『白い門のある家』小川未明1
古来よりあの世との境とされており、
神隠しに会いやすいのだとか
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております
こちらのタイピングの続きは↓のURLです
https://typing.twi1.me/game/312847
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ホルムアルデヒド | 6730 | S+ | 6.9 | 97.5% | 482.0 | 3327 | 83 | 65 | 2024/09/26 |
関連タイピング
-
プレイ回数10万歌詞200打
-
プレイ回数3.2万歌詞1030打
-
プレイ回数4309かな314打
-
プレイ回数75万長文300秒
-
プレイ回数2101歌詞1426打
-
プレイ回数89歌詞959打
-
プレイ回数6.8万長文かな313打
-
プレイ回数144長文240秒
問題文
(しずかな、はるのばんのことでありました。)
静かな、春の晩のことでありました。
(ひとりのおとこがしごとをしていて、つかれたものですから、)
一人の男が仕事をしていて、疲れたものですから、
(どこかのきっさてんへでもいって、こーひーをのんできたいとおもいました。)
どこかの喫茶店へでも行って、コーヒーを飲んできたいと思いました。
(おとこはいえのそとへでました。そとはつきがほのかにかすんでみえ、)
男は家の外へ出ました。外は月がほのかにかすんで見え、
(なにもかもがゆめをみているようで、あちらのたかいとうもおかもそらももりも、)
なにもかもが夢を見ているようで、あちらの高い塔も丘も空も森も、
(みんなかすんで、くろくぼんやりとうきだして、じっとしていたのです。)
みんなかすんで、黒くぼんやりと浮きだして、ジッとしていたのです。
(かれはまちへでてから、はじめてよるがもうふけているのにきづきました。)
彼は町へ出てから、はじめて夜がもう更けているのに気づきました。
(いままでへやのなかでしごとをしていたので、)
今まで部屋の中で仕事をしていたので、
(じかんがたっているのがわからなかったのでした。)
時間がたっているのが分からなかったのでした。
(まちには、あまりひとがあるいていませんでした。)
町には、あまり人が歩いていませんでした。
(くわえて、このじかんまでみせをあけているところもみあたりませんでした。)
加えて、この時間まで店をあけている所も見当たりませんでした。
(「もう、あのみせもあいてないだろうなあ」)
「もう、あの店もあいてないだろうなあ」
(かれは、いきつけのきっさてんがとをしめていないことをのぞみ、)
彼は、行きつけの喫茶店が戸を閉めていないことを望み、
(そのほうへぶらぶらとあるいていきました。)
その方へブラブラと歩いて行きました。
(かれはあるきながらそらをみて、なんといういいけしきだ、とかんたんしました。)
彼は歩きながら空を見て、なんといういい景色だ、と感嘆しました。
(かれがいこうとしていたきっさてんは、もうとをしめていました。)
彼が行こうとしていた喫茶店は、もう戸を閉めていました。
(かれは、そのいえのまえまできて、がっかりしました。)
彼は、その家の前まで来て、がっかりしました。
(しかたがないので、かれはいままであるいてきたみちをもどろうとしました。)
しかたがないので、彼は今まで歩いてきた道を戻ろうとしました。
(そのとき、ふいにかれのうしろであしおとがきこえました。)
そのとき、ふいに彼のうしろで足音が聞こえました。
(だれかがこちらにあるいてくるようです。)
だれかがこちらに歩いて来るようです。
(「こんばんは、おつかれさま」と、うしろからよびかけられました。)
「こんばんは、お疲れさま」と、うしろから呼びかけられました。
(かれはたちどまって、だれだろうかとおもい、ふりかえりました。)
彼は立ち止まって、だれだろうかと思い、振り返りました。
(うしろからあるいてきたひとを、かれはしりませんでした。)
うしろから歩いてきた人を、彼は知りませんでした。
(「こんばんは」と、かれもこたえました。)
「こんばんは」と、彼も答えました。
(するとあいてのおとこは、さもしたしそうにかれのそばへよってきて、)
すると相手の男は、さも親しそうに彼のそばへ寄って来て、
(「わたしは、このちょうないにすんでいるものです。)
「私は、この町内に住んでいる者です。
(つかれたので、こーひーをのもうとしてきたのですが、とがしまっていました。)
疲れたので、コーヒーを飲もうとして来たのですが、戸が閉まっていました。
(あなたもそのつもりでいらしたようにみえますが、)
あなたもそのつもりでいらしたように見えますが、
(いいきっさてんまでごあんないいたしましょうか」といいました。)
いい喫茶店までご案内いたしましょうか」と言いました。
(かれは、しらないひとからこういわれたので、ためらいました。)
