南洲翁遺訓〈現代語訳〉11~13

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西郷隆盛の教えです。
ふんわりと現代語に訳しております。
詳しくは大家の翻訳を参照してください。

前半の「1~20」は、主に為政者(上に立つ者)としての訓えが説かれ、
後半の「21~41」は、主に個人の修身についての訓えが説かれています。
個人的には後半の「21~」進めるのがお勧めです。

ローマ字欄に原文を記載してあります。
盛和塾関係の方に是非おすすめです。
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1 なり 4542 使用人 4.9 92.9% 484.1 2380 181 44 2024/12/06

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問題文

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(ぶんめいというのはことがどうぎ、どうとくにねざして)

文明というのは事が道義、道徳に根ざして

文明とは道の

(ひろくおこなわれることをさんしょうすることばであって、)

広く行われることを賛称する言葉であって、

普く行はるゝを贊稱せる言にして、

(きゅうでんがおおきくそうごんであったり、いふくがきれいであったり、)

宮殿が大きく荘厳であったり、衣服が綺麗であったり、

宮室の壯嚴、衣服の美麗、

(みかけがはなやかであるということではけっしてない。)

見かけが華やかであるということでは決してない。

外觀の浮華を言ふには非ず。

(せけんのひとのいうところをきいていると、)

世間の人の言うところを聞いていると、

世人の唱ふる所、

(いったいなにがぶんめいで、なにがやばんなのかというのがようりょうをえずまったくわからない。)

一体何が文明で、何が野蛮なのかと言うのが要領を得ず全く分からない。

何が文明やら、何が野蠻やら些とも分らぬぞ。

(かつてわたしはあるひととぎろんしたことがある。)

かつて私はある人と議論した事がある。

予嘗て或人と議論せしこと有り、

(わたしがせいようはやばんだというと、かれはいやせいようはぶんめいだといいがんとしてゆずらない。)

私が西洋は野蛮だと言うと、彼はいや西洋は文明だと言い頑として譲らない。

西洋は野蠻ぢやと云ひしかば、否な文明ぞと爭ふ。

(ちがうやばんだ、やばんであるぞとたたみかけていったところ、)

違う野蛮だ、野蛮であるぞと畳かけて言ったところ、

否な野蠻ぢやと疊みかけしに、

(なぜそれほどまでにやばんだというのかとつよくいうので、わたしは)

なぜそれほどまでに野蛮だというのかと強く言うので、私は

何とて夫れ程に申すにやと推せしゆゑ、

(「もしせいようがしんのぶんめいこっかであったならばはってんとじょうのくににたいして、)

「もし西洋が真の文明国家であったならば発展途上の国に対して、

實に文明ならば、未開の國に對しなば、

(いつくしみあいするこころをもととして、こんいにおしえさとしかいかへとみちびくべきである。)

慈しみ愛する心を基として、懇意に教え諭し開化へと導くべきである。

慈愛を本とし、懇々説諭して開明に導く可きに、

(ところがどうだ。)

ところがどうだ。

左は無くして

(げんじつはみかいとじょうのくににたいするほどひどくざんにんなことをし、)

現実は未開途上の国に対するほど酷く残忍なことをし、

未開矇昧の國に對する程むごく殘忍の事を致し

(じぶんたちのりえきのみをはかっている。これはどうかんがえてもやばんであるぞ」)

自分達の利益のみをはかっている。これはどう考えても野蛮であるぞ」

己れを利するは野蠻ぢや

(こういったところ、)

こう言ったところ、

と申せしかば、

(そのひともさすがにかえすことばもなくおしだまっていた、とわらってはなされた。)

その人もさすがに返す言葉もなく押し黙っていた、と笑って話された。

其人口を莟つぼめて言無かりきとて笑はれける。

(せいようのけいほうはもっぱら、)

西洋の刑法はもっぱら、

西洋の刑法は專ら

(ざいかをくりかえさないようなしょぶんをこんぽんのせいしんとして、)

罪過を繰り返さないような処分を根本の精神として、

懲戒を主として

(かこくなあつかいはさけひとをぜんりょうにみちびくことをもくてきとしている。)

苛酷な扱いは避け人を善良に導く事を目的としている。

苛酷を戒め、人を善良に導くに注意深し。

など

(だからごくちゅうのざいにんであってもゆるやかにしょぐうし、きょうくんとなるしょもつなどもあたえ、)

