カゴの鳥の願い/私の使命

(どうかおねがいわたしをころして)

どうかお願い　私を殺して

(はあ)

はあ？

(いきていてもくるしいだけ)

生きていても苦しいだけ

(のぞんだみちあきらめるしかなくて)

望んだ道　あきらめるしかなくて

(なんでだ)

なんでだ？

(かぞくがはんたいなのです)

家族が反対なのです

(かごのとりのようにじゆううばわれ)

カゴの鳥のように　自由うばわれ

(しにたきゃかってにしにゃいいだろ)

死にたきゃ勝手に死にゃいいだろ

(くりすちゃんはじさつできません)

クリスチャンは自殺できません

(なぜごーすとにたのむ)

なぜゴーストに頼む

(だれかにひとごろしのつみをおわせることはできません)

誰かに人殺しの罪を負わせることはできません

(でもあるひとにききました あなたならできると)

でもある人に聞きました あなたならできると

(かつてころしをしごとにしてたと)

かつて殺しを仕事にしてたと

(けっとうのだいりにんだころしやじゃねえ)

決闘の代理人だ　殺し屋じゃねえ

(あなただけがたよりです)

あなただけが頼りです

(ころしてくださいすぐに)

殺してください　すぐに

(こんないきかたはもうむりです)

こんな生き方はもう　無理です

(ことわる)

断る

(あんたしらねえんだ ごーすとがにんげんをころすってことのいみを)

あんた知らねえんだ ゴーストが人間を殺すってことの意味を

(どういうことですか)

どういうことですか？

(おれはあんたみてえなおんなのほんしょうをしってる)

俺はあんたみてえな女の本性を知ってる

(かかわりたくねえかえってくれ)

関わりたくねえ　帰ってくれ

(いえにかえればおやののぞむあいてと けっこんしなくてはなりません)

家に帰れば親の望む相手と 結婚しなくてはなりません

(そんなにひどいおとこなのか)

そんなにひどい男なのか

(せいじつなかたです おしたいしていたときもありました)

誠実な方です お慕いしていた時もありました

(でもけっこんはできません)

でも結婚はできません

(わたしにはしめいがあります)

私には使命があります

(しめい)

使命？

(きづいたのはなんねんかまえ)

気付いたのは何年か前

(べっそうのちかくにあるのうかで おとこのこがびょうきでなくなったときいて)

別荘の近くにある農家で 男の子が病気で亡くなったと聞いて

(わたしはとてもおどろきました)

私はとても驚きました

(まいとしなつになるとたべものをとどけていたので あかちゃんのときからしってるこで)

毎年夏になると食べ物を届けていたので 赤ちゃんの時から知ってる子で

(わたしはしょっくをうけて おはかをたずねました)

私はショックを受けて お墓を訪ねました

(こんにちは)

こんにちは

(これはこれはおじょうさま)

これはこれはお嬢様

(ぼうやのためにおいのりしたくて)

坊やのためにお祈りしたくて

(ありがとうございます)

ありがとうございます

(なにしにきたのさもうおそいよ)

何しに来たのさ　もう遅いよ

(おとうとはしんだたったいつつで)

弟は死んだ　たった五つで

(てあてもうけられず)

手当も受けられず

(くすりもないままで)

薬もないままで

(いまさらいのってなんになんのさ)

今さら祈ってなんになんのさ！

(ごめんなさい)

ごめんなさい

(かえってかえってよ)

帰って！　帰ってよ！

(あのとききづいたんです)

あの時気づいたんです

(かみさまがしめした このみをささげおつかえするみちを)

神様が示した この身を捧げお仕えする道を

(ながいあいだまよってようやくみつけた)

長い間　迷ってようやく見つけた

(これこそわたしのみち)

これこそ私の道

(このよにうまれてきたいみに やっときづいた)

この世に生まれてきた意味に やっと気づいた

(なみだがあふれて このむねがあつくもえた)

涙があふれて この胸が熱く燃えた

(ひかりがさしこんできた)

光が射しこんできた

(すくいたいくるしむひとを)

救いたい　苦しむ人を

(いやしたいおびえるひとを)

癒したい　おびえる人を

(びょうきでたおれたひとをささえるかんごふになる)

病気で倒れた人を支える看護婦になる

(それがしめい)

それが使命

(なったのかかんごふに)

なったのか看護婦に？

(はいでもしめいをはたすには もっときびしいみちへすすむべきだとかんじています)

はい　でも使命を果たすには もっと厳しい道へ進むべきだと感じています

(くりみあへいきたい じゅうぐんかんごふとして)

クリミアへ行きたい 従軍看護婦として

(せんじょうにいくってのか)

戦場に行くってのか？

(かぞくがだんことしてゆるしてくれません)

家族が断固として許してくれません

(でもじぶんのこころをいつわって いきてゆくことはできない)

でも自分の心を偽って 生きてゆくことはできない

(だからおやのめをぬすんで やっといえをぬけだしておねがいにきたんです)

だから親の目を盗んで やっと家を抜け出してお願いに来たんです

(おじょうちゃんがおやにはんこうして まけたからしにてえってのか)

お嬢ちゃんが親に反抗して 負けたから死にてえってのか

(あなたにはわからない)

あなたには分からない

(わたしのかぞくにあえばわかるはずです)

私の家族に会えばわかるはずです

(どうかいっしょにきてください)

どうか一緒に来てください

(わがやにどうか)

我が家にどうか

(おれはもうひゃくねんここからいっぽもでてねえんだ)

俺はもう百年ここから一歩も出てねえんだ

(おねがいです)

お願いです

(あんたのおねがいなんかどうでもいいが うるせえからいくだけいってやる)

あんたのお願いなんかどうでもいいが うるせえから行くだけ行ってやる

(ありがとうございます)

ありがとうございます

(でもころすきはねえからな)

でも殺す気はねえからな

(あんたなまえは)

あんた名前は？

(ふろーれんすないちんげーる ふろーとおよびください)

フローレンス・ナイチンゲール フローとお呼びください

(さあまいりましょう)

さあ　参りましょう

(おもいつめたまなざしのおくに)

思いつめた眼差しの奥に

(おれがみたのはしんじつか)

俺が見たのは真実か

(ありふれたわがままなのか)

ありふれたわがままなのか

(おもしれえなこれはひげきかきげきか)

おもしれえな　これは悲劇か喜劇か