通夜 -2-

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師匠シリーズ
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問題文

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(「おとうさんもおかあさんもしらないんだ」といったときの)

「お父さんもお母さんも知らないんだ」といった時の

(いたずらこぞうのようなかおはいまもわすれられない。)

いたずら小僧のような顔は今も忘れられない。

(いちどみせてもらったからというもの、おんなのこはそのゆびわがきにいってしまい、)

一度見せてもらったからというもの、女の子はその指輪が気に入ってしまい、

(なんどもほしいほしいとせがんだ。)

何度も欲しい欲しいとせがんだ。

(でもこればかりはやれんとおじいちゃんもゆずらなかった。)

でもこればかりは遣れんとおじいちゃんも譲らなかった。

(「およめにいっても?」ときくと、すこしこまったかおをしたあとで)

「お嫁に行っても?」と訊くと、少し困った顔をしたあとで

(「およめにいってもだ」とこたえた。)

「お嫁に行ってもだ」と答えた。

(またみせてといっても、「もういかん」とおこったようにくびをふり、)

また見せてといっても、「もういかん」と怒ったように首を振り、

(こっそりみようにもおじいちゃんはいつもこのへやにいて)

こっそり見ようにもおじいちゃんはいつもこの部屋にいて

(めをひからせているので、たんすをのぞくすきもなかった。)

目を光らせているので、箪笥を覗く隙もなかった。

(そのおじいちゃんが、しんだ。)

そのおじいちゃんが、死んだ。

(どきどきとからだのなかからおとがする。)

どきどきと身体の中から音がする。

(いまならゆびわをみられる。みてもおこられずにすむ。)

今なら指輪を見られる。見ても怒られずにすむ。

(いけないことだとわかっていながら、かってにうごくあしが、うでが、)

いけないことだと分かっていながら、勝手に動く足が、腕が、

(ゆびがとめられない。)

指が止められない。

(いきをつまらせながらたんすをひき、いえのなかのかすかなものおとにおびえながら)

息を詰まらせながら箪笥を引き、家の中の微かな物音に怯えながら

(きんちゃくぶくろをさぐりあてる。)

巾着袋を探り当てる。

(ふるえるゆびでふくろのくちをしばっていたひもをとくと、なかにはいろいろだいじそうなものが)

震える指で袋の口を縛っていた紐を解くと、中には色々大事そうなものが

(はいっているのがみえた。)

入っているのが見えた。

(かみのたぐいをかきわけながらさぐっているとゆびさきにかたいこばこのかんしょくがあった。)

紙の類を掻き分けながら探っていると指先に硬い小箱の感触があった。

など

(ゆっくりとそれをふくろからだす。)

ゆっくりとそれを袋から出す。

(りょうてをそえてふたをあけると、みおぼえるのゆびわがでてきた。)

両手を添えて蓋を開けると、見覚えるの指輪が出てきた。

(しんじゅのゆびわだった。)

真珠の指輪だった。

(わるいこだわるいこだ。)

悪い子だ悪い子だ。

(じぶんをののしるじぶんのこえがきこえた。)

自分を罵る自分の声が聞こえた。

(だって、みるだけだから、みるだけだからとじぶんでじぶんにいいきかせながら、)

だって、見るだけだから、見るだけだからと自分で自分に言い聞かせながら、

(ほんとうのほんとうはこうするつもりだったんだから。)

本当の本当はこうするつもりだったんだから。

(おんなのこはすかーとのぽけっとにゆびわをすとんとおとした。)

女の子はスカートのポケットに指輪をすとんと落とした。

(からのこばこをふくろにもどし、どうしようもなくくらいきもちでめをおよがせながら)

空の小箱を袋に戻し、どうしようもなく暗い気持ちで目を泳がせながら

(たんすのほうにむきなおったそのしゅんかん、おんなのこのみみは「ぶぶ」というおとをとらえた。)

箪笥の方に向き直ったその瞬間、女の子の耳は「ぶぶ」という音をとらえた。

(ひやりとせなかをつめたいてがなでていったきがした。)

