常夏2-1「内大臣、近江君の処遇に苦慮」

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(おとど、このきたのたひのいまひめぎみを、)

大臣、この北の対の今姫君を、

(「いかにせむ。さかしらにむかへいてきて。ひとかくそしるとて、かへしおくらむも、)

「いかにせむ。さかしらに迎へ率て来て。人かく誹るとて、返し送らむも、

(いとかろがろしく、ものぐるほしきやうなり。かくてこめおきたれば、)

いと軽々しく、もの狂ほしきやうなり。かくて籠めおきたれば、

(まことにかしづくべきこころあるかと、ひとのいひなすなるもねたし。)

まことにかしづくべき心あるかと、人の言ひなすなるもねたし。

(にょうごのおんかたなどにまじらはせて、さるをこのものにしないてむ。)

女御の御方などに交じらはせて、さるをこのものにしないてむ。

(ひとのいとかたはなるものにいひおとすなるかたち、はた、)

人のいとかたはなるものに言ひおとすなる容貌、はた、

(いとさいふばかりにやはある」などおぼして、にょうごのきみに、)

いとさ言ふばかりにやはある」など思して、女御の君に、

(「かのひとまいらせむ。みぐるしからむことなどは、おいしらへるにょうばうなどして、)

「かの人参らせむ。見苦しからむことなどは、老いしらへる女房などして、

(つつまずいひおしへさせたまひてごらんぜよ。わかきひとびとのいひぐさには、)

つつまず言ひ教へさせたまひて御覧ぜよ。若き人びとの言種には、

(なわらはせさせたまひそ。うたてあはつけきやうなり」)

な笑はせさせたまひそ。うたてあはつけきやうなり」

(と、わらひつつきこえたまふ。)

と、笑ひつつ聞こえたまふ。

(「などか、いとさことのほかにははべらむ。ちゅうじゃうなどの、)

「などか、いとさことのほかにははべらむ。中将などの、

(いとになくおもひはべりけむかねことにたらずといふばかりにこそははべらめ。)

いと二なく思ひはべりけむかね言に足らずといふばかりにこそははべらめ。

(かくのたまひさわぐを、はしたなうおもはるるにも、かたへはかかやかしきにや」)

かくのたまひ騒ぐを、はしたなう思はるるにも、かたへはかかやかしきにや」

(と、いとはづかしげにてきこえさせたまふ。このおんありさまは、)

と、いと恥づかしげにて聞こえさせたまふ。この御ありさまは、

(こまかにをかしげさはなくて、いとあてにすみたるものの、)

こまかにをかしげさはなくて、いとあてに澄みたるものの、

(なつかしきさまそひて、おもしろきうめのはなのあけさしたるあさぼらけおぼえて、)

なつかしきさま添ひて、おもしろき梅の花の開けさしたる朝ぼらけおぼえて、

(のこりおほかりげにほほえみたまへるぞ、ひとにことなりける、とみたてまつりたまふ。)

残り多かりげにほほ笑みたまへるぞ、人に異なりける、と見たてまつりたまふ。

(「ちゅうじゃうの、いとさいへど、こころわかきたどりすくなさに」)

「中将の、いとさ言へど、心若きたどり少なさに」

(などまうしたまふも、いとほしげなるひとのおんおぼえかな。)

など申したまふも、いとほしげなる人の御おぼえかな。