本好きの下剋上 3巻 ～本がないなら打てばいい～

(まいんはわたしといっしょにいるの！いなくなっちゃだめ！)

マインはわたしと一緒にいるの！いなくなっちゃダメ！

トゥーリ

(うんうんいっぱいまいんとあそぶいっしょにいるからね)

うん、うん。いっぱいマインと遊ぶ。一緒にいるからね

トゥーリ

(しんじゃうからいきができないとみぐいじゃなくてもしんじゃうから)

…死んじゃうから。息ができないと身食いじゃなくても死んじゃうから。

マイン

(かまどのほのおしかないうすぐらいだいどころでとうさんがひとりでさけをあおっていた)

竈の炎しかない薄暗い台所で父さんが一人で酒をあおっていた。

(たにんのものをとるんじゃないいじきたないねもうひとつやけばいいだろう？)

他人の物を取るんじゃない。意地汚いね。もう一つ焼けばいいだろう？

カルラ

(ゆきどけにしゅくふくをはるのめがみがおおいなるめぐみをもたらしますように)

雪解けに祝福を。春の女神が大いなる恵みをもたらしますように

マルク

(ほん？そんなものをつくってどうするんだ？うれんぞ？)

本？…そんなものを作ってどうするんだ？売れんぞ？

ベンノ

(え？うりませんよじぶんでよむんですけど？)

え？売りませんよ。自分で読むんですけど？

マイン

(たいきんがこわいならおれがてすうりょうをうわのせしてやろうか？)

大金が怖いなら、俺が手数料を上乗せしてやろうか？

ベンノ→ルッツ

(ねぇるっつおかねいらないならわたしがもらってあげようか？)

ねぇ、ルッツ。お金いらないなら、わたしがもらってあげようか？

マイン

(あたらしいことをはじめたらきとくけんえきとぶつかるのはよそうのはんいないだったもん)

新しいことを始めたら既得権益とぶつかるのは予想の範囲内だったもん。

マイン

(たくさんうられるようになったらもののねだんってさがっていくものなの)

たくさん売られるようになったら、物の値段って下がっていくものなの

マイン

(ほしいひとがおおくてうってるしょうひんがすくないばあいはしょうひんのねだんがあがるの)

欲しい人が多くて、売ってる商品が少ない場合は、商品の値段が上がるの

マイン

(まいんがじぶんのきもちをごまかしたいときははやくちになるんだ)

マインが自分の気持ちを誤魔化したい時は、早口になるんだ

ルッツ

(あれ？べんのっていがいとまいんちゃんにしんようされてないんじゃないか？)

あれ？ベンノって意外とマインちゃんに信用されてないんじゃないか？

オットー

(べんのみずのめがみのとうちゃくだよ)

ベンノ、水の女神の到着だよ

オットー

(だまれおっとーこりんなとりえんさせられたいのか？)

黙れ、オットー。コリンナと離縁させられたいのか？

ベンノ

(わらえないじょうだんはじょうだんじゃないんだ)

笑えない冗談は冗談じゃないんだ

ベンノ

(たにんのことばをうのみにしないっていうのはしょうにんとしてだいじ)

他人の言葉を鵜呑みにしないっていうのは、商人として大事

オットー

(ぎるどちょうがらすぼすかまさかきとくけんえきがべんのさんにとってざこだったとは)

…ギルド長がラスボスか。まさか既得権益がベンノさんにとって雑魚だったとは

マイン

(おっとーはあくまでへいしそれいがいのときにこきつかうだけだ)

オットーはあくまで兵士。それ以外の時にこき使うだけだ。

ベンノ

(まるくさんはぴしっとしたふくがにあうすてきしんしだからだめです)

マルクさんはピシッとした服が似合う素敵紳士だからダメです。

マイン

(ささえるかぞくがいなくなったときにはよめにしたかったおんながしんでもういなかった)

支える家族がいなくなった時には、嫁にしたかった女が死んで、もういなかった

ベンノ

(あいついじょうのおんながいないからけっこんしないそれだけだ)

アイツ以上の女がいないから結婚しない。それだけだ

ベンノ

(だったらなにがなんでもるっつはうちのみせでかくほしておかないとな)

だったら、何が何でもルッツはウチの店で確保しておかないとな

ベンノ

(ちがうじょうしきにぶつかったらびっくりするのはわかるけどなれるしかないよ)

違う常識にぶつかったら、ビックリするのはわかるけど、慣れるしかないよ。

マイン

(しょだながわたしをよんでいるんです)

