『白い門のある家』小川未明2【完】

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プレイ回数713難易度(4.5) 3577打 長文
亡くなったいとこに似ている男と一緒に、不思議な喫茶店へ行くと…
十字路は、別名四つ辻と呼ばれ、
古来よりあの世との境とされており、
神隠しに会いやすいのだとか

※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

↓のURLからの続きですので、未プレイの方はプレイしてから
こちらのタイピングをしてください
https://typing.twi1.me/game/312841

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問題文

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(「あそこにいるひとは、よくここへやってくるひとたちなんですよ」と、)

「あそこにいる人は、よくここへやってくる人たちなんですよ」と、

(あいてのおとこはいいました。かれは、そのひとたちをみると、)

相手の男は言いました。彼は、その人たちを見ると、

(どのかおも、かつていちどは、どこかでみたことがあるようにおもわれたので、)

どの顔も、かつて一度は、どこかで見たことがあるように思われたので、

(びっくりしました。しかし、どこであったのか、またいつあったのかも、)

びっくりしました。しかし、どこで会ったのか、またいつ会ったのかも、

(おもいだせなかったのです。「ふしぎなばんもあるものだ。)

思い出せなかったのです。「不思議な晩もあるものだ。

(こう、あうひとびとのかおが、みんなみおぼえのあるようなきがするのは、)

こう、会う人々の顔が、みんな見覚えのあるような気がするのは、

(いったいどういうことだろう」と、かれはじぶんのめをうたがいました。)

一体どういうことだろう」と、彼は自分の目を疑いました。

(そのうちに、あいてのおとこは、あちらにいるひとたちとかおをみあわして、)

そのうちに、相手の男は、あちらにいる人たちと顔を見合わして、

(あいさつをしました。そして、「ちょっと」といって、)

あいさつをしました。そして、「ちょっと」と言って、

(せきからたって、あちらへいきました。)

席から立って、あちらへ行きました。

(かれは、おくのほうからきこえるまんどりんのおとに、みみをかたむけていました。)

彼は、奥の方から聞こえるマンドリンの音に、耳を傾けていました。

(なんといういいねいろだろうとおもったのです。)

なんといういい音色だろうと思ったのです。

(これをきいていると、とおいむかしのことをおもいだし、かなしくなりました。)

これを聞いていると、遠い昔のことを思い出し、悲しくなりました。

(そして、だれがそれをひいているのかとおもいました。)

そして、だれがそれを弾いているのかと思いました。

(そのうちに、ぴたりとまんどりんのおとがやみました。)

そのうちに、ピタリとマンドリンの音がやみました。

(そのときめのまえに、うつくしくてわかいふじんがあらわれて、)

そのとき目の前に、美しくて若い婦人が現れて、

(そのひとは、かれのほうへ、にこやかにわらいながらきました。)

その人は、彼の方へ、にこやかに笑いながら来ました。

(「あなたは、もうわたしをおわすれになったでしょう」と、ふじんはいって、)

「あなたは、もう私をお忘れになったでしょう」と、婦人は言って、

(かれのまえにきて、こしをかけました。)

彼の前に来て、腰をかけました。

(「あなたは、いつもわたしがまんどりんをひいているまどのしたをとおって、)

「あなたは、いつも私がマンドリンを弾いている窓の下を通って、

など

(がっこうへいきました。そしてあるひ、あめがふって、)

学校へ行きました。そしてある日、雨が降って、

(あなたは、たいそうこまっておりました。わたしはあなたに、かさをかしました。)

あなたは、たいそう困っておりました。私はあなたに、傘を貸しました。

(あなたはよくじつ、わたしにきれいなほんをもって、きてくださいました。)

あなたは翌日、私にきれいな本を持って、来てくださいました。

(そのほんには、たくさんのうつくしいえがはいっていました。)

その本には、たくさんの美しい絵が入っていました。

(むかしのでんせつや、し、どうよう、おはなしなど、いろいろなものがかかれていたけれど、)

昔の伝説や、詩、童謡、お話など、色々なものが書かれていたけれど、

(がいこくのことばで、わたしにはわかりませんでした。)

外国の言葉で、私には分かりませんでした。

(なので、ただ、そのきれいなえばかりをみていました。)

なので、ただ、そのきれいな絵ばかりを見ていました。

(あなたにきいたら、このほんはふるいしょもつで、じしょにもないもじがあるので、)

あなたに聞いたら、この本は古い書物で、辞書にもない文字があるので、

(ほんやくするのはこんなんだといいましたね」と、かのじょはいいました。)

翻訳するのは困難だと言いましたね」と、彼女は言いました。

(かれは、このはなしをきくうちに、じゅうねんばかりまえのことをおもいだしました。)

彼は、この話を聞くうちに、十年ばかり前のことを思い出しました。

(そして、どうしてわすれていたそのころのひとを、)

そして、どうして忘れていたその頃の人を、

(ふたたびこんや、みることができたのだろうと、ふしぎにおもったのでした。)

