チャンス(4/6)太宰治

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1 もっちゃん先生 4731 C++ 5.0 94.0% 613.5 3098 195 51 2024/03/24

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問題文

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(あれはわたしがひろさきのこうとうがっこうにはいって、そのよくとしの)

あれは私が弘前(ひろさき)の高等学校にはいって、その翌年の

(にがつのはじめごろだったのではなかったかしら、とにかくふゆの、)

二月の初め頃だったのではなかったかしら、とにかく冬の、

(しかもだいかんのころのはずである。どうしてもだいかんのころでなければ)

しかも大寒(だいかん)の頃の筈である。どうしても大寒の頃でなければ

(ならぬわけがあるのだが、しかし、そのわけは、あとでいうことにして、)

ならぬ訳があるのだが、しかし、その訳は、後で言う事にして、

(なんのえんかいであったか、しごじゅうにんのえんかいがひろさきのあるりょうていでひらかれ、)

なんの宴会であったか、四五十人の宴会が弘前の或る料亭で開かれ、

(わたしがもじどおりそのまっせきにさむさにふるえながらすわっていたことから、)

私が文字通りその末席に寒さに震えながら坐っていた事から、

(このはなしをはじめたほうがよさそうである。あれはなんのえんかいであったろう。)

この話を始めた方が良さそうである。あれはなんの宴会であったろう。

(なにかぶんげいにかんけいのあるえんかいだったようなきもする。ひろさきのしんぶんきしゃたち、)

何か文芸に関係のある宴会だったような気もする。弘前の新聞記者たち、

(それからまちのえんげきけんきゅうかいみたいなもののめんばー、)

それから町の演劇研究会みたいなもののメンバー、

(それからこうとうがっこうのせんせい、せいとなど、いろいろなひとたちで、)

それから高等学校の先生、生徒など、いろいろな人たちで、

(かなりたにんずうのえんかいであった。)

かなり多人数の宴会であった。

(こうとうがっこうのせいとでそこにしゅっせきしていたのは、ほとんどじょうきゅうせいばかりで、)

高等学校の生徒でそこに出席していたのは、ほとんど上級生ばかりで、

(いちねんせいは、わたしひとりであったようなきがする。とにかく、わたしはまっせきであった。)

一年生は、私一人であったような気がする。とにかく、私は末席であった。

(かすりのきものにはかまをはいて、ちいさくなってすわっていた。)

絣(かすり)の着物に袴をはいて、小さくなって坐っていた。

(げいしゃがわたしのまえにきてすわって、「おさけは?のめないの?」「だめなんだ。」)

芸者が私の前に来て坐って、「お酒は?飲めないの?」「だめなんだ。」

(とうじ、わたしはまだにほんしゅがのめなかった。あのにおいがいやでたまらなかった。)

当時、私はまだ日本酒が飲めなかった。あの匂いが厭でたまらなかった。

(びいるものめなかった。にがくて、とても、いけなかった。ぽーとわいんとか、)

ビイルも飲めなかった。苦くて、とても、いけなかった。ポートワインとか、

(しろざけとか、あまみのあるさけでなければのめなかった。)

白酒とか、甘味のある酒でなければ飲めなかった。

(「あなたは、ぎだゆうをおすきなの?」「どうして?」)

「あなたは、義太夫をお好きなの?」「どうして?」

(「きょねんのくれに、あなたはことさをききにいらしてたわね。」)

「去年の暮れに、あなたは小土佐(ことさ)を聞きにいらしてたわね。」

など

(「そう。」「あのとき、あたしはあなたのそばにいたのよ。)

「そう。」「あの時、あたしはあなたの傍にいたのよ。

(あなたはけいこぼんなんかだして、なんだかしるしをつけたりして、きざだったわね。)

あなたは稽古本なんか出して、何だか印をつけたりして、キザだったわね。

(おけいこもやってるの?」「やっている。」「かんしんね。おししょうさんはだれ?」)

お稽古もやってるの?」「やっている。」「感心ね。お師匠さんは誰?」

(「さきえだゆうさん。」「そう。いいおししょうさんについたわね。)

「咲栄太夫(さきえだゆう)さん。」「そう。いいお師匠さんについたわね。

(あのかたは、このひろさきではいちばんじょうずよ。それにおとなしくて、いいひとだわ。」)

あの方は、この弘前では一番上手よ。それにおとなしくて、いい人だわ。」

(「そう。いいひとだ。」「あんなひと、すき?」「ししょうだもの。」)

