通夜 -3-

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師匠シリーズ
以前cicciさんが更新してくださっていましたが、更新が止まってしまってしまったので、続きを代わりにアップさせていただきます。
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問題文

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(しんでた?やっぱりおじいちゃんは・・・・・)

死んでた?やっぱりおじいちゃんは・・・・・

(なぜかいまごろになってなみだがでてきた。)

なぜか今ごろになって涙が出てきた。

(かなしいというかんじょうがようやくぜんしんにめぐりはじめたようだった。)

悲しいという感情がようやく全身に巡り始めたようだった。

(のそのそとたちあがり、ろうかにでる。みんなのこえのするほうへとあしをはこぶと、)

のそのそと立ち上がり、廊下に出る。みんなの声のする方へと足を運ぶと、

(おじいちゃんのへやからおとうさんのわめきこえがながれてきた。)

おじいちゃんの部屋からお父さんの喚き声が流れてきた。

(おとうさんはふとんにとりすがりながら「おうおう」とないていて、)

お父さんは布団に取りすがりながら「おうおう」と泣いていて、

(おにいちゃんとおねえちゃんはおろおろとするばかりだった。)

お兄ちゃんとお姉ちゃんはオロオロとするばかりだった。

(おかあさんはおじいちゃんのくちもとをふきながら、)

お母さんはおじいちゃんの口元を拭きながら、

(きんじょのおいしゃをよんでくるようおにいちゃんいいいつけていた。)

近所のお医者を呼んでくるようお兄ちゃんい言いつけていた。

(ふすまのそばでたちすくみながらそのこうけいをみていたおんなのこは、)

襖のそばで立ちすくみながらその光景を見ていた女の子は、

(へやのあるぶぶんにめをつかったしゅんかん、そこにくぎづけになった。)

部屋のある部分に目を遣った瞬間、そこに釘付けになった。

(たんすがとじている。)

箪笥が閉じている。

(おもいかえせば、きんちゃくぶくろをたんすにもどすまえにへやからにげてきてしまったはずだった。)

思い返せば、巾着袋を箪笥に戻す前に部屋から逃げてきてしまったはずだった。

(そのままにしておけば、じぶんがゆびわをとったことが)

そのままにしておけば、自分が指輪を取ったことが

(かぞくにわかってしまうかもしれないということにまであたまがまわらなかった。)

家族に分かってしまうかも知れないということにまで頭が回らなかった。

(なのにそのたんすがいま、めのまえでなにごともなかったかのように)

なのにその箪笥が今、目の前で何ごともなかったかのように

(おじいちゃんのしをかこむはいけいにとけこんでいた。)

おじいちゃんの死を囲む背景に溶け込んでいた。

(そうだ。きんちゃくぶくろは?)

そうだ。巾着袋は?

(おんなのこはきょろきょろとみまわすがふとんのまわりにはおちていなかった。)

女の子はキョロキョロと見回すが布団の周りには落ちていなかった。

(そこにいるかぞくのてもとをみてもだれももっていない。)

そこにいる家族の手元を見ても誰も持っていない。

など

(それほどひろいへやではない。どこにもみあたらないのはすぐにわかった。)

それほど広い部屋ではない。どこにも見当たらないのはすぐに分かった。

(いきがくるしい。)

息が苦しい。

(おんなのこはむなもとをおさえながら、ひたひたとせなかのほうから)

女の子は胸元を押えながら、ひたひたと背中の方から

(にじりよってくるよなきょうふとたたかっていた。)

にじり寄ってくるよな恐怖と戦っていた。

(おじいちゃんがもとにもどしたの?)

おじいちゃんが元に戻したの?

