源氏物語 若菜上2-2「乳母、朱雀院に言上」

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(めのと、またことのついでに、「しかしかなむ、)

乳母、またことのついでに、「しかしかなむ、

(なにがしのあそんにほのめかしはべしかば、「かのいんには、)

なにがしの朝臣にほのめかしはべしかば、『かの院には、

(かならずうけひきまうさせたまひてむ。としごろのおんほいかなひておぼしぬべきこと)

かならずうけひき申させたまひてむ。年ごろの御本意かなひて思しぬべきこと

(なるを、こなたのおんゆるしまことにありぬべくは、つたへきこえむ」となむ)

なるを、こなたの御許しまことにありぬべくは、伝へきこえむ』となむ

(まうしはべりしを、いかなるべきことにかははべらむ。)

申しはべりしを、 いかなるべきことにかははべらむ。

(ほどほどにつけて、ひとのきはぎはおぼしわきまへつつ、)

ほどほどにつけて、人の際々思しわきまへつつ、

(ありがたきみこころざまにものしたまふなれど、ただびとだに、)

ありがたき御心ざまに ものしたまふなれど、ただ人だに、

(またかかづらひおもふひとたちならびたることは、ひとのあかぬことにしはべめるを、)

またかかづらひ思ふ人立ち並びたることは、人の飽かぬことにしはべめるを、

(めざましきこともやはべらむ。おんうしろみのぞみたまふひとびとは、あまたものしたまふめり。)

めざましきこともや侍らむ。御後見望み給ふ人びとは、あまたものし給ふめり。

(よくおぼしさだめてこそよくはべらめ。かぎりなきひとときこゆれど、)

よく思し定めてこそよくはべらめ。限りなき人と聞こゆれど、

(いまのよのやうとては、みなほがらかに、あるべかしくて、)

今の世のやうとては、 皆ほがらかに、あるべかしくて、

(よのなかをみこころとすぐしたまひつべきもおはしますべかめるを、ひめみやは、)

世の中を御心と過ぐしたまひつべきもおはしますべかめるを、姫宮は、

(あさましくおぼつかなく、こころもとなくのみみえさせたまふに、)

あさましくおぼつかなく、心もとなくのみ見えさせたまふに、

(さぶらふひとびとは、つかうまつるかぎりこそはべらめ。)

さぶらふ人びとは、仕うまつる限りこそはべらめ。

(おほかたのみこころおきてにしたがひきこえて、さかしきしもびともなびきさぶらふこそ、)

おほかたの御心おきてに従ひきこえて、賢しき下人もなびきさぶらふこそ、

(たよりあることにはべらめ。とりたてたるおんうしろみものしたまはざらむは、)

頼りあることにはべらめ。取り立てたる御後見ものしたまはざらむは、

(なほこころぼそきわざになむはべるべき」ときこゆ。)

なほ心細きわざになむはべるべき」と聞こゆ。