死滅回遊 -3-

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師匠シリーズ
以前cicciさんが更新してくださっていましたが、更新が止まってしまってしまったので、続きを代わりにアップさせていただきます。
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全部手打ちのため、読みなどによく間違いがあります。いつも修正ありがとうございます。
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1 berry 7818 7.9 98.2% 355.8 2833 51 58 2026/09/08
2 Jyo 6537 S+ 6.7 97.3% 421.9 2835 77 58 2026/09/09

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問題文

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(くるまはひがしへむかい、やがてかわぞいのみちにでた。) 車は東へ向かい、やがて川沿いの道に出た。 (どてにそってきたへむかっていると、) 土手に沿って北へ向かっていると、 (こんどはざわざわとひふがあわだつようなかんかくがやってきた。) 今度はざわざわと皮膚が粟立つような感覚がやってきた。 (ししょうもそれにきづいたようすで、すぐさまくるまをとめた。ていぼうのすぐそばだ。) 師匠もそれに気づいた様子で、すぐさま車を止めた。堤防のすぐそばだ。 (ぼくたちはくるまをふり、ていぼうにはりついた。それほどたかくない。) 僕たちは車を降り、堤防に張り付いた。それほど高くない。 (むなもとからうえがでるくらいのたかさだ。) 胸元から上が出るくらいの高さだ。 (めのまえにながれるのはしないのひがしをながれるおおきなかわだ。) 目の前に流れるのは市内の東を流れる大きな川だ。 (むかしはこくぶがわともよばれたらしい。) 昔は国分川とも呼ばれたらしい。 (むらとむらとをわける、さかいとなっていたかわだ。) ムラとムラとを分ける、境となっていた川だ。 (そのかわのむこうぎしに、ししょうはめをこらしている。) その川の向こう岸に、師匠は目を凝らしている。 (ていぼうにそってとうかんかくにがいとうがすえられているが、) 堤防に沿って等間隔に街灯が据えられているが、 (そのかんかくはかなりひろく、あたりはとてもくらかった。) その間隔はかなり広く、あたりはとても暗かった。 (ようやくくらさになれはじめために、かわのくろいすいめんがおともなくたゆたっている。) ようやく暗さに慣れ始めた目に、川の黒い水面が音もなくたゆたっている。 (ししょうはさっき、これはゆうれいじゃないといったが、) 師匠はさっき、これは幽霊じゃないと言ったが、 (いまじぶんがかんじているものはまちがいなくれいかんだった。) 今自分が感じているものは間違いなく霊感だった。 (だが、それはかぼそく、とるにたりないけはいにすぎなかった。) だが、それはか細く、取るに足りない気配に過ぎなかった。 (そのことがぎゃくにすすきぎみのわるさをましている。) そのことが逆に薄気味の悪さを増している。 (かわをこえたむこうぎしのほうから、なにかがちかづいてきている。) 川を超えた向こう岸の方から、何かが近づいてきている。 (れいてきななにかが。それはわかる。) 霊的ななにかが。それは分かる。 (しかしこんなよわいけはいしかかんじとれないものが、) しかしこんな弱い気配しか感じ取れないものが、
など
(かわからとおくはなれたししょうのへやにまで、そのいあつかんをとどけた、) 川から遠く離れた師匠の部屋にまで、その威圧感を届けた、 (ということにえたいのしれないそごがあるのだった。) ということに得体の知れない齟齬があるのだった。 (ししょうのいうように、ぼくらがへやでかんじたあのおぞましいかんじが、いやなよかん、) 師匠の言うように、僕らが部屋で感じたあのおぞましい感じが、嫌な予感、 (つまりむしのしらせのようなものだとするならば、) つまり虫の知らせのようなものだとするならば、 (これからいったいなにがおこるというのか。) これから一体なにが起こるというのか。 (ぼくはふあんと、せまってくるれいてきなそんざいのよわよわしさにたいするあんどとが) 僕は不安と、迫ってくる霊的な存在の弱々しさに対する安堵とが (いりまじったようなきもちをかかえ、じっとくらやみのむこうのけしきをみつめている。) 入り混じったような気持ちを抱え、じっと暗闇の向こうの景色を見つめている。 (「しめつかいゆう」) 「死滅回遊」 (そんなひびきがきこえた。) そんな響きが聞こえた。 (ぼくのとなりにいるししょうのくちから。) 僕の隣にいる師匠の口から。 (「え」とききかえすと、ししょうはつづける。) 「え」と訊きかえすと、師匠は続ける。 (「かいゆうぎょってきいたことあるだろ。) 「回遊魚って聞いたことあるだろ。 (おなじかいいきにずっとせいそくしてるさかなとちがって、くじらとかまぐろとかさ、) 同じ海域にずっと生息してる魚と違って、鯨とかマグロとかさ、 (なつはきたへ、ふゆはみなみへいどうしたりしながらくらしてるさかなのことだ。) 夏は北へ、冬は南へ移動したりしながら暮らしてる魚のことだ。 (えさになるぷらんくとんのはっせいいきのいどうをおっていったり、) 餌になるプランクトンの発生域の移動を追っていったり、 (すいおんのてきしたばしょをきせつごとにおっていったり。) 水温の適した場所を季節ごとに追っていったり。 (そうとうなきょりをおよいで、はんしょくもそんないどうのあいまにする。そういうやつらだ」) そうとうな距離を泳いで、繁殖もそんな移動の合間にする。そういうやつらだ」 (たんたんとしたくちょうだったが、そのめはじっとたいがんをみすえたまま) 淡々とした口調だったが、その目はじっと対岸を見据えたまま (みじろぎもしない。) 身じろぎもしない。 (ぼくはししょうのことばにみみをすませる。) 僕は師匠の言葉に耳をすませる。 (「そんなかいゆうぎょでもないのに、かいりゅうにのってほんらいのせいそくいきから) 「そんな回遊魚でもないのに、海流に乗って本来の生息域から (おおきくはなれたばしょまでやってくるさかながいる。) 大きく離れた場所までやって来る魚がいる。 (すずめだいのなかまとかな。) スズメダイの仲間とかな。 (そういうやつらは、なんぽうのうみからくろしおにのってやってくるんだけど、) そういうやつらは、南方の海から黒潮に乗ってやって来るんだけど、 (もともとねったい・あねったいのかいいきのさかなだから、にほんかいおきのあたりでふゆばになると、) 元々熱帯・亜熱帯の海域の魚だから、日本海おきのあたりで冬場になると、 (すいおんのていかにたえきれずにしんでしまうんだ。) 水温の低下に耐え切れずに死んでしまうんだ。 (かいゆうせいもなく、みなみのうみへもどることもできず、はんしょくすることもできない。) 回遊性もなく、南の海へ戻ることも出来ず、繁殖することも出来ない。 (ほんらい、せいぶつのもつもくてきは、だいいちにしゅをのこすことで、) 本来、生物の持つ目的は、第一に種を残すことで、 (だいにがそのためにみずからがいきることだ。) 第二がそのために自らが生きることだ。 (そのどちらもできず、まるでじさつするようにしんでいくそんなげんしょうのことを、) そのどちらも出来ず、まるで自殺するように死んでいくそんな現象のことを、 (「しめつかいゆう」とか「むこうぶんさん」っていうんだ」) 「死滅回遊」とか「無効分散」って言うんだ」 (「しめつ、かいゆう」) 「しめつ、かいゆう」 (ぼくはそのことばになにかふきつなものをかんじ、つばをのみこんだ。) 僕はその言葉になにか不吉なものを感じ、唾を飲み込んだ。 (「れいどうをたどるやつらも、そんな「しめつかいゆう」のようなことをくりかえしている」) 「霊堂を辿るやつらも、そんな「死滅回遊」のようなことを繰り返している」 (ししょうはそういって、うでをめのまえにのばし、ゆびさきをじょうげにゆらしながら) 師匠はそう言って、腕を目の前に伸ばし、指先を上下に揺らしながら (みぎからひだりへなみうつようなしぐさをみせた。) 右から左へ波打つような仕草を見せた。 (そうしてきっかいなひみつをしずかなくちょうでつげるのだった。) そうして奇怪な秘密を静かな口調で告げるのだった。 (「れいどうはわになっていない」と。) 「霊道は輪になっていない」と。
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