夏目漱石「こころ」3-95

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夏目漱石「こころ」3-95
下)先生と遺書
夏目漱石の「こころ」(下)でございます。
なるべく原文ママで問題を設定しておりますので、誤字なのか原文なのかややこしいとは思われますが最後までお付き合い下さい。

オリジナルの書き方・読み方については以下に載せますので、参考の程よろしくお願い致します。
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4:些とも(ちっとも)
11:棒立(ぼうだち)
11:立竦み(たちすくみ)
12:失策った(しまった)
13:貫ぬいて(つらぬいて)
14:横わる(よこたわる)
15;顫え出した(ふるえだした)
21:列ねて(つらねて)
41:皆な(みんな)
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問題文

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(わたくしはおいといってこえをかけました。)

私はおいと云って声を掛けました。

(しかしなんのこたえもありません。)

然し何の答もありません。

(おいどうかしたのかとわたくしはまたけいをよびました。)

おいどうかしたのかと私は又Kを呼びました。

(それでもけいのからだはちっともうごきません。)

それでもKの身体は些とも動きません。

(わたくしはすぐおきあがって、しきいぎわまでいきました。)

私はすぐ起き上って、敷居際まで行きました。

(そこからかれのへやのようすを、くらいらんぷのひかりでみまわしてみました。)

其所から彼の室の様子を、暗い洋燈の光で見廻して見ました。

(そのときわたくしのうけただいいちのかんじは、)

その時私の受けた第一の感じは、

(けいからとつぜんこいのじはくをきかされたときのそれとほぼおなじでした。)

Kから突然恋の自白を聞かされた時のそれと略同じでした。

(わたくしのめはかれのへやのなかをひとめみるやいなや、)

私の眼は彼の室の中を一目見るや否や、

(あたかもがらすでつくったぎがんのように、うごくのうりょくをうしないました。)

あたかも硝子で作った義眼のように、動く能力を失いました。

(わたくしはぼうだちにたちすくみました。)

私は棒立に立竦みました。

(それがしっぷうのごとくわたくしをつうかしたあとで、わたくしはまたああしまったとおもいました。)

それが疾風の如く私を通過したあとで、私は又ああ失策ったと思いました。

(もうとりかえしがつかないというくろいひかりが、わたくしのみらいをつらぬいて、)

もう取り返しが付かないという黒い光が、私の未来を貫ぬいて、

(いっしゅんかんにわたくしのまえによこたわるぜんしょうがいをものすごくてらしました。)

一瞬間に私の前に横わる全生涯を物凄く照らしました。

(そうしてわたくしはがたがたふるえだしたのです。)

そうして私はがたがた顫え出したのです。

(それでもわたくしはついにわたくしをわすれることができませんでした。)

それでも私はついに私を忘れる事が出来ませんでした。

(わたくしはすぐつくえのうえにおいてあるてがみにめをつけました。)

私はすぐ机の上に置いてある手紙に目を着けました。

(それはよきどおりわたくしのなあてになっていました。)

それは予期通り私の名宛になっていました。

(わたくしはむちゅうでふうをきりました。)

私は夢中で封を切りました。

(しかしなかにはわたくしのよきしたようなことはなんにもかいてありませんでした。)

然し中には私の予期したような事は何にも書いてありませんでした。

など

(わたくしはわたくしにとってどんなにつらいもんくがそのなかにかきつらねてあるだろうと)

私は私に取ってどんなに辛い文句がその中に書き列ねてあるだろうと

(よきしたのです。)

予期したのです。

(そうして、もしそれがおくさんやおじょうさんのめにふれたら、)

そうして、もしそれが奥さんや御嬢さんの眼に触れたら、

(どんなにけいべつされるかもしれないというきょうふがあったのです。)

どんなに軽蔑されるかも知れないという恐怖があったのです。

(わたくしはちょっとめをとおしただけで、まずたすかったとおもいました。)

私は一寸眼を通しただけで、まず助かったと思いました。

((もとよりせけんていのうえだけでたすかったのですが、)

(固より世間体の上だけで助かったのですが、

(そのせけんていがこのばあい、わたくしにとってはひじょうなじゅうだいじけんにみえたのです。))

その世間体がこの場合、私にとっては非常な重大事件に見えたのです。)

(てがみのないようはかんたんでした。そうしてむしろちゅうしょうてきでした。)

手紙の内容は簡単でした。そうして寧ろ抽象的でした。

(じぶんははくしじゃっこうでとうていゆくさきののぞみがないから、じさつするというだけなのです。)

自分は薄志弱行で到底行先の望みがないから、自殺するというだけなのです。

(それからいままでわたくしにせわになったれいが、)

それから今まで私に世話になった礼が、

(ごくあっさりしたもんくでそのあとにつけくわえてありました。)

極あっさりした文句でその後に付け加えてありました。

(せわついでにしごのかたづけがたもたのみたいということばもありました。)

世話序に死後の片付方も頼みたいという言葉もありました。

(おくさんにめいわくをかけてすまんからよろしくわびをしてくれというくもありました。)

奥さんに迷惑を掛けて済まんから宜しく詫をしてくれという句もありました。

(ひつようなことはみんなひとくちずつかいてあるなかに)

必要な事はみんな一口ずつ書いてある中に

(おじょうさんのなまえだけはどこにもみえません。)

御嬢さんの名前だけは何処にも見えません。

(わたくしはしまいまでよんで、すぐけいがわざとかいひしたのだということにきがつきました。)

私は仕舞まで読んで、すぐKがわざと回避したのだという事に気が付きました。

(しかしわたくしのもっともつうせつにかんじたのは、さいごにすみのあまりでかきそえたらしくみえる、)

然し私の尤も痛切に感じたのは、最後に墨の余りで書き添えたらしく見える、

(もっとはやくしぬべきだのになぜいままでいきていたのだろう)

もっと早く死ぬべきだのに何故今まで生きていたのだろう

(といういみのもんくでした。)

という意味の文句でした。

(わたくしはふるえるてで、てがみをまきおさめて、ふたたびふうのなかへいれました。)

私は顫える手で、手紙を巻き収めて、再び封の中へ入れました。

(わたくしはわざとそれをみんなのめにつくように、もとのとおりつくえのうえにおきました。)

私はわざとそれを皆なの眼に着くように、元の通り机の上に置きました。

(そうしてふりかえって、ふすまにほとばしっているちしおをはじめてみたのです。)

そうして振り返って、襖に逬ばしっている血潮を始めて見たのです。

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