水師営の会見

(りょじゅんかいじょうやくなりて)

旅順開城約成りて

(てきのしょうぐんすてっせる)

敵の将軍ステッセル

(のぎたいしょうとかいけんの)

乃木大将と会見の

(ところはいずこすいしえい)

所は何処水師営

(にわにひともとなつめのき)

庭に一本棗の木

(だんがんあともいちじるく)

弾丸痕も著く

(くずれのこれるみんおくに)

崩れ残れる民屋に

(いまぞあいみるにしょうぐん)

今ぞ相見る二将軍

(のぎたいしょうはおごそかに)

乃木大将は厳かに

(みめぐみふかきおおぎみの)

御恵み深き大君の

(おおみことのりつとうれば)

大詔伝うれば

(かれかしこみてしゃしまつる)

彼畏みて謝し奉る

(きのうのてきはきょうのとも)

昨日の敵は今日の友

(かたることばもうちとけて)

語る言葉も打ち解けて

(われはたたえつかのぼうび)

我は称えつ彼の防備

(かれはたたえつわがぶゆう)

彼は称えつ我が武勇

(かたちただしていいいでぬ)

形正して言い出でぬ

(このほうめんのせんとうに)

此の方面の戦闘に

(にしをうしないたまいつる)

二子を失い給いつる

(かっかのこころいかにぞと)

閣下の心如何にぞと

(ふたりのわがこそれぞれに)

二人の我が子其々に

(ししょをえたるをよろこべり)

死所を得たるを喜べり

(これぞぶもんのめんぼくと)

これぞ武門の面目と

(たいしょうこたえちからあり)

大将答力有り

(りょうしょうひるげともにして)

両将昼食共にして

(なおもつきせぬものがたり)

尚も尽きせぬ物語

(われにあいするりょうばあり)

我に愛する良馬有り

(きょうのきねんにけんずべし)

今日の記念に献ずべし

(こういしゃするにあまりあり)

厚意謝するに余り有り

(ぐんのおきてにしたがいて)

軍の掟に従いて

(たじつわがてにじゅりょうせば)

他日我が手に受領せば

(ながくいたわりやしなわん)

永く労わり養わん

(さらばとあくしゅねんごろに)

さらばと握手懇に

(わかれてゆくやみぎひだり)

別れて行くや右左

(つつおとたえしほうだいに)

砲音絶えし砲台に

(ひらめきたてりひのみはた)

閃き立てり日の御旗