ふたたび今夜、見ることができたのだろうと、不思議に思ったのでした。

(「すっかりわすれていました。たしかに、そんなことがありました。)

「すっかり忘れていました。たしかに、そんなことがありました。

(いま、あのころのことをおもいだしました」と、かれはいって、)

今、あの頃のことを思い出しました」と、彼は言って、

(すぎさったひをなつかしくおもったのであります。)

過ぎ去った日を懐かしく思ったのであります。

(「わたしはときどき、ここへきます。こんやは、もうおそくなりましたから、かえります。)

「私は時々、ここへ来ます。今夜は、もう遅くなりましたから、帰ります。

(ちょうどくるまもきたようですから、これでしつれいいたします。)

ちょうど車も来たようですから、これで失礼いたします。

(またいつか、おめにかかるでしょう」と、そのふじんはいって、でていきました。)

またいつか、お目にかかるでしょう」と、その婦人は言って、出ていきました。

(とけいがじゅうにじはんになると、みんながかえりだしました。)

時計が十二時半になると、みんなが帰りだしました。

(かれはあいてのおとこといっしょに、そのきっさてんからでました。)

彼は相手の男と一緒に、その喫茶店から出ました。

(「とてもきもちのいいきっさてんでしょう。)

「とても気持ちのいい喫茶店でしょう。

(きにいりましたか」と、あいてのおとこはたずねました。)

気に入りましたか」と、相手の男は尋ねました。

(「なつかしいきもちのする、いいところでした。)

「懐かしい気持ちのする、いい所でした。

(わたしは、こんやはめずらしく、みおぼえのあるひとたちとであって、)

私は、今夜は珍しく、見覚えのある人たちと出会って、

(いろいろなことがおもいだされてなりません」と、かれはこたえました。)

色々なことが思い出されてなりません」と、彼は答えました。

(ふたりは、つきがほのかにかすむはるのよるに、はなしながらあるいて、)

二人は、月がほのかにかすむ春の夜に、話しながら歩いて、

(じゅうじろのところへきました。すると、あいてのおとこは、)

十字路の所へ来ました。すると、相手の男は、

(「わたしのいえは、ここからさんげん、おくにはいったところにあります。)

「私の家は、ここから三軒、奥にはいった所にあります。

(どうか、あそびにきてください」といいました。)

どうか、遊びに来てください」と言いました。

(かれは、いえへかえるときにちょうどそのまえをとおりますので、)

彼は、家へ帰るときにちょうどその前を通りますので、

(おとこのうしろすがたをみおくりますと、そこにしろいもんがたっていました。)

男のうしろ姿を見送りますと、そこに白い門が立っていました。

(おとこは、だんだんしろいもんからうちのほうへ、はいっていきました。)

男は、だんだん白い門から内の方へ、はいっていきました。

(かれはいえにかえって、ねむりにつきました。)

彼は家に帰って、眠りにつきました。

(それから、すうじつたったあるばん、かれはおとこといったきっさてんをおもいだしました。)

それから、数日たったある晩、彼は男と行った喫茶店を思い出しました。

(みどりいろのかーてんがたれているきっさてんに、もういちどいってみたくなりました。)

緑色のカーテンが垂れている喫茶店に、もう一度行ってみたくなりました。

(そこで、かれはひとりででかけたのでした。)

そこで、彼は一人で出かけたのでした。

(たしかに、あのときとおったみちをあるいていったのだが、)

たしかに、あのとき通った道を歩いて行ったのだが、

(どうしたことか、そのきっさてんがみあたりませんでした。)

どうしたことか、その喫茶店が見当たりませんでした。

(かれは、なんどもおなじまちをうろついて、)

彼は、何度も同じ町をうろついて、

(みどりいろのかーてんがかかっているきっさてんをさがしましたが、みつかりません。)

緑色のカーテンがかかっている喫茶店を探しましたが、見つかりません。

(「あのおとこのいえはどうだろうか」と、こんどはしろいもんのある)

「あの男の家はどうだろうか」と、今度は白い門のある

(いえへいこうとしました。しかし、このいえもみあたらなかったのです。)

家へ行こうとしました。しかし、この家も見当たらなかったのです。

(じゅうじろにたって、かれは、さんげんのいえをかぞえてみましたが、)

十字路に立って、彼は、三軒の家を数えてみましたが、

(どこにもしろいもんのあるいえは、なかったのでした。)

どこにも白い門のある家は、なかったのでした。

(かれは、きんじょのひとにきいてみました。)

彼は、近所の人に聞いてみました。

(「ここらへんに、しろいもんのあるいえはありません」と、ひとびとはこたえました。)

「ここらへんに、白い門のある家はありません」と、人々は答えました。

(かれが、このことをいえのひとや、ともだちなどにはなすと、)

彼が、このことを家の人や、友だちなどに話すと、

(みんなわらってしんじようとせず、「ゆめをみたのだろう」というのでした。)

みんな笑って信じようとせず、「夢を見たのだろう」と言うのでした。

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