「心理試験」14 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「心理試験」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。

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問題文

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(ご)

(かさもりはんじのしんりしけんがいかようにおこなわれたか。それにたいして、しんけいかのさいとうが)

笠森判事の心理試験が如何様に行われたか。それに対して、神経家の斉藤が

(どんなはんのうをしめしたか。ふきやが、おちつきはらってしけんにおうじたか。)

どんな反応を示したか。蕗谷が、落ちつきはらって試験に応じたか。

(ここにそれらのくだくだしいじょじゅつをならべたてることをさけて、ただちにそのけっかに)

ここにそれらの管々しい叙述を並べ立てることを避けて、直ちにその結果に

(はなしをすすめることにする。それはしんりしけんがおこなわれたよくじつのことである。)

話を進めることにする。それは心理試験が行われた翌日のことである。

(かさもりはんじが、じたくのしょさいで、しけんのけっかをかきとめたしょるいをまえにして、)

笠森判事が、自宅の書斎で、試験の結果を書きとめた書類を前にして、

(こくびをかたむけているところへ、あけちこごろうのめいしがつうじられた。)

小首を傾けている所へ、明智小五郎の名刺が通じられた。

(「dざかのさつじんじけん」をよんだひとは、このあけちこごろうがどんなおとこだか)

「D坂の殺人事件」を読んだ人は、この明智小五郎がどんな男だかと

(ということを、いくぶんごぞんじであろう。かれはそのあと、しばしばこんなんなはんざいじけんに)

ということを、幾分御存じであろう。彼はその後、屡々困難な犯罪事件に

(かんけいして、そのめずらしいさいのうをあらわし、せんもんかたちはもちろんいっぱんのせけんからも、)

関係して、その珍らしい才能を現し、専門家達は勿論一般の世間からも、

(もうりっぱにみとめられていた。かさもりしともあるじけんからこころやすくなったのだ。)

もう立派に認められていた。笠森氏ともある事件から心易くなったのだ。

(じょちゅうのあんないにつれて、はんじのしょさいに、あけちのにこにこしたかおがあらわれた。)

女中の案内につれて、判事の書斎に、明智のニコニコした顔が現れた。

(このおはなしは「dざかのさつじんじけん」からすうねんごのことで、かれももうむかしのしょせいでは)

このお話は「D坂の殺人事件」から数年後のことで、彼ももう昔の書生では

(なくなっていた。「なかなか、ごせいがでますね」あけちははんじのつくえのうえを)

なくなっていた。「却々、御精が出ますね」明智は判事の机の上を

(のぞきながらいった。「いや、どうも、こんどはまったくよわりましたよ」)

覗きながら云った。「イヤ、どうも、今度はまったく弱りましたよ」

(はんじが、らいきゃくのほうにしんたいのむきをかえながらおうじた。)

判事が、来客の方に身体の向きを換えながら応じた。

(「れいのろうばごろしのじけんですね。どうでした、しんりしけんのけっかは」)

「例の老婆殺しの事件ですね。どうでした、心理試験の結果は」

(あけちは、じけんいらい、たびたびかさもりはんじにあってくわしいじじょうをきいていたのだ。)

明智は、事件以来、度々笠森判事に逢って詳しい事情を聞いていたのだ。

(「いや、けっかはあからさまですがね」とはんじ「それがどうも、ぼくにはなんだか)

「イヤ、結果は明白ですがね」と判事「それがどうも、僕には何だか

(とくしんできないのですよ。きのうはみゃくはくのしけんとれんそうしんだんをやってみたのですが、)

得心出来ないのですよ。昨日は脈搏の試験と聯想診断をやって見たのですが、

など

(ふきやのほうはほとんどはんのうがないのです。もっともみゃくはくでは、だいぶうたがわしいところも)

蕗谷の方は殆ど反応がないのです。尤も脈搏では、大分疑わしい所も

(ありましたが、しかし、さいとうにくらべれば、もんだいにもならぬくらいわずかなんです。)

ありましたが、併し、斉藤に比べれば、問題にもならぬ位僅かなんです。

(これをごらんなさい。ここにしつもんじこうと、みゃくはくのきろくがありますよ。)

これを御覧なさい。ここに質問事項と、脈搏の記録がありますよ。

(さいとうのほうはじつにいちじるしいはんのうをしめしているでしょう。れんそうしけんでもおなじことです。)

斉藤の方は実に著しい反応を示しているでしょう。聯想試験でも同じことです。

(この「うえきばち」というしげきごにたいするはんのうじかんをみてもわかりますよ。)

この「植木鉢」という刺戟語に対する反応時間を見ても分かりますよ。

(ふきやのほうはほかのむいみなことばよりもかえってみじかいじかんでこたえているのに)

蕗谷の方は外の無意味な言葉よりも却って短い時間で答えているのに

(さいとうのほうは、どうです、ろくびょうもかかっているじゃありませんか」)

斉藤の方は、どうです、六秒もかかっているじゃありませんか」

(はんじがしめしたれんそうしんだんのきろくはひだりのようにしるされていた。)

判事が示した聯想診断の記録は左の様に記されていた。

(あ)

(小説には図が掲載されています。興味ある方は、青空文庫でご覧ください)

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