「モノグラム」3 江戸川乱歩

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タグ小説 長文
江戸川乱歩の小説「モノグラム」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。

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問題文

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(どうもわたしのくせで、たもとからしきしまのふくろをだして、たばこをすいはじめましたのですが、)

どうも私の癖で、袂から敷島の袋を出して、煙草を吸い始めましたのですが、

(そうしているうちに、だんだん、へんなよかんみたいなものが、わたしをおそってくるのです。)

そうしているうちに、段々、変な予感みたいなものが、私を襲って来るのです。

(みょうだなとおもって、きをつけてみると、おとこがたばこをふかしながら、)

妙だなと思って、気をつけて見ると、男が煙草をふかしながら、

(よこのほうから、じろじろとわたしをながめている、そのながめかたがけっしてきまぐれでなく、)

横の方から、ジロジロと私を眺めている、その眺め方が決して気まぐれでなく、

(なんとやらいみありげなんですね。あいてがびょうしんらしいおとなしそうなおとこなのです、)

何とやら意味ありげなんですね。相手が病診らしいおとなし相な男なのです、

(きみがわるいよりは、こうきしんのほうがかち、わたしはそれとなくかれのきょどうに)

気味が悪いよりは、好奇心の方が勝ち、私はそれとなく彼の挙動に

(ちゅういしながら、じっとしていました。あのさわがしいあさくさこうえんのまんなかにいて、)

注意しながら、じっとしていました。あの騒がしい浅草公園の真ん中にいて、

(いろいろなものおとはたしかにきこえているのですが、ふしぎにしーんとしたかんじで、)

色々な物音は確に聞えているのですが、不思議にシーンとした感じで、

(ながいあいだそうしていました。あいてのおとこが、いまにもなにかいいだすかと、)

長い間そうしていました。相手の男が、今にも何か云い出すかと、

(まちかまえるきもちだったのです。すると、やっとおとこがくちをきるのですね。)

待構える気持だったのです。すると、やっと男が口を切るのですね。

(「どっかでおめにかかりましたね」って、おどおどしたちいさなこえです。)

「どっかで御目にかかりましたね」って、おどおどした小さな声です。

(たしょうよきしていたので、わたしはべつにおどろきはしませんでしたが、ふしぎと)

多少予期していたので、私は別に驚きはしませんでしたが、不思議と

(おもいだせないのですよ。そんなおとこ、まるでしらないのです。)

思い出せないのですよ。そんな男、まるで知らないのです。

(「ひとちがいでしょう。わたしはいっこうおめにかかったようにおもいませんが」って)

「人違いでしょう。私は一向御目にかかった様に思いませんが」って

(へんじをすると、それでも、あいてはどうもふとくしんなかおで、またしても、)

返事をすると、それでも、相手はどうも不得心な顔で、又しても、

(じろじろとわたしをながめだすではありませんか。ひょっとしたら、)

ジロジロと私を眺め出すではありませんか。ひょっとしたら、

(こいつなにかたくらんでるんじゃないかと、さすがにきもちがよくはありませんや、)

こいつ何か企んでるんじゃないかと、流石に気持がよくはありませんや、

(「どこでおあいしました」ってもういちどたずねたものです。)

「どこでお逢いしました」ってもう一度尋ねたものです。

(「さあ、それがわたしもおもいだせないのですよ」おとこがいうのですね。)

「サア、それが私も思い出せないのですよ」男が云うのですね。

(「おかしい、どうもおかしい」こくびをかしげて「さっこんのことではないのです。)

「おかしい、どうもおかしい」小首をかしげて「昨今のことではないのです。

など

(もうずっとせんから、ちょくちょくおめにかかっているようにおもうのですが、)

もうずっと先から、ちょくちょく御目にかかっている様に思うのですが、

(ほんとうにごきおくありませんか」そういって、かえってわたしをうたがうように、)

本当に御記憶ありませんか」そういって、却って私を疑う様に、

(そうかとおもうと、へんになつかしそうなようすでにこにこしながらわたしのかおを)

そうかと思うと、変に懐し相な様子でニコニコしながら私の顔を

(みるじゃありませんか。「ひとちがいですよ。そのあなたのごぞんじのほうは)

見るじゃありませんか。「人違いですよ。そのあなたの御存じの方は

(なんとおっしゃるのです。おなまえは」ってききますと、それがへんなんです。)

何とおっしゃるのです。お名前は」って聞きますと、それが変なんです。

(「わたしもさいぜんからいっしょうけんめいおもいだそうとしているのですが、どういうわけか、)

「私もさい前から一生懸命思い出そうとしているのですが、どういう訳か、

(でてきません。でも、おなまえをわすれるようなかたじゃないとおもうのですが」)

出て来ません。でも、お名前を忘れる様な方じゃないと思うのですが」

(「わたしはくりはらいちぞうていいます」わたしですね。)

「私は栗原一造て云います」私ですね。

(「ああさようですか。わたしはたなかさぶろうっていうのです」これがおとこのなまえなんです。)

「アア左様ですか。私は田中三良って云うのです」これが男の名前なんです。

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