童話『鉛姫』
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問題文
(むかし、むかし、なまりのにんぎょうがありました。)
むかし、むかし、鉛の人形がありました。
(そのにんぎょうはにんげんのひめとしてたいせつにあつかわれすべてをもっていましたが、)
その人形は人間の姫として大切にあつかわれすべてをもっていましたが、
(たったひとつ、いろをみることだけができませんでした。)
たったひとつ、色を見ることだけができませんでした。
(どうしてもいろがみたくてしかたがないなまりのひめは、おうにねがってはこまらせ、)
どうしても色がみたくてしかたがない鉛の姫は、王にねがってはこまらせ、
(まじゅつしにねがってはことわられ、)
まじゅつしにねがってはことわられ、
(いまにとりやねずみにまでねがうようでした。)
いまに鳥やねずみにまでねがうようでした。
(あんまりにいろをみたいものですから、)
あんまりに色を見たいものですから、
(ついになまりのひめはわるいあくまにねがってしまいました。)
ついに鉛の姫はわるいあくまにねがってしまいました。
(するとせかいじゅうのいろがひめのもとにいっぺんにやってきました。)
すると世界中の色が姫のもとにいっぺんにやってきました。
(でも、いっぺんにやってきたものですから、)
でも、いっぺんにやってきたものですから、
(せかいのほうにいろがなくなってしまったのです。)
世界のほうに色がなくなってしまったのです。
(おどろいたひめはもとにもどすようおねがいしますが、わるいあくまは)
おどろいた姫は元に戻すようお願いしますが、わるいあくまは
(そんなわがままなことはできません。)
「そんなわがままなことはできません。
(もしいちばんたいせつなものをいただけたらせかいにいろをかえしてあげましょう)
もし一番大切なものをいただけたら世界に色を返してあげましょう」
(といってきえてしまいました。)
といってきえてしまいました。
(いろがなくなってからというもの、せかいはかなしみにつつまれ、)
色がなくなってからというもの、世界は悲しみにつつまれ、
(しだいにひとびとのこころが、かぞくが、くにじゅうがあれていきました。)
次第にひとびとのこころが、かぞくが、くにじゅうがあれていきました。
(ついにはひめはおしろをおいだされねるばしょもなくなり、)
ついには姫はお城を追い出されねるばしょもなくなり、
(もっているものといえばきているもののほかにはぎんかがいちまいきりでした。)
もっているものといえばきているもののほかには銀貨が一枚きりでした。
(それもおつきのものがせめてもといってもたせてくれたものです。)
それもおつきのものがせめてもといってもたせてくれたものです。
(でもひめはまっすぐなこでしたから、なんとかいろをかえそうと、)
でも姫はまっすぐな子でしたから、なんとか色をかえそうと、
(あくまのいうたいせつなものをさがしにでかけました。)
あくまのいうたいせつなものをさがしにでかけました。
(するとそこへ、びんぼうらしいおとこがでてきて、)
するとそこへ、貧乏らしいおとこが出て来て、
(おかねをめぐんでください。)
「お金をめぐんでください。
(しゃっきんをかえせなければあしたにはしななければいけません)
借金を返せなければ明日には死ななければいけません」
(と、いいました。)
と、いいました。
(ひめはもっていたたったいちまいのぎんかをそのおとこにやってしまいました。そして、)
姫はもっていたたった一枚の銀貨をその男にやってしまいました。そして、
(わたしにはあいがあるからいいの)
「私には愛があるからいいの」
(そういってあるきだしました。)
そういって歩き出しました。
(しばらくいくと、うつろなめをしたおんながやってきて、)
しばらくいくと、うつろな目をした女がやってきて、
(わたしはうまれてからこのかただれからもあいされたことがないのです。)
「わたしは生まれてからこのかた誰からも愛されたことがないのです。
(どうかあいじょうをください)
どうか愛情をください」
(と、いいました。そこであわれにおもったひめはかのじょをだきしめました。)
と、いいました。そこであわれに思った姫は彼女をだきしめました。
(するとひめからあいじょうというものがきえていきました。それでも)
すると姫から愛情というものがきえていきました。それでも
(わたしにはぜんあくのわかるりょうしんやちしきがあるわ)
「私には善悪の分かる良心や知識があるわ」
(そういってあるきだしました。)
そういって歩き出しました。
(またすこしいくと、おうぼうなやくにんにこまっているひとびとがなげいていました。)
また少し行くと、横暴な役人に困っている人々が嘆いていました。
(そこでやくにんへとじぶんのりょうしんをあげました。)
そこで役人へと自分の良心をあげました。
(きまりをつくれるようちしきがほしいというのでそれもあげました。)
決まりを作れるよう知識がほしいというのでそれもあげました。
(ひめはわたしにはしあわせなおもいでがあるものとおもいさきにすすみました。)
姫は「私には幸せな思い出があるもの」と思い先に進みました。
(つぎにとおりぬけたもりではよすてびとがこういいました。)
次に通り抜けた森では世捨て人がこういいました。
(おもいでをください。わたしにはしあわせなおもいでというものをおぼえていないのです)
「思い出をください。私には幸せな思い出というものを覚えていないのです」
(ひめはすこしかんがえたあと、あげてもいいとおもったので、)
姫は少し考えたあと、あげてもいいと思ったので、
(めをとじてしあわせだったことをおもいだしました。)
目をとじて幸せだったことを思い出しました。
(するとそれらはあわのようにきえていきました。)
するとそれらはあわのようにきえていきました。
(ひめはおいのりをささげるとあるきつづけました。)
姫はおいのりをささげると歩き続けました。
(たどりついたきょうかいではいのりをわすれたしゅうどうじょがとびらをとざしていました。)
たどり着いた教会ではいのりを忘れた修道女が扉を閉ざしていました。
(もうほかにたいせつとおもえるものもありませんでしたが、)
もうほかに大切と思えるものもありませんでしたが、
(こまっているひとびとをみちびけるようしんじんをあげました。)
困っている人々を導けるよう信心をあげました。
(そうしてなにもかも、さっぱりすべてをあげてしまったひめは)
そうしてなにもかも、さっぱりすべてをあげてしまった姫は
(すっかりものいわぬなまりのにんぎょうになってしまいました。)
すっかりものいわぬ鉛の人形になってしまいました。
(それでもわずかにのこったこころのなかで)
それでもわずかに残った心のなかで
(いちどでもいろとりどりのせかいをしることができてよかった。)
「一度でも色とりどりの世界を知ることができてよかった。
(これからはこのきもちをたいせつにしようとおもいました。)
これからはこの気持ちを大切にしよう」と思いました。
(するとどうでしょう。ふしぎなことにひめのからだはじゆうになり、)
するとどうでしょう。ふしぎなことに姫の身体は自由になり、
(まちもおしろもひとびとのこころもすべてがもとどおりになっていきました。)
街もお城も人々の心もすべてが元通りになっていきました。
(それからというの、ひめはいろをねだることをしなくなりました。)
それからというの、姫は色をねだることをしなくなりました。
(いろとりどりのけしきをおもいだすことはできないけれど、)
色とりどりの景色を思い出すことはできないけれど、
(それいじょうにたくさんのたいせつなものにかこまれていることを)
それ以上にたくさんの大切なものにかこまれていることを
(もうしっているからです。)
もうしっているからです。