(そうとしかかんがえられなかった。じぶんがへやからにげだしたあと、)

そうとしか考えられなかった。自分が部屋から逃げ出したあと、

(ふとんからむっくりとおきあがったおじいちゃんがきんちゃくぶくろをひろいあげ、)

布団からむっくりと起き上がったおじいちゃんが巾着袋を拾い上げ、

(たんすにそっともどした・・・・・)

箪笥にそっと戻した・・・・・

(だとしたら。)

だとしたら。

(おんなのこはふるえながらなみだをながした。)

女の子は震えながら涙を流した。

(さっきまでのかなしくてでてくるなみだとはちがう。)

さっきまでの悲しくて出てくる涙とは違う。

(すかーとのぽけっとのなかのかすかなかんしょくがとほうもないざいあくかんとなって)

スカートのポケットの中の微かな感触が途方もない罪悪感となって

(あふれだしてきたのだ。)

溢れ出してきたのだ。

(おじいちゃんがだいじにしていたおばあちゃんのかたみのゆびわを、とった。)

おじいちゃんが大事にしていたおばあちゃんの形見の指輪を、盗った。

(それをおもうとたっていられないほどかなしくなった。)

それを思うと立っていられないほど哀しくなった。

(ししょうからきいたはなしだ。)

師匠から聞いた話だ。

(だいがくいっかいせいのふゆだった。)

大学一回生の冬だった。

(ばいとのかえりみち、さむぞらのしたをうつむいてあるいていると、)

バイトの帰り道、寒空の下を俯いて歩いていると、

(やみよにうかびあがるやわらかいあかりにきづいた。)

闇夜に浮かび上がる柔らかい明かりに気付いた。

(ちょうちんだ。)

提灯だ。

(じゅうたくがいのまんなかにおおきなちょうちんがたっていて、)

住宅街の真ん中に大きな提灯が立っていて、

(そのまわりにはいくつかのかげがうごめいているのがみてとれた。)

その周りにはいくつかの影が蠢いているのが見て取れた。

(「おつやだな」)

「お通夜だな」

(となりをあるいていたじょせいがぼそりという。かなこさんというさっきまで)

隣を歩いていた女性がぼそりと言う。加奈子さんというさっきまで

(おなじばいとをしていたなかまで、そのいえまでおくってかえるところだった。)

同じバイトをしていた仲間で、その家まで送って帰るところだった。

(ちかづくにつれて、ちょうちんのひょうめんに「まるにききょう」のかもんがうかびあがってくる。)

近づくにつれて、提灯の表面に「丸に桔梗」の家紋が浮かび上がってくる。

(そのおさえたきいろいひかりには、なんともいえないものがなしいふぜいがあって、)

その抑えた黄色い光には、なんとも言えない物悲しい風情があって、

(なんだかこっちまでしんみりしてしまった。)

なんだかこっちまでしんみりしてしまった。

(そのちょうちんがかざられるいえのもんのまえでくろいすーつすがたのひとびとが)

その提灯が飾られる家の門の前で黒いスーツ姿の人々が

(ひそひそとなにごとかかわしあっている。)

ひそひそと何ごとか交し合っている。

(りっぱなにほんかおくで、もんのまえをとおるときにこっそりなかをのぞきこんでみると)

立派な日本家屋で、門の前を通る時にこっそり中を覗き込んでみると

(もんとひろびろとしたげんかんのあいだのいしだたみにてーぶるがおかれていて)

門と広々とした玄関の間の石畳にテーブルが置かれていて

(そこにもおおくのひとびとがたむろしていた。おつやのうけつけなのだろう。)

そこにも多くの人々がたむろしていた。お通夜の受付なのだろう。

(めをこらしているとうけつけのわかいおんなのひととめがあってしまい、)

目を凝らしていると受付の若い女の人と目が合ってしまい、

(かのじょのどうぞというじぇすちゃーにたいして、きこえるきょりではないのに)

彼女のどうぞというジェスチャーに対して、聞こえる距離ではないのに

(「いや、ちがうんです」とこごえでいいわけをしながらそのばをはなれた。)

「いや、違うんです」と小声で言い訳をしながらその場を離れた。

(「めずらしいか、おつやが」)

「珍しいか、お通夜が」

(「べつに」)

「別に」

(そうこたえながらぼくは、さいごにいったおつやはいつ、)

そう答えながら僕は、最後に行ったお通夜はいつ、

(だれのときだっただろうということをおもいだそうとしていた。)

誰の時だっただろうということを思い出そうとしていた。

(ざわざわしたけはいがとおざかっていくのをせなかにかんじながらあるいていると、)

ざわざわした気配が遠ざかっていくのを背中に感じながら歩いていると、

(かなこさんがふとたちどまったのがわかった。)

加奈子さんがふと立ち止まったのが分かった。

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