彼は、知らない人からこう言われたので、ためらいました。
(しかし、ちょうないのものであるということ、また、このひとはひとがよさそうで、)
しかし、町内の者であるということ、また、この人は人がよさそうで、
(じぶんとおなじように、このひともしごとにつかれてきゅうそくをもとめにきたということ、)
自分と同じように、この人も仕事に疲れて休息を求めに来たということ、
(そんなことから、なんとなくしたしみをかんじたので、)
そんなことから、なんとなく親しみを感じたので、
(「じつはわたしも、さんぽがてらこーひーをのみにいったのですが、)
「じつは私も、散歩がてらコーヒーを飲みに行ったのですが、
(もうとがしまっていたのです」と、かれはいいました。)
もう戸が閉まっていたのです」と、彼は言いました。
(「このへんのまちは、あまりきゃくがこないので、はやくねてしまいますからね。)
「この辺の町は、あまり客が来ないので、早く寝てしまいますからね。
(はるのばんなのだから、もっとあけておいてもいいのに」と、おとこはこたえました。)
春の晩なのだから、もっとあけておいてもいいのに」と、男は答えました。
(「もう、そんなにおそいじこくでしょうか」「まだ、じゅうにじまえです」)
「もう、そんなに遅い時刻でしょうか」「まだ、十二時前です」
(かれは、あいてのおとこがじゅうにじといったので、)
彼は、相手の男が十二時と言ったので、
(もうしめるのはあたりまえだというようなきもしました。)
もう閉めるのは当たり前だというような気もしました。
(そして、いえへかえって、じぶんもねむろうとかんがえました。)
そして、家へ帰って、自分も眠ろうと考えました。
(「なに、ごあんないしようというみせは、すぐこのうらどおりですよ。)
「なに、ご案内しようという店は、すぐこの裏通りですよ。
(ついさいきんにかいてんしたので、ちょっといごこちのいいみせですから、)
つい最近に開店したので、ちょっと居心地のいい店ですから、
(いっしょにいきましょう」と、あいてのおとこはいいました。)
一緒に行きましょう」と、相手の男は言いました。
(かれは、こうまでいわれると、そのおとこといっしょにいかなければ、)
彼は、こうまで言われると、その男と一緒に行かなければ、
(なんとなくすまないようにおもって、「では、いきましょう」といいました。)
なんとなくすまないように思って、「では、行きましょう」と言いました。
(ふたりは、ならんではなしながら、あるよこちょうをまがりました。)
二人は、並んで話しながら、ある横丁を曲がりました。
(かれはいままでも、たびたびこのあたりをとおったことがありますが、)
彼は今までも、度々このあたりを通ったことがありますが、
(こんやは、どうしたものか、そのまちがすごくうつくしくめにうつったのです。)
今夜は、どうしたものか、その町がすごく美しく目に映ったのです。
(かれは、つきのひかりがすべてのものをうつくしくてらしているのだろうとおもいました。)
彼は、月の光がすべてのものを美しく照らしているのだろうと思いました。
(やがて、ふたりはあかるいみせのまえまできました。)
やがて、二人は明るい店の前まで来ました。
(「このいえですよ」と、いっしょにきたおとこがいいました。)
「この家ですよ」と、一緒に来た男が言いました。
(いりぐちには、さわやかなみどりいろのかーてんがたれています。)
入り口には、爽やかな緑色のカーテンが垂れています。
(てんないにはいると、なんのはなかしらないが、)
店内に入ると、なんの花か知らないが、
(かおりのつよいはなが、たくさんびんにいけてありました。)
香りの強い花が、たくさんビンに生けてありました。
(そして、てーぶるにさん、よにんのきゃくがこしをかけて、はなしをしていました。)
そして、テーブルに三、四人の客が腰をかけて、話をしていました。
(また、どのへやからか、ひくいまんどりんのおとが、ながれてきたのでした。)
また、どの部屋からか、低いマンドリンの音が、流れて来たのでした。
(かれとあいてのおとこは、ひとつのてーぶるにむかいあってすわりました。)
彼と相手の男は、一つのテーブルに向かい合って座りました。
(このとき、かれははじめてあいてのおとこのかおを、)
このとき、彼は初めて相手の男の顔を、
(はっきりとしたあかりのもとでみることができました。)
はっきりとした明かりのもとで見ることができました。
(そして、あまりにもそのおとこのかおが、ちいさいころにわかれた、)
そして、あまりにもその男の顔が、小さい頃に別れた、
(じぶんのいとこににているので、びっくりしました。)
自分のいとこに似ているので、びっくりしました。
(いとこは、なんようのしまでなくなったので、)
いとこは、南洋の島で亡くなったので、
(もちろんいとこがいきているはずはないのだが、)
もちろんいとこが生きているはずはないのだが、
(なんとなくかれは、なつかしいきがしました。)
なんとなく彼は、懐かしい気がしました。