先生の怖い話「骸骨山」

問題文
(ぼくのいえのちかくにはつうしょう「がいこつやま」とよばれるちいさなやまこうえんがある。)
僕の家の近くには通称「骸骨山」と呼ばれる小さな山公園がある。
(ほんとうのなまえはべつにあるのだが、ようじからこうれいしゃまでみながみな、そうよぶ。)
本当の名前は別にあるのだが、幼児から高齢者まで皆が皆、そう呼ぶ。
(ぼくがちいさなころは、「うえからみるとずがいこつにみえる」だの)
僕が小さな頃は、「上から見ると頭蓋骨に見える」だの
(「せんじちゅうはびょういんだった」だの「やまにはぼうくうごうがあった」だの)
「戦時中は病院だった」だの「山には防空壕があった」だの
(さまざまなうわさがあった。ちなみにそのうわさはすべてじじつだった。)
様々な噂があった。ちなみにその噂は全て事実だった。
(ぼくががくせいのころのあるねぐるしいよるだった。)
僕が学生の頃のある寝苦しい夜だった。
(ぼくのへやはにかいだったのだが、なにかはわからないがなにかがおかしかった。)
僕の部屋は二階だったのだが、何かはわからないが何かがおかしかった。
(ぼくはそとがきになってぶらいんどをあげた。)
僕は外が気になってブラインドを上げた。
(・・・がいこつやまが・・・おかしい・・・。)
・・・骸骨山が・・・おかしい・・・。
(よなかなのにとりがとんでないている。それいがいにきぎのざわめき、)
夜中なのに鳥が飛んで鳴いている。それ以外に木々のざわめき、
(はのすれるおと、なにかがいつもとはちがう。なによりまっくろにみえた。)
葉の擦れる音、何かがいつもとは違う。何より真っ黒に見えた。
(ぼくはそのとき、じしんがくるのかな・・・?とおもったことをおぼえている。)
僕はその時、地震が来るのかな・・・?と思ったことを覚えている。
(それほどなにかがおかしかった。ふあんかんをおしころしてぼくはねどこについた。)
それほど何かがおかしかった。不安感を押し殺して僕は寝床についた。
(ぼくはすぐにねむりについたが、なぜかとちゅうでめがさめた。)
僕はすぐに眠りについたが、なぜか途中で目が覚めた。
(するとまよなかのはずなのにへやがせぴあいろにみえて、からだがうごかない。)
すると真夜中のはずなのに部屋がセピア色に見えて、体が動かない。
(ぞくにいうかなしばりだ。ぼくはそのときはよゆうがあって、)
俗にいう金縛りだ。僕はその時は余裕があって、
(これがかなしばりか・・・ほんとうにうごかないな・・・でもめはうごく・・・。)
これが金縛りか・・・本当に動かないな・・・でも目は動く・・・。
(などとかんがえてじょうきょうをたのしむよゆうがあった。)
などと考えて状況を楽しむ余裕があった。
(ぼくのへやはほうこうでいうとあしがわにがいこつやまがみえるまどがあり、)
僕の部屋は方向で言うと足側に骸骨山が見える窓があり、
(そのよこにかいだんにつづくどあがある。ねこをかっているので)
その横に階段に続くドアがある。猫を飼っているので
(いつもどあはあけはなしてあるのだが、あけはなされたどあとかべの、)
いつもドアは開け放してあるのだが、開け放されたドアと壁の、
(ほんのすうじゅっせんちほどのあいだにしんじられないものをみた・・・。)
ほんの数十センチほどの間に信じられないものを見た・・・。
(はんしんしかでていなかったが、しろっぽいわんぴーすをきたおんながせいざしていた。)
半身しかでていなかったが、白っぽいワンピースを着た女が正座していた。
(そんなわずかなすきまにひとがはいれるわけはない!)
そんなわずかな隙間に人が入れるわけはない!
