アクスブリッジにある路傍の宿屋

(さあどうぞこちらへ だいしきょうさまがおまちです)

さあどうぞこちらへ 大司教様がお待ちです

(ぶえなすたーるですげいか)

ブエナスタールデス猊下

(おのみものなどいかがで)

お飲み物などいかがで？

(ふたりだけにしてくれ)

二人だけにしてくれ

(べすをつれてろんどんにもどるとちゅう こんないなかでおちあえるとは)

ベスを連れてロンドンに戻る途中 こんな田舎で落ち合えるとは

(へいかのかりのおともに ぐらすがみっつもうひとりくるのか)

陛下の狩りのおともに グラスが三つ？　もう一人来るのか

(われわれはみどりのぐらす)

我々は緑のグラス

(あかはだれのぶんだ)

赤は誰の分だ

(れでぃべすのべでぃんぐふぃーるどきょうが もうすぐここへつれておりてくる)

レディ・ベスの　ベディングフィールド卿が もうすぐここへ連れて降りて来る

(わいんでもてなすと)

ワインでもてなすと

(このぐらすにぬられているのはさいこうきゅうのどく ほんのひとくちふくめばすべてけっちゃくがつく)

このグラスに塗られているのは最高級の毒 ほんの一口含めば全て決着がつく

(もうついたのではないのか ねどこでおとこといるところをみつけたときいたが)

もう着いたのではないのか？ 寝床で男といる所を見つけたと聞いたが

(あなたのこくおうはまたつよくべすのしけいに はんたいなさるかもしれない)

貴方の国王はまた強くベスの死刑に 反対なさるかもしれない

(それならいっそここで あのおんなをけすそれもじさつにみせかけて)

それならいっそここで あの女を消す　それも自殺に見せかけて

(しかしぷろてすたんとどもは しんじないのでは)

しかしプロテスタント共は 信じないのでは？

(いしょはよういした)

遺書は用意した

(いまたりないのは)

今足りないのは

(しょめいだけ)

署名だけ

(れでぃえりざべすをおつれしました)

レディ・エリザベスをお連れしました

(ごきげんようわがれでぃごくろう)

ご機嫌ようわがレディ　ご苦労

(ごしょうかいします すぺいんのたいしにしてわれらがじょおうへいかのふくん)

ご紹介します スペインの大使にして我らが女王陛下の夫君

(ふぇりぺこくおうへいかのすうみついんこもんかん しもんるなーるかっか)

フェリペ国王陛下の枢密院顧問官 シモン・ルナール閣下

(こちらのしょるいに しょめいしていただきたくておよびした)

こちらの書類に 署名していただきたくてお呼びした

(なんでしょう)

なんでしょう

(あなたがしんこうする いきょうをほうきするというせんせいしょです)

貴方が信仰する 異教を放棄するという宣誓書です

(そのようなうそには ぜったいにしょめいしません)

そのような嘘には 絶対に署名しません

(つれてこい)

連れて来い

(ろびん)

ロビン！

(べすすまない)

ベス　すまない！

(なぜほかのひとたちまで なんのつみもないはずよ)

なぜ他の人たちまで？ なんの罪も無いはずよ！

(あなたのこいびとをにがそうとした)

貴方の恋人を逃がそうとした

(うそだこいつらはただばしゃをおいかけて)

嘘だ！　こいつらはただ馬車を追いかけて

(このひとたちをはなしてあげて しんしつにあがってくるようつよくいったのはわたしです)

この人達を離してあげて！ 寝室に上がってくるよう強く言ったのは私です！

(ぷろてすたんとをすてると しょめいさえすれば)

プロテスタントを捨てると 署名さえすれば

(あなたのこいびとも そのなかまもじゆうになれる)

あなたの恋人も その仲間も自由になれる

(あくま)

悪魔！

(こばまれるのなら あすのあさしばりくびにするまでだ)

拒まれるのなら 明日の朝縛り首にするまでだ

(おなさけをれでぃ)

お情けをレディ！

(おねがいです)

お願いです！

(しょめいを)

署名を！

(だまれよ)

黙れよ！

(べすしんこうするひつようはない おれたちのために)

ベス　信仰する必要はない 俺たちのために

(ろびん)

ロビン...

