はリュックサックを手元に引き寄せ、中身を探る。 (「そっちのこぴー。ふくしゃしてるときに、とちゅうでたむらにしゃしんをうばわれたから、) 「そっちのコピー。複写してる時に、途中で田村に写真を奪われたから、 (まんなかがくろくつぶれてるってやつ」) 真ん中が黒く潰れてるってやつ」 (てーぶるのほうをみないでししょうはつづける。) テーブルの方を見ないで師匠は続ける。 (「ほんとうに、そうなのかな」) 「本当に、そうなのかな」 (「なんのことです。なにがいいたい」) 「なんのことです。なにが言いたい」 (まつうらがけげんなかおでといかける。) 松浦が怪訝な顔で問い掛ける。 (「どうしてしゃしんをわたさなかったのかときいたな。) 「どうして写真を渡さなかったのかと訊いたな。 (たむらからむりやりおしつけられたしゃしんなのに、) 田村から無理やり押し付けられた写真なのに、 (あんたたちがやってきたときにどうしてわたさなかったのか、と。) あんたたちがやって来た時にどうして渡さなかったのか、と。 (しょうじきいうと、きのう、いちどめはまよってた。) 正直言うと、昨日、一度目は迷ってた。 (おがわしょちょうにめいわくがかかるなら、わたしてしまおうかともおもった。) 小川所長に迷惑が掛かるなら、渡してしまおうかとも思った。 (けど、なにかだいろっかんみたいなのがはたらいてな。だまってたんだ。) けど、なにか第六感みたいなのが働いてな。黙ってたんだ。 (そしてつぎのひ、にどめにあんたらがきたときには、もうわたすつもりはなかった。) そして次の日、二度目にあんたらが来た時には、もう渡すつもりはなかった。 (いちどめと、にどめのちがいがどうしてうまれたのか」) 一度目と、二度目の違いがどうして生まれたのか」
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