だから獄中の罪人であっても緩やかに処遇し、教訓となる書物なども与え、

故に囚獄中の罪人をも、如何にも緩るやかにして鑒誡となる可き書籍を與へ、

(ばあいによってはしんぞくやゆうじんのめんかいもゆるすというふうにききおよんでいる。)

場合によっては親族や友人の面会も許すというふうに聞き及んでいる。

事に因りては親族朋友の面會をも許すと聞けり。

(もともとむかしのせいじんがけいばつというものじたいをもうけられたのも、)

もともと昔の聖人が刑罰というもの自体を設けられたのも、

尤も聖人の刑を設けられしも、

(ちゅうこう、じんあいのこころからこどくなひとのしんじょうをあわれみ、)

忠孝、仁愛の心から孤独な人の身上を憐れみ、

忠孝仁愛の心より鰥寡孤獨を愍み、

(ひとがつみにおちいるのをふかくしんぱいされていたからだが、)

人が罪に陥るのを深く心配されていたからだが、

人の罪に陷るを恤ひ給ひしは深けれ共、

(じっさい、げんだいのせいようのようなはいりょがいきとどいていたかどうかは)

実際、現代の西洋のような配慮が行き届いていたかどうかは

實地手の屆きたる今の西洋の如く有しにや、

(しょもつにはみあたらない。)

書物には見当たらない。

書籍の上には見え渡らず、

(せいようのこのようなてんについては、じつにぶんめいだとつくづくかんしんするところである。)

西洋のこのような点については、実に文明だとつくづく感心するところである。

實に文明ぢやと感ずる也。

(ぜいをすくなくしてたみのせいかつをゆたかにすること。)

税を少なくして民の生活を豊かにすること。

租税を薄くして民を裕にするは、

(すなわちこれがこくりょくをたかめることになるのだ。)

即ちこれが国力を高めることになるのだ。

即ち國力を養成する也。

(したがってくにのじぎょうがおおく、たとえざいせいのふそくでくるしむようなことがあっても、)

従って国の事業が多く、たとえ財政の不足で苦しむような事があっても、

故に國家多端にして財用の足らざるを苦むとも、

(きまったせいどはしっかりかたくまもり、)

決まった制度はしっかり堅く守り、

租税の定制を確守し、

(せいふやじょうそうのにんげんがそんをしてでも、)

政府や上層の人間が損をしてでも、

上を損じて

(しょみんをくるしめるようなことはあってはならない。)

庶民を苦しめるようなことはあってはならない。

下を虐たげぬもの也。

(かこのれきしをよくみるがよい。)

過去の歴史を良く見るがよい。

能く古今の事跡を見よ。

(どうりのあきらかにおこなわれないよのなかにあって、ざいせいのふそくでくるしむときは、)

道理の明らかに行われない世の中にあって、財政の不足で苦しむ時は、

道の明かならざる世にして、財用の不足を苦む時は、

(かならずこざかしいかんがえのこやくにんをとりたて、)

必ず小賢しい考えの小役人を取り立て、

必ず曲知小慧せうけいの俗吏を用ひ

(そのばしのぎでさくしゅまがいをするようなやからを、)

その場しのぎで搾取まがいをするような輩を、

巧みに聚斂して一時の缺乏に給するを、

(ざいせいがよくわかるよいやくにんとみとめちょうようする。)

財政が良く分かる良い役人と認め重用する。

理財に長ぜる良臣となし、

(またそういったこやくにんはしゅだんをえらばず、かこくにしょみんからぜいをとりたてる。)

またそういった小役人は手段を選ばず、苛酷に庶民から税を取り立てる。

手段を以て苛酷に民を虐たげるゆゑ、

(そうしてひとびとはくるしみ、たえかねてぜいのさくしゅからのがれようと、)

そうして人々は苦しみ、堪えかねて税の搾取から逃れようと、

人民は苦惱に堪へ兼ね、聚斂を逃んと、

(しぜんにうそいつわりをいってこうかつになっていき、うえもしたもたがいだましあい、)

自然に嘘詐りを言って狡猾になっていき、上も下も互い騙し合い、

自然譎詐狡猾に趣き、上下互に欺き、

(はてはやくにんとしょみんがてきたいし、)

果ては役人と庶民が敵対し、

官民敵讐と成り、

(しまいには、くにがぶんれつしてほうかいするようになっているではないか。)

しまいには、国が分裂して崩壊するようになっているではないか。

終に分崩離析に至るにあらずや。

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