(さあはやく)

さあ早く

(しょめいをごらんになれば じょおうへいかはただちにあなたをおゆるしになるにちがいないしょめいを)

署名をご覧になれば 女王陛下は直ちに貴方をお許しになるに違いない　署名を

(そしてへいかのびとくをたたえてかんぱいしましょう このあかいぐらすで)

そして陛下の美徳を称えて乾杯しましょう この赤いグラスで

(べす)

ベス！

(ごきげんようりょうかっか そしてべるどねれいでぃ)

ご機嫌よう両閣下 そして　ベルドネ　レイディ

(へいか)

陛下！

(なにごとかな)

何事かな？

(こちらがれでぃえりざべすです)

こちらがレディ・エリザベスです

(へんりーおうのしたのむすめです)

ヘンリー王の下の娘です

(おめにかかれてこうえいです うわさどおりのびじんだ)

お目にかかれて光栄です 噂通りの美人だ

(しゅうじんですぞ)

囚人ですぞ

(わたしのぎりのいもうとだ)

私の義理の妹だ

(このげせわなながれものはれでぃのあいじん どうきんしているところをはっけんいたしました)

この下世話な流れ者はレディの愛人 同衾しているところを発見いたしました

(かれならしりあいだぞ ろんどんへむかうどうちゅうであった)

彼なら知り合いだぞ ロンドンへ向かう道中で会った

(あのときの)

あの時の！

(べすのあいじんとはな)

ベスの愛人とはな

(ほかのものたちはやつをすくいだそうとした)

他の者達は奴を救い出そうとした

(かれらはむじつです)

彼らは無実です！

(ぜんいんしゃくほうしてもらおう)

全員釈放してもらおう

(はあ)

はあ！？

(しゃくほうしろというのが わたしのいこうだげいかしゃくほうしなさい)

釈放しろというのが 私の意向だ猊下　釈放しなさい

(しかし)

しかし！

(こくおうが しゃくほうしろといっているのだん)

国王が！ 釈放しろと言っているのだ　ん？

(おおせのとおりに むこうでなわをほどいてはなしてやれ)

仰せの...通りに... 向こうで縄をほどいて離してやれ

(ありがとうございますへいか)

ありがとうございます陛下

(おかえしだとてもゆうえきないけんをきかせてもらった かのじょになにかいうことは)

お返しだ　とても有益な意見を聞かせてもらった 彼女に何か言うことは

(べすしんねんはまげないで じぶんのこころにしたがうんだ)

ベス　信念は曲げないで 自分の心に従うんだ

(いけ)

行け！

(よろしいげいか これであなたともしたしいゆうじんになれそうだ)

よろしい猊下 これで貴方とも親しい友人になれそうだ

(わいんがあるゆうじょうをしゅくしてかんぱいをしよう だいしきょうどのるなーるぐらすを)

ワインがある友情を祝して乾杯をしよう 大司教殿　ルナール　グラスを

(あああかのぐらすは)

ああ！　赤のグラスは...

(なるほど あかのぐらすはしきょうのさかずきというわけか)

なるほど 赤のグラスは司教の盃というわけか

(ではこのさかずきをあなたにぜひ)

ではこの盃を貴方に　ぜひ

(えーっとああ げいかはさけはめしあがらないのです)

えーっと...ああ... 猊下は酒は召し上がらないのです

(わたしのけっこんしきでずいぶんめしあがるのをみたが)

私の結婚式で随分召し上がるのを見たが

(ほんじつはたいちょうがすぐれず)

本日は体調がすぐれず...

(すぺいんではわいんでたいちょうをととのえるのだ ためしてみたまえ)

スペインではワインで体調を整えるのだ 試してみたまえ

(われわれのゆうじょうに)

我々の友情に

(ゆうじょうに)

友情に...

(なんだのんでいないな わたしをぶじょくするおつもりかな)

なんだ　飲んでいないな 私を侮辱するおつもりかな

(まさかへいか)

まさか陛下

(どうやらあなたはわたしがえいこくこくおうであり)

どうやら貴方は私が英国国王であり

(あなたのしゅくんめありーじょおうのおっとである ということをおわすれのようだ)

貴方の主君 メアリー女王の夫である ということをお忘れのようだ

(のめめいれいだ)

飲め　命令だ

(しんでいます)

死んでいます

(なぜ)

なぜ？

(こうふんにたえられなかったのでしょう しんぞうがわるいといっていました)

興奮に耐えられなかったのでしょう 心臓が悪いと言っていました

(かれはそのぐらすで わたしにかんぱいをすすめました)

彼はそのグラスで 私に乾杯を薦めました

(どくがぬられている)

毒が塗られている

(わたしをころそうと)

私を殺そうと！？

(そうしてじぶんがしんだ かみのさばきかもしれない)

そうして自分が死んだ 神の裁きかもしれない

(けいびへい)

警備兵！

(あなたをしゃくほうする わたしがしるかぎりむほんのしょうこはない)

貴方を釈放する 私が知る限り謀反の証拠はない

(またもやへいかは べすのいのちをすくわれましたな)

またもや陛下は ベスの命を救われましたな

(いつかかりはかえしてもらうさ)

いつか借りは返してもらうさ

(さすがくーるへっどさえておいでです)

流石クールヘッド　冴えておいでです

(あのおんなとけっこんすればよかった)

あの女と結婚すればよかった