「そう。いい人だ。」「あんな人、好き?」「師匠だもの。」

(「ししょうだからどうなの?」「そんな、すきだのきらいだのって、あのひとにしっけいだ。)

「師匠だからどうなの?」「そんな、好きだの嫌いだのって、あの人に失敬だ。

(あのひとはほんとうにまじめなひとなんだ。すきだのきらいだの。そんな、ばかな。」)

あの人は本当に真面目な人なんだ。好きだの嫌いだの。そんな、バカな。」

(「おや、そうですか。いやにかたくるしいのね。あなたはこれまでげいしゃあそびを)

「おや、そうですか。いやに固苦しいのね。あなたはこれまで芸者遊びを

(したことなんかあるの?」「これからやろうとおもっている。」)

した事なんかあるの?」「これからやろうと思っている。」

(「そんなら、あたしをよんでね、あたしのなはね、おしのというのよ。)

「そんなら、あたしを呼んでね、あたしの名はね、おしのと言うのよ。

(わすれないようにね。」むかしのくだらないかりゅうしょうせつなんていうものに、)

忘れないようにね。」昔のくだらない花柳(かりゅう)小説なんていうものに、

(よくこんなばめんがあって、そうして、それが「みょうなえん」ということになり、)

よくこんな場面があって、そうして、それが「妙な縁」という事になり、

(そこかられんあいがはじまるというちんぷなしゅこうがすくなくなかったようであるが、)

そこから恋愛が始まるという陳腐な趣向が少なくなかったようであるが、

(しかし、わたしのこのたいけんだんにおいては、なんのれんあいもはじまらなかった。したがって)

しかし、私のこの体験談に於いては、何の恋愛も始まらなかった。したがって

(これはちっともわたしのおのろけというわけのものではないから、)

これはちっとも私のおのろけと言う訳のものでは無いから、

(どくしゃもけいかいごむようにしていただきたい。)

読者も警戒御無用にしていただきたい。

(えんかいがおわってわたしはりょうていからでた。こなゆきがふっている。ひどくさむい。)

宴会が終わって私は料亭から出た。粉雪が降っている。ひどく寒い。

(「まってよ。」げいしゃはよっている。おこそずきんをかぶっている。)

「待ってよ。」芸者は酔っている。お高祖頭巾(こそずきん)をかぶっている。

(わたしはたちどまってまった。そうしてわたしは、あるちいさいりょうていにあんないせられた。)

私は立ち止まって待った。そうして私は、或る小さい料亭に案内せられた。

(おんなは、そこのかかえげいしゃとでもいうようなものであったらしい。)

女は、そこの抱え芸者とでも言うようなものであったらしい。

(おくのへやにとおされて、わたしはこたつにあたった。おんなはさけやりょうりをじぶんで)

奥の部屋に通されて、私は炬燵(こたつ)にあたった。女は酒や料理を自分で

(へやにはこんできて、それからそのいえのほうばいらしい)

部屋に運んで来て、それからその家の朋輩(ほうばい)らしい

(げいしゃをふたりよんだ。みなもんつきをきていた。なぜもんつきをきていたのか)

芸者を二人呼んだ。みな紋付を着ていた。なぜ紋付を着ていたのか

(わたしにはわからなかったが、とにかくそのよっているおしのというげいしゃも、)

私には分からなかったが、とにかくその酔っているお篠(しの)という芸者も、

(そのほうばいのげいしゃも、みなもんのついたすそのながいきものをきていた。)

その朋輩の芸者も、みな紋の付いた裾の長い着物を着ていた。

(おしのは、ふたりのほうばいをまえにして、せんげんした。)

お篠は、二人の朋輩を前にして、宣言した。

(「あたしは、こんどは、このひとをすきになることにしましたから、)

「あたしは、今度は、この人を好きになる事にしましたから、

(そのつもりでいてください。」ふたりのほうばいは、いやなかおをした。そうして、)

そのつもりでいてください。」二人の朋輩は、イヤな顔をした。そうして、

(ふたりでかおをみあわせ、なにかめでかたり、それからふたりのうちのわかいほうのげいしゃが)

二人で顔を見合わせ、何か眼で語り、それから二人のうちの若い方の芸者が

(ひざをすこしすすめて、「ねえさん、それはほんき?」とおこっているようなくちょうでとうた。)

膝を少し進めて、「姉さん、それは本気?」と怒っているような口調で問うた。

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