心霊写真 -57-

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師匠シリーズ
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(ちがうか?はものをまえにしてなおのどをつきだすような、きんちょうしたこえだった。) 違うか?刃物を前にしてなお喉を突き出すような、緊張した声だった。 (まつうらはまだなにもいわない。そのかおからひょうじょうがかんぜんにきえている。) 松浦はまだなにも言わない。その顔から表情が完全に消えている。 (しゃしんのなかのおとこのこは、はにかんだようにほんのすこしえみをみせていた。) 写真の中の男の子は、はにかんだようにほんの少し笑みを見せていた。 (めのまえのおとこにそのおもかげはない。) 目の前の男にその面影はない。 (「それにこだわるりゆうもわかる。そのおとこが、あんたのちちおやだからだ。) 「それにこだわる理由も分かる。その男が、あんたの父親だからだ。 (だけどくだんのりっこうかいのせんだいじゃない。かおつきがまるでちがう。) だけどくだんの立光会の先代じゃない。顔つきがまるで違う。 (あんたはりっこうかいのせんだいのあいじんのむすこだが、せんだいのじつのこではなかった。) あんたは立光会の先代の愛人の息子だが、先代の実の子ではなかった。 (そうだろう。あんたのみのちちは、うすらわらいをうかべているこのおとこだ。) そうだろう。あんたの実の父は、薄ら笑いを浮かべているこの男だ。 (いってやるよ。こいつはれいじゃない。ここにいたんだ。) 言ってやるよ。こいつは霊じゃない。ここにいたんだ。 (あんたらぼしといっしょのふれーむにはいろうとせず、) あんたら母子と一緒のフレームに入ろうとせず、 (ただはなれたばしょからうすらわらいをうかべている。そういうおとこだ」) ただ離れた場所から薄ら笑いを浮かべている。そういう男だ」 (ししょうはじきをおこしたようにまくしたてると、さあやでもてっぽうでももってこい、) 師匠は自棄を起こしたように捲くし立てると、さあ矢でも鉄砲でも持って来い、 (とばかりにひらきなおって、うでぐみをしながらいすのせもたれにふんぞりかえった。) とばかりに開き直って、腕組みをしながら椅子の背もたれにふんぞり返った。 (いきたここちがしないじょうたいでぼくはてにあせをにぎっていた。) 行きた心地がしない状態で僕は手に汗を握っていた。 (まつうらはまだなにもくちにせず、しゃしんをじっとみている。) 松浦はまだなにも口にせず、写真をじっと見ている。 (おとこのじょうはんしんがうっすらとみえているまどのあたりを。) 男の上半身が薄っすらと見えている窓のあたりを。 (「そうか・・・・・」) 「そうか・・・・・」 (ようやくひらいたくちからは、そんなしずかなことばだけがこぼれた。) ようやく開いた口からは、そんな静かな言葉だけがこぼれた。 (そうしてそっとしゃしんをしまう。) そうしてそっと写真を仕舞う。 (ししょうはばつがわるそうにあたまをかいている。) 師匠はばつが悪そうに頭を掻いている。
など
(りっこうかいのせんだいのかおつきなんて、きのうのきょうまでしらなかったはずだ。) 立光会の先代の顔つきなんて、昨日の今日まで知らなかったはずだ。 (にししょのけいじにあいにいったのはそのためか。) 西署の刑事に会いに行ったのはそのためか。 (やくざきらいのししょうが、やくざのせかいのじじょうをしらべようとすれば、) ヤクザ嫌いの師匠が、ヤクザの世界の事情を調べようとすれば、 (けいさつしかないのだろう。) 警察しかないのだろう。 (まつうらはなんのせんさくもせず、このけんをおわりにした。) 松浦はなんの詮索もせず、この件を終わりにした。 (「あんたのうしろにあるのはきょむだ」) 「あんたの後ろにあるのは虚無だ」 (ぼくはこのおとこのもつうつろなつめたさが、ししょうのいうきょむが、) 僕はこの男の持つ虚ろな冷たさが、師匠の言う虚無が、 (どこからくるのか、おぼろげながらわかったきがした。) どこから来るのか、おぼろげながら分かった気がした。 (まつうらがこしをうかしかけたとき、ししょうがこえをかけた。) 松浦が腰を浮かしかけた時、師匠が声を掛けた。 (「まてよ。まだはなしがおわってない」) 「待てよ。まだ話が終わってない」 (「もうなにもはなすことはない」) 「もうなにも話すことはない」 (そういえば、さいしょにししょうはせいねんしょうこうたちのしゃしんをさして、) そういえば、最初に師匠は青年将校たちの写真を指して、 (このしゃしんにはひみつがあるといっていた。) この写真には秘密があると言っていた。 (おもわせぶりだったが、そのことなのだろうか。) 思わせぶりだったが、そのことなのだろうか。 (しかし、ぼくにももう、そっちのしゃしんにはあまりかちがないとしかおもえなかった。) しかし、僕にももう、そっちの写真にはあまり価値がないとしか思えなかった。 (「きけ。きいてくれ。じゅうようなはなしだ」) 「聞け。聞いてくれ。重要な話だ」 (ししょうがみをのりだす。) 師匠が身を乗り出す。 (「たのむ」) 「頼む」 (そのこんがんに、まつうらはいっしゅんしゅんじゅんしたようにみえたが、) その懇願に、松浦は一瞬逡巡したように見えたが、 (やがてそふぁにーにすわりなおした。) やがてソファにーに座りなおした。 (「しゃしんを」) 「写真を」 (ししょうにそうこわれて、まつうらはいちどしまったしゃしんをとりだそうとする。) 師匠にそう請われて、松浦は一度仕舞った写真を取り出そうとする。 (しかしししょうは「そっちじゃない。「ろうじん」のほうのしゃしんだ」といった。) しかし師匠は「そっちじゃない。「老人」の方の写真だ」と言った。 (そうして、てーぶるのうえにしゃしんと、そのふくしゃがならんだ。) そうして、テーブルの上に写真と、その複写が並んだ。 (ふくしゃのほうはちゅうおうぶぶんがくろくつぶれていて、「ろうじん」のかおがみえない。) 複写の方は中央部分が黒く潰れていて、「老人」の顔が見えない。 (「これがなにか」) 「これがなにか」 (ししょうはかんがえをせいりするようにしばししせんをおとし、しんちょうにくちをあいた。) 師匠は考えを整理するようにしばし視線を落とし、慎重に口を開いた。 (「わたしのしりあいに、あるれいのうしゃがいてな」) 「わたしの知り合いに、ある霊能者がいてな」 (そうしてなまえやしょうさいをださずに、あきちゃんのことをはなしはじめた。) そうして名前や詳細を出さずに、アキちゃんのことを話し始めた。 (ぼくらのめのまえでおきた、しゃしんのじんぶつのめがとじるという、) 僕らの目の前で起きた、写真の人物の目が閉じるという、 (あのしゅうだんさいみんなのかしゅうだんげんかくなのかわからないふしぎなちからのことも。) あの集団催眠なのか集団幻覚なのか分からない不思議な力のことも。 (そうして、しゃしんのげんぽんのほうをつかって、そのしーんをさいげんする。) そうして、写真の原本の方を使って、そのシーンを再現する。 (しゃしんのうえにてをかざし、てのひらをくるくるとまわしているのだが、) 写真の上に手をかざし、手のひらをくるくると回しているのだが、 (ろうそくのあかりもないこんなあかるいばしょではやけにこっけいにみえた。) 蝋燭の明かりもないこんな明るい場所ではやけに滑稽に見えた。 (まつうらのくちもとにれいしょうがうかんだのをみて、「わらわずきいてくれ」とししょうはいう。) 松浦の口元に冷笑が浮かんだのを見て、「笑わず聞いてくれ」と師匠は言う。
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