(つたわりにくいだろうが、うすっぺらでもなくこびとでもないふつうのおんなが、)
伝わりにくいだろうが、薄っぺらでもなく小人でもない普通の女が、
(すべてのむじゅんをこえてそこにいた。ぞっとしてひやあせがではじめた・・・。)
全ての矛盾を超えてそこにいた。ゾッとして冷や汗が出始めた・・・。
(そのそんざいにぼくがきがついたとどうじに、そのおんながどあのかげからすべるように、)
その存在に僕が気が付いたと同時に、その女がドアの陰から滑るように、
(たいせいをかえることなく、せいざしたじょうたいのまますべるようにゆっくりとでてきた。)
体勢を変えることなく、正座した状態のまま滑るようにゆっくりとでてきた。
(ぼくはぱにっくにおちいったがからだはうごかないまま・・・、じぶんのあらいいきづかいと)
僕はパニックに陥ったが体は動かないまま・・・、自分の荒い息遣いと
(せなかまでびっしょりのあせのなか、じぶんのあしもとまできているおんなをみていた。)
背中までびっしょりの汗の中、自分の足元まで来ている女を見ていた。
(ぼくのあしくびがらんぼうにつかまれた。そしてふともも、はら、かた、)
僕の足首が乱暴に掴まれた。そして太もも、腹、肩、
(そしてさいごははなとくちだった。はなとくちをおさえつけられこきゅうができないまま、)
そして最後は鼻と口だった。鼻と口を押さえつけられ呼吸ができないまま、
(ぼくのいしきはとおのいていった。)
僕の意識は遠のいていった。
(きぶんさいあくでめざめたあさ、ちょうしょくをとっていたとき、ははおやに)
気分最悪で目覚めた朝、朝食をとっていた時、母親に
(「きのうへんなゆめみたわー」とじょうきのことをはなすと、)
「昨日変な夢見たわー」と上記のことを話すと、
(「あんた、そんなてれびばっかりみてるからや!」)
「あんた、そんなテレビばっかり見てるからや!」
(とおきまりのもんくがかえってきた。しょうじき、じぶんでもそうかな、とおもっていたので、)
とお決まりの文句が返ってきた。正直、自分でもそうかな、と思っていたので、
(それいじょうそのはなしはふくらまなかった。そのときは・・・。)
それ以上その話は膨らまなかった。その時は・・・。
(それからいっしゅうかんごのにちようび、ぼくがじぶんのへやでだらだらしていると、)
それから一週間後の日曜日、僕が自分の部屋でダラダラしていると、
(とつぜんははおやがはいってきて、「あんた、これちょっとおいとき」)
突然母親が入ってきて、「あんた、これちょっと置いとき」
(とだけいって、ぼくにしおをわたし、でていった。)
とだけ言って、僕に塩を渡し、出て行った。
(わけのわからないぼくはははおやをよびとめじじょうをきくと、ちょうどいっしゅうかんまえ、)
訳の分からない僕は母親を呼び止め事情を聴くと、ちょうど一週間前、
(つまりぼくがあのみょうなおんなをみたひ、がいこつやまでじさつがあったらしい。)
つまり僕があの妙な女を見た日、骸骨山で自殺があったらしい。
(じさつというのは、かんぜんにみもとがわれていてじけんせいがなかったばあい、)
自殺というのは、完全に身元が割れていて事件性がなかった場合、
(おおやけにはならないのだそうだ。)
公にはならないのだそうだ。
(とはいってもやはりじもとじゅうみんにはうわさはひろがるわけで・・・。)
とはいってもやはり地元住民には噂は広がるわけで・・・。
(そのうわさがははにとどくまでにいっしゅうかんかかったというわけだ。)
その噂が母に届くまでに一週間かかったというわけだ。
(うわさではそのじさつしたひとはじょせいでしろっぽいわんぴーすをきていて、)
噂ではその自殺した人は女性で白っぽいワンピースを着ていて、
(しんやのがいこつやまのちょうじょうふきんのおおきなきでくびをつったらしい。)
深夜の骸骨山の頂上付近の大きな木で首を吊ったらしい。
(ゆうれいかいぎはのははも、ぼくがそれをいったにちじ、ふくそうのいっちはさすがにきもちわるく、)
幽霊懐疑派の母も、僕がそれを言った日時、服装の一致は流石に気持ち悪く、
(ねんのためしおをもってきたというわけだ。)
念の為塩を持ってきたというわけだ。
(なんでぼくのところにあらわれたのかはわからない。)
なんで僕のところに現れたのかはわからない。
(なにがいいたかったのかもわからないが、)
何が言いたかったのかもわからないが、
(あのこういからしてあくいがないとはかんがえにくい。)
あの行為からして悪意がないとは考えにくい。
(それいらい、いちどもあらわれないのできにはしていないが、)
それ以来、一度も現れないので気にはしていないが、
(ぐうぜんはちょうがあったものをむさべつにおそうものとかんがえるなら、)
偶然波長が合った者を無差別に襲うものと考えるなら、
(ひじょうにおそろしくたちのわるいものだ・・・。)
非常に恐ろしく質の悪いものだ・・・。
(ただひとつ・・・つよくいいたい。)
ただ一つ・・・強く言いたい。
(ははよ・・・。しょくえんじゃきっとむりだ。)
母よ・・・。食塩じゃきっと無理だ。