「毒草」5(終) 江戸川乱歩

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タグ小説 長文
江戸川乱歩の小説「毒草」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。

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問題文

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(かのじょはわたしをみると、いくぶんはずかしそうににやにやわらいながら、そのえがおがわたしには)

彼女は私を見ると、幾分恥し相にニヤニヤ笑いながら、その笑顔が私には

(なんとものすごくみえたことであろう、あいさつをした。みだれたかみのけのなかに、びょうごの)

何と物凄く見えたことであろう、挨拶をした。乱れた髪の毛の中に、病後の

(ようにやつれた、ちのけのうせたかのじょのかおが、すさまじくのぞいていた。)

様にやつれた、血の気の失せた彼女の顔が、すさまじく覗いていた。

(わたしのめは、みまいとすればするほど、かのじょのおびのあたりにいった。そして、そこには、)

私の目は、見まいとすればする程、彼女の帯の辺に行った。そして、そこには、

(よきしていたことながら、しかしやはりわたしをはっとさせないではおかなかった)

予期していたことながら、然し矢張り私をハッとさせないでは置かなかった

(ところの、うえたやせいぬのように、ふたつにおれはしないかとおもわれるほどの、)

所の、飢えた痩せ犬の様に、二つに折れはしないかと思われる程の、

(ぺちゃんこのおなかがあったのである。)

ペチャンコのお腹があったのである。

(そして、このはなしにはもうすこしつづきがあるのだ。それからまたひとつきばかりたった)

そして、この話にはもう少し続きがあるのだ。それから又一月ばかりたった

(あるひのこと、わたしはふととおりすがりに、ひとまのうちでわたしのそぼとじょちゅうとが)

ある日のこと、私はふと通りすがりに、一間の中で私の祖母と女中とが

(みょうなはなしをしているのを、こみみにはさんだのである。)

妙な話をしているのを、小耳にはさんだのである。

(「ながれつきなんだね。きっと」これはそぼのこえである。)

「流れ月なんだね。きっと」これは祖母の声である。

(「まあ、ごいんきょさまが、ほほほほほ・・・・・」むろんかのじょのわらいごえはこんなに)

「まあ、御隠居様が、ほほほほほ・・・・・」無論彼女の笑声はこんなに

(よくはないのだが、これはじょちゅうのこえである。)

よくはないのだが、これは女中の声である。

(「だっておまえ、おまえがそういったじゃないか。まずゆうびんやのおかみさん」)

「だってお前、お前がそういったじゃないか。まず郵便屋のお上さん」

(そういってそぼはゆびをくるらしいのだ。「それからきたむらのおかねさん、それから)

そう云って祖母は指をくるらしいのだ。「それから北村のお兼さん、それから

(だがしやの、なんといったっけね、そうそう、おるいさん。そらね、このいっちょうないで)

駄菓子屋の、何といったっけね、そうそう、お類さん。そらね、この一町内で

(さんにんもあったじゃないか。だから、ながれつきなんだよ、こんげつは」)

三人もあったじゃないか。だから、流れ月なんだよ、今月は」

(それをきいたわたしのしんぞうはどんなにかるくなったことであろう。いっせつな、)

それを聞いた私の心臓はどんなに軽くなったことであろう。一刹那、

(このよのなかが、まるでちがったへんてこなものにおもわれた。)

この世の中が、まるで違った変てこなものに思われた。

(「これがじんせいというものであったか」なんのことだかわからない、そんなことばが)

「これが人生というものであったか」何のことだか分らない、そんな言葉が

など

(わたしのあたまにうかんだ。わたしは、そのあしでげんかんをおりると、もういちどれいのおかの)

私の頭に浮かんだ。私は、その足で玄関を下りると、もう一度例の丘の

(ところへいってみないではいられなかった。)

所へ行って見ないではいられなかった。

(そのひもよくはれた、こはるびよりであった。おくそこのしれないあおぞらを、)

その日もよく晴れた、小春日和であった。奥底の知れない青空を、

(なにどりであろう、のびのびとえんをえがいてとんでいた。わたしはすこしもまごつかずに)

何どりであろう、伸々と円を描いて飛んでいた。私は少しもまごつかずに

(れいのしょくぶつをさがしだすことができた。だが、これはまあ、なんということだ。)

例の植物を探し出すことが出来た。だが、これはまあ、何ということだ。

(そのしょくぶつは、どのくきもどのくきも、みなはんぶんくらいのところからおりとられて、)

その植物は、どの茎もどの茎も、皆半分位の所から折り取られて、

(みるもむざんなむくろをさらしていたではないか。)

見るも無惨なむくろを暴していたではないか。

(それはきんじょのいたずらこぞうどものしわざであったかもしれない。また、)

それは近所のいたずら小僧供の仕業であったかも知れない。又、

(そうでなかったかもしれない。わたしはいまだにいずれであるかをしらないのである。)

そうでなかったかも知れない。私はいまだに何れであるかを知らないのである。

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