夏目漱石「こころ」2-24
こっちゃん様が(上)の方を上げて下さっていたものの続きでございます。
タイピングを投稿するのは初めてですので、誤字脱字等ありましたらご連絡何卒宜しくお願い致します。
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こっちゃん様による(上)
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続きからです。
ちょっと短めです。
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問題文
(そのうちしたがだんだんもつれてきた。)
そのうち舌が段々縺れて来た。
(なにかいいだしてもしりがふめいりょうにおわるために、)
何か云い出しても尻が不明瞭に了るために、
(ようりょうをえないでしまうことがおおくあった。)
要領を得ないでしまう事が多くあった。
(そのくせはなしはじめるときは、きとくのびょうにんとはおもわれないほど、つよいこえをだした。)
その癖話始める時は、危篤の病人とは思われない程、強い声を出した。
(われわれはもとよりふだんいじょうにちょうしをはりあげて、)
我々は固より不断以上に調子を張り上げて、
(みみもとへくちをよせるようにしなければならなかった。)
耳元へ口を寄せるようにしなければならなかった。
(「あたまをひやすとよいこころもちですか」)
「頭を冷やすと好い心持ですか」
(「うん」)
「うん」
(わたくしはかんごふをあいてに、ちちのみずまくらをとりかえて、)
私は看護婦を相手に、父の水枕を取り更えて、
(それからあたらしいこおりをいれたひょうのうをあたまのうえへのせた。)
それから新らしい氷を入れた氷嚢を頭の上へ載せた。
(がさがさにわられてとがりきったこおりのはへんが、ふくろのなかでおちつくあいだ、)
がさがさに割られて尖り切った氷の破片が、嚢の中で落ち着く間、
(わたくしはちちのはげあがったひたいのはずれでそれをやわらかにおさえていた。)
私は父の禿げ上がった額の外でそれを柔らかに抑えていた。
(そのときあにがろうかづたいにはいってきて、いっつうのゆうびんをむごんのままわたくしのてにわたした。)
その時兄が廊下伝に這入て来て、一通の郵便を無言のまま私の手に渡した。
(あいたほうのひだりてをだして、そのゆうびんをうけとったわたくしはすぐふしんをおこした。)
空いた方の左手を出して、その郵便を受取った私はすぐ不審を起した。
(それはふつうのてがみにくらべるとよほどめかたのおもいものであった。)
それは普通の手紙に比べると余程目方の重いものであった。
(なみのじょうぶくろにもいれてなかった。)
並の状袋にも入れてなかった。
(またなみのじょうぶくろにいれられべきぶんりょうでもなかった。)
また並の状袋に入れられべき分量でもなかった。
(はんしでつつんで、ふうじめをていねいにのりではりつけてあった。)
半紙で包んで、封じ目を鄭寧に糊で貼り付けてあった。
(わたくしはそれをあにのてからうけとったとき、すぐそのかきとめであることにきがついた。)
私はそれを兄の手から受け取った時、すぐその書留である事に気が付いた。
(うらをかえしてみるとそこにせんせいのながつつしんだじでかいてあった。)
裏を返して見ると其所に先生の名がつつしんだ字で書いてあった。
(てのはなせないわたくしは、)
手の放せない私は、
(すぐふうをきるわけにいかないので、ちょっとそれをふところにさしこんだ。)
すぐ封を切る訳に行かないので、一寸それを懐に差し込んだ。