…書棚がわたしを呼んでいるんです

マイン

(はるがおわろうとしているのにまいんはぜんぜんあそびにきてくれないのね)

春が終わろうとしているのに、マインは全然遊びに来てくれないのね

フリーダ

(おとなびたものいいとかんがえかたはふりーだがみにつけているぶきでありぼうぐだ)

大人びた物言いと考え方はフリーダが身に付けている武器であり、防具だ。

マイン

(わたしじぶんなりにかんがえたけっかかぞくといっしょにいてくちるほうをえらんだの)

わたし、自分なりに考えた結果、家族と一緒にいて、朽ちる方を選んだの

マイン

(ほんとうにどこのおじょうさまだ？きょうのせんれいしきではまいんがいちばんかわいいぞ)

本当にどこのお嬢様だ？今日の洗礼式ではマインが一番可愛いぞ

ギュンター

(あたりまえだうちのむすめがいちばんかわいい)

当たり前だ。ウチの娘が一番可愛い

ギュンター

(うふふかざりなのにゆえるのうちのまいんはすごいんだから)

うふふ、飾りなのに、結えるの。ウチのマインはすごいんだから

トゥーリ

(そのふくもかみかざりもすっげぇにあうかわいくてびっくりした)

その服も髪飾りもすっげぇ似合う。可愛くてビックリした

ルッツ

(まぁかわいいちいさなけっこんしきみたいね)

まぁ、可愛い。小さな結婚式みたいね

(だってぐりこ！まじめなかおでぐりこのぽーずなんだよ！？なんでぐりこ！？)

…だって、グリコ！真面目な顔でグリコのポーズなんだよ！？何でグリコ！？

マイン

(だだいじょうぶまだだいじょうぶたえられるこれはかみがわたしにあたえたしれんだから)

だ、大丈夫。…まだ大丈夫。耐えられる。これは神がわたしに与えた試練だから

マイン

(これはしゅうきょうこれはしゅうきょうまじめにしてるんだからわらっちゃしつれい)

…これは宗教。これは宗教。真面目にしてるんだから、笑っちゃ失礼。

マイン

(まさにこのとしょしつこそかみがつくりたまいしらくえんわたしのかみはここにいる！)

まさに、この図書室こそ神が作り給いし楽園。わたしの神はここにいる！

マイン

(しんでんちょうおねがいしますみこみならいになりたいんですどうかきょかをください)

神殿長、お願いします。巫女見習いになりたいんです。どうか許可をください

マイン

(わたしにとってせいてんはかみそのものなんです)

わたしにとって聖典は神そのものなんです。

マイン

(すみませんこうふんしすぎましたうごけないのでもうしばらくおまちください)

すみません、興奮しすぎました。動けないので、もうしばらくお待ちください

マイン

(かみがつくりたまいしこのよのらくえんつまりほんがいっぱいあるへや)

神が作り給いし、この世の楽園。…つまり、本がいっぱいある部屋

マイン

(ふざけるな！おれはじぶんのむすめをしんでんになんかいれはしない)

ふざけるな！俺は自分の娘を神殿になんか入れはしない

ギュンター

(ほんをえらぶことができなくなるなんておもいもしなかったな)

…本を選ぶことができなくなるなんて、思いもしなかったな。

マイン

(いつのまにかかぞくがほんとおなじくらいだいじになっていたようだ)

いつの間にか家族が本と同じくらい大事になっていたようだ。

マイン

(きみはずいぶんとおぼえがよいなこれほどきゅうしゅうがよいとおしえがいがある)

君はずいぶんと覚えが良いな。これほど吸収が良いと教え甲斐がある。

神官長

(だんなさまもけっかんをうきたたせたえがおでまってるぞ)

旦那様も血管を浮き立たせた笑顔で待ってるぞ

ルッツ

(すこしはあたまをつかえ！このかんがえなし！)

少しは頭を使え！この考え無し！

(まいんけいやくまじゅつをかわすきはないか？おまえがつくったものはこちらでとりあつかうと)

マイン、契約魔術を交わす気はないか？お前が作った物はこちらで取り扱う、と

ベンノ

(わたしなんとまじょっこだったらしい)

…わたし、なんと魔女っ子だったらしい。

マイン

(しんでんやきぞくにとりこまれるまえにるっつとつながりをつくっておかないか？)

神殿や貴族に取り込まれる前にルッツと繋がりを作っておかないか？

ベンノ

(いきのびるみちにげみちはおもいつくかぎりじゅんびしておけ)