ひやりと背中を冷たい手が撫でていった気がした。

(ふくろをもったまま、くびをめぐらせると、そこにはふとんにあおむけによこたわったままの)

袋を持ったまま、首をめぐらせると、そこには布団に仰向けに横たわったままの

(おじいちゃんがいる。ほかにはうごくもののかげはひとつとない。)

おじいちゃんがいる。他には動くものの影はひとつとない。

(とくんとくんとみゃくうつむねをおさえながらゆっくりとふとんにちかづく。)

とくんとくんと脈打つ胸を押えながらゆっくりと布団に近づく。

(ななめじょうからくびをのばし、そのこおりついたようなかおをのぞきこむ。)

斜め上から首を伸ばし、その凍りついたような顔を覗き込む。

(しろめをむき、くちからはとしゃぶつをあふれさせたままで、)

白目を剥き、口からは吐瀉物を溢れさせたままで、

(みるもおそろしいくもんのひょうじょうがそこにはりついていた。)

見るも恐ろしい苦悶の表情がそこに張り付いていた。

(ぶぶ。)

ぶぶ。

(またおとがした。)

また音がした。

(おじいちゃんののどがかすかにうごいた。)

おじいちゃんの喉が微かに動いた。

(ひめいをのみこんだおんなのこのりょうてのゆびが、けいれんするようにかおのよこでひらいた。)

悲鳴を飲み込んだ女の子の両手の指が、痙攣するように顔の横で開いた。

(きんちゃくぶくろがおじいちゃんのてのさきにおちる。)

巾着袋がおじいちゃんの手の先に落ちる。

(あしがしぜんとあとずさり、たたみのうえをすべるようにふとんからはなれると)

足が自然と後ずさり、畳の上を滑るように布団から離れると

(おんなのこはへやからにげだした。)

女の子は部屋から逃げ出した。

(こんらんするあたまでうすぐらいろうかをぬけ、じぶんのへやにとびこむ。)

混乱する頭で薄暗い廊下を抜け、自分の部屋に飛び込む。

(どうして。どうして。)

どうして。どうして。

(そんなことばばかりがぐるぐるとまわっている。)

そんな言葉ばかりがぐるぐると回っている。

(しんでいたのに。しんでいたのに。どうして。)

死んでいたのに。死んでいたのに。どうして。

(それからへやのすみでうずくまったままがたがたとふるえつづけた。)

それから部屋の隅でうずくまったままガタガタと震え続けた。

(のうりにあのおそろしいしにがおと、「ぶぶ」というきみのわるいおとが)

脳裏にあの恐ろしい死に顔と、「ぶぶ」という君の悪い音が

(なんどもよみがえり、そのたびにめをつよくつぶり、みみをふさいだ。)

何度も蘇り、そのたびに目を強く瞑り、耳を塞いだ。

(どれほどのじかんがたったのか、)

どれほどの時間が経ったのか、

(やがていえのなかにしずけさがひとすじのひめいにやぶられた。)

やがて家の中に静けさが一筋の悲鳴に破られた。

(「おやじがしんでる」)

「おやじが死んでる」

(おとうさんのこえだった。おんなのこはびくりとしてかおをあげる。)

お父さんの声だった。女の子はびくりとして顔を上げる。

(ついで「はやくきてくれ」というどなりごえ。)

ついで「はやく来てくれ」という怒鳴り声。

(みみをすましていると、どたどたというかぞくのあしおとがいくつもかさなってきこえた。)

耳を澄ましていると、ドタドタという家族の足音がいくつも重なって聞こえた。

(おんなのこはおっくうなおもいこしをあげてじぶんのへやからかおをだす。)

女の子はおっくうな重い腰を上げて自分の部屋から顔を出す。

(そのはなのさきをかすめるように、ふきんをてにしたおかあさんがかけていった。)

その鼻の先を掠めるように、布巾を手にしたお母さんが駆けていった。

(やがておじいちゃんのへやのほうからそうぞうしいこえがあふれはじめる。)

やがておじいちゃんの部屋の方から騒々しい声が溢れ始める。

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