波 / 稲葉浩志

(あかいあかいうみにくらげのようにとろけてゆくたいよう)

朱い朱い海に くらげのようにとろけてゆく太陽

(きみがすぐにどこかにいかないようにてをにぎろう)

君がすぐにどこかに行かないように 手を握ろう

(もうすこしうごかないでむねのこどうしずまるまで)

もうすこし動かないで 胸の鼓動静まるまで

(まだおさないやみのむこうにほしたちがうかびあがり)

まだ幼い闇のむこうに 星たちが浮かびあがり

(きみはぐんじょうにすいこまれるようにきえてゆくの)

君は群青に吸い込まれるように 消えてゆくの

(わかるよこれいじょうはもういっしょにいてはいけないと)

わかるよ これ以上は もういっしょにいてはいけないと

(あらしのよるのなみのようにみえないなにかにおびえて)

嵐の夜の波のように 見えない何かにおびえて

(みちのまえでまよいたちどまっている)

道の前で 迷い 立ちどまっている

(なくすものにはじめてきづいているから)

なくすものに はじめて気づいているから

(すがりたいひともまつひともぜんぶなくしてしまいたい)

すがりたい人も 待つ人も全部 なくしてしまいたい

(ほんとうにひとりきりになってさまよってみたい)

本当にひとりきりになって さまよってみたい

(そんなゆうきのないじぶんをわらってまたいやになるよ)

そんな勇気のない 自分を笑ってまた嫌になるよ

(よせてはかえすなみのようにいつでもゆらゆらゆれている)

寄せてはかえす波のように いつでもゆらゆら揺れている

(やすらぎもふあんもきえることはない)

安らぎも不安も 消えることはない

(たにんをみつめてみんないきているから)

他人を見つめてみんな生きているから

(ぼくがおぼれてるのはよけいなもののうみなんだろうか)

僕が おぼれてるのは よけいなものの海なんだろうか

(まばたきほどのときにしずむひとをしあわせにできるかぎがあるという)

まばたきほどの時に沈む 人を幸せにできる鍵があるという

(なにもかもあいしてみたいおおきくこのうでをひろげて)

なにもかも愛してみたい 大きくこの腕を広げて

(ほんとうはきみをまるごとつつんでみたいよ)

本当は君をまるごと包んでみたいよ

(そしてむげんのうみをもぐってゆきたい)

そして無限の海を潜ってゆきたい