生き延びる道、逃げ道は思いつく限り準備しておけ。

ベンノ

(さくしゅされるだけでなくりようしあえるあいてをさがせ)

搾取されるだけでなく、利用し合える相手を探せ。

ベンノ

(よくみてえらべかんがえろぼんやりながされるないきるためにあがけ)

よく見て、選べ。考えろ。ぼんやり流されるな。生きるためにあがけ

ベンノ

(すこしでもふせいをふせぐためにおれとぎるどをまきこんでおけ)

少しでも不正を防ぐために俺とギルドを巻き込んでおけ。

ベンノ

(じぶんのことをたにんにまるなげするなきっちりあいだにはいってじぶんのりえきをかくほしろ)

自分のことを他人に丸投げするな。きっちり間に入って自分の利益を確保しろ。

ベンノ

(いっしょにかみをつくってほんをつくってうるっていったくせにまいんのうそつき)

…一緒に紙を作って、本を作って売るって言ったくせに。マインの嘘つき

ルッツ

(でもくやしいまいんはおれとほんやさんをするっていったのに)

…でも、悔しい。マインはオレと本屋さんをするって言ったのに…

ルッツ

(だいじょうぶだってまいんがかんがえたものはおれがぜったいにつくってやるよ)

大丈夫だって。マインが考えた物はオレが絶対に作ってやるよ

ルッツ

(いきるためにあがけかかんがえようによってはこうきということだな？)

生きるためにあがけ、か。考えようによっては好機ということだな？

ギュンター

(わかったやってやろうおれはこのまちごとかぞくをまもるためにへいしになったんだ)

わかった。やってやろう。俺はこの街ごと家族を守るために兵士になったんだ。

ギュンター

(とうさんわたしをまもってね)

父さん、わたしを守ってね

マイン

(おことわりしますこじとおなじかんきょうではまいんはどうせいきられない)

お断りします。孤児と同じ環境ではマインはどうせ生きられない

ギュンター

(りょうしんそろってぶれいな！おとなしくむすめをさしだせ！)

両親揃って無礼な！おとなしく娘を差し出せ！

神殿長

(まいんをまもるときめたときからそれくらいのかくごはできている)

マインを守ると决めた時から、それくらいの覚悟はできている

ギュンター

(ふざけるなはこっちのせりふわたしのとうさんとかあさんにさわらないで)

ふざけるなはこっちのセリフ。わたしの父さんと母さんに触らないで

マイン

(おはなしあい？にくたいげんごで？それともまりょくで？)

オハナシアイ？肉体言語で？それとも、魔力で？

マイン

(まいんはだいじなむすめだなんどもそういったはずですが？)

マインは大事な娘だ。何度もそう言ったはずですが？

ギュンター

(まいんわたしはしょうじきここまでおやにだいじにされあいされているきみがうらやましいとおもう)

マイン、私は正直、ここまで親に大事にされ、愛されている君が羨ましいと思う

神官長

(こういってはなんだがなぜきみはいきている？)

…こう言っては何だが、何故、君は生きている？

神官長

(じぶんのいきたいようにいきられないのではいきていてもしんでいるのとおなじ)

自分の生きたいように生きられないのでは、生きていても死んでいるのと同じ

マイン

(じぶんがいきたいようにいきるかとてもりかいできないかんがえかただな)

…自分が生きたいように生きる、か。とても理解できない考え方だな

神官長

(だいしょうりだねとうさんもかあさんもわたしをまもってくれてありがとう)

大勝利だね。父さんも母さんも、わたしを守ってくれてありがとう

マイン

(あぁおれのかぞくはこのまちごとおれがまもる)

あぁ、俺の家族はこの街ごと、俺が守る

ギュンター

(ぎじゅつもだいじだけどおもいつくためにはいいものをいっぱいみるのもだいじだよ)

技術も大事だけど、思いつくためには良い物をいっぱい見るのも大事だよ

マイン

(ほしいあたらしいれしぴがまいんがしっているれしぴがほしい)

…欲しい。新しいレシピが。マインが知っているレシピが欲しい。

イルゼ

(まいんあんたいったいなにものなんだい？いったいどこでそんなれしぴをてにいれた？)

マイン。アンタ一体何者なんだい？一体どこでそんなレシピを手に入れた？

イルゼ

(まいんはきっとけいかいしんというものをどこかにおとしてきたにちがいない)

マインはきっと警戒心というものをどこかに落としてきたに違いない。

ベンノ