猿

(あぁそれだそのいさおえいがをみたこどもだましなんかにふけはいった)

あぁ、それだ、その功夫映画を観た。子供騙しなんかに耽入った。

(さけはのまぬくせしょうじんさけをのみよったはきのみのよいこうこぶし)

酒はノまぬ癖、将進酒を呑み、酔ったは気のみの酔猴拳。

(まっくろしゃかにはほうふくをとはすちゃをうばったらはんころされた)

真黒釈迦には報復を、と、蓮茶を奪ったら半殺された。

(こそどろへどろにぬられおられそんなぼろきれだけはごめんだった)

コソドロヘドロに塗られ織られ、そんな襤褸切れだけは御免だった。

(じーちゃんとかとーちゃんとかかーさんとかにーさんとか)

「ジーちゃん」とか「トーちゃん」とか「カーさん」とか「ニーさん」とか

(そんなよーなもんばっかにあこがれた)

そんなよーなモンばっかに憧れた。

(こいだとかあいだったかおんなとかおとことかだれもなにもじょはきゅうもおしえてくりゃせん)

恋だとか愛だったか女とか男とか、誰も何も序破急も教えてくりゃせん。

(あいとはいったいなんなんだこどもだってばかにすんな)

愛とは一体なんなんだ、子供だって馬鹿にすんな。

(でもなんだかこーあんしんすんのはこどもであれということなんか)

でも、なんだかこー安心すんのは、『子供であれ！』という事なんか？

(たびはみちづれよのなさけわたるせけんはおにばかり)

旅は道連れ世の情け。渡る世間は鬼ばかり。

(わかげのいたりとおれをうんだわらべをわらにしすがってわらう)

若気の至りとおれを産んだ、童を藁にし縋って笑う。

(うらめどけっきのさかりはたえずじぶんもおんなじてつとしった)

怨めど血気の盛りは絶えず、自分もおんなじ轍と知った。

(さるださいあくだ)

さるだ。最悪だ。

(しらんのよしらんのよなんだってんだよくそったれ)

知らんのよ、知らんのよ、なんだってんだよ、糞ッ垂れ、

(さとるまでいじでもしにたかない)

悟るまで意地でも死にたかない。

(こいしたいさあいしたいだがここくをいとうようなおれをおれはゆるしたかないなあ)

恋したいさ、愛したい。だが故国を厭うような俺を、おれは許したかないなあ。

(おれはいったいなんなんだぐーちゃぐちゃうわめいていらあ)

俺は一体なんなんだ。ぐーちゃぐちゃ、嗚、喚いていらあ。

(あーさびしいななんでぇかなさびしんだ)

あー寂しいな、なんでぇかな、寂しンだ、

(あいとはいったいなんなんだおれがいただくもんなんか)

愛、とは一体なんなんだ、おれが戴くモンなんか？

(ぴんぴんころりとしんだときはきみはないてくれりゃーしないか)

ぴんぴんころりと死んだ時は、君は泣いてくれりゃーしないか？

(おれたちゃいきてるおれたちゃいきてるしょうじんさけをのめこのわかぞうが)

おれたちゃ生きてる、俺たちゃ生きてる！将進酒を呑めこの若造が。

(こいだとかあいだとかくそったれたもんなーだ)

恋だとか愛だとか、糞ッ垂れたモンなーだ、

(くってといてまじってさるがうまれんだ)

食って溶いて混ってさるが産まれンだ。

(たびはみちづれよはなさけわたるせけんにおにはない)

旅は道連れ世は情け。渡る世間に鬼はない。

(さるでもよいといったがさいごだこをなしはぐくみへびをほふる)

「猿でも良い」と言ったが最後だ、子を成し、育み、蛇を屠る。

(なんばんせんじかわからぬいこくのちゃをくらう)

何番煎じかわからぬ異国の茶を食らう。