怖い話《アリス》1

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問題文

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(「わたし、ふしぎのくにのありすだったんです」)

「私、不思議の国のアリスだったんです」

(さーくるしゅさいのかいだんかいで、あいちゃんはじぶんのばんがまわってくるなり)

サークル主催の怪談会で、愛ちゃんは自分の番が回ってくるなり

(かいこういちばんにそういった。)

開口一番にそう言った。

(このあいちゃんというおんなのこはすこしでんぱがはいっているかんじのふしぎちゃんで、)

この愛ちゃんという女の子は少し電波が入っている感じの不思議ちゃんで、

(かおはかわいいのだがいらないあくいややゆをかってしまうたいぷだった。)

顔は可愛いのだが要らない悪意や揶揄を買ってしまうタイプだった。

(けれどとうのほんにんはそんなのどこふくかぜといったようすでいつもにこにこしている。)

けれど当の本人はそんなのどこ吹く風といった様子でいつもニコニコしている。

(かわいいしひとなつっこいのでだんしからはそこそこにんきがあったが、)

可愛いし人懐っこいので男子からはそこそこ人気があったが、

(いちぶのじょしからはけむたがられている・・・そんなあいちゃんがいかにも)

一部の女子からは煙たがられている・・・そんな愛ちゃんがいかにも

(でんぱっぽいはじまりではなしはじめたから、ひとりのせんぱいがすぐさまちゃちゃをいれた。)

電波っぽい始まりで話し始めたから、一人の先輩がすぐさま茶々を入れた。

(「それってあれ?ものがすごいおおきくみえたりするやつ?」)

「それってあれ?物が凄い大きく見えたりするやつ?」

(「ああ、ふしぎのくにのありすしょうこうぐんってあるもんねたしか。)

「ああ、不思議の国のアリス症候群ってあるもんね確か。

(でも、かいだんかいでびょうきのはなしをされてもねぇ」)

でも、怪談会で病気の話をされてもねぇ」

(「そういうこわさはもとめてないからな~」)

「そういう怖さは求めてないからな~」

(はなしのないようをかってにみすかしてちゃかすというぶすいなげんどうに、しらけたくうきがながれた。)

話の内容を勝手に見透かして茶化すという無粋な言動に、白けた空気が流れた。

(しかしそのくうきがながつづきしなかったのは、あいちゃんが「あはは、)

しかしその空気が長続きしなかったのは、愛ちゃんが「あはは、

(そういうおはなしじゃないですよ」とことさらいにかいしたかぜでもなくはなしをつづけたからだ。)

そういうお話じゃないですよ」と殊更意に介した風でもなく話を続けたからだ。

(「ほかのひとがみえないところとか、いけないところに、いれたんです」)

「他の人が見えないところとか、行けないところに、入れたんです」

(「・・・どういうこと?」)

「・・・どういうこと?」

(「ふしぎのくにのありすって、しゅじんこうがうさぎをおいかけてちがうせかいに)

「不思議の国のアリスって、主人公がうさぎを追いかけて違う世界に

(いっちゃうかじゃないですか。ほんとあんなかんじですよ。)

行っちゃうかじゃないですか。ほんとあんな感じですよ。

など

(ほかのひとにはみえないふしぎなばしょがわたしにはみえたし、)

他の人には見えない不思議な場所が私には見えたし、

(そこにはいることもできたんです」)

そこに入る事も出来たんです」

(いままでかたられてきたどのかいだんともちがうかたりくちに、)

今まで語られてきたどの怪談とも違う語り口に、

(さっきまであいちゃんのことをちゃかしていたれんちゅうもくちをつぐんでいた。)

さっきまで愛ちゃんの事を茶化していた連中も口を噤んでいた。

(そもそもかいだんかいなんてもものずきなあつまりにさんかするようなれんちゅうだ。)

そもそも怪談会なんても物好きな集まりに参加する様な連中だ。

(あいちゃんにたいするあくかんじょうよりも、かのじょのはなしへのきょうみがうわまわったのだろう。)

愛ちゃんに対する悪感情よりも、彼女の話への興味が上回ったのだろう。

(「さいしょはようちえんのころだったなぁ。みんなでつかえるあそびばみたいなへやが)

「最初は幼稚園の頃だったなぁ。みんなで使える遊び場みたいな部屋が

(あったんですけど、そこのすみっこにかいだんがあるのをみつけたんですよ。)

あったんですけど、そこの隅っこに階段があるのを見つけたんですよ。

(そんあとこにかいだんなんてあるはずないんですけどね、ほんとは。)

そんあとこに階段なんてあるはずないんですけどね、ほんとは。

(でもそのころはこどもでしたから、きょうみほんいでかいだんをおりてみたんです」)

でもその頃は子供でしたから、興味本位で階段を下りてみたんです」

(「まぁ、ようちえんじならおりちゃうよな・・・」)

「まぁ、幼稚園児なら下りちゃうよな・・・」

(「そしたらおりたさきにもふつうにへやがあったんです。)

「そしたら下りた先にも普通に部屋があったんです。

(ぼーるとかおてだまとかがおいてあって、わたしいがいにもなんにんかあそんでいるこがいて。)

ボールとかお手玉とかが置いてあって、私以外にも何人か遊んでいる子がいて。

(いまおもえば、みんなしらないこでしたけど」)

今思えば、みんな知らない子でしたけど」

(かっぱつなこどもだったあいちゃんは、そのままそこでしばらくあそんで、)

活発な子供だった愛ちゃんは、そのままそこで暫く遊んで、

(もといたへやにもどったという。)

元居た部屋に戻ったという。

(つぎのひもそのまたつぎのひもそこにはかいだんがあって、)

次の日もそのまた次の日もそこには階段があって、

(かのじょはまいにちのようにそれをおりてはけんのへやであそんでいた。)

彼女は毎日の様にそれを下りては件の部屋で遊んでいた。

(だが、そんなひびはあるときとつぜんおわりをむかえた。)

だが、そんな日々はある時突然終わりを迎えた。

(「あるひ、なかのよかったこをそこにさそったんです。)

「ある日、仲の良かった子をそこに誘ったんです。

(だけどそのこには、かいだんなんてどこにもみえないらしくて。)

だけどその子には、階段なんてどこにも見えないらしくて。

(そこではじめて、あのかいだんがじぶんにしかみえてなかったんだときづいたんですけど)

そこで初めて、あの階段が自分にしか見えてなかったんだと気づいたんですけど

(ふっとしせんをむけたら、わたしにもかいだんがみえなくなってたんですよね。)

ふっと視線を向けたら、私にも階段が見えなくなってたんですよね。

(ついさっきまではみえてたのに。けっきょく、れいのかいだんともへやともそれっきりで」)

ついさっきまでは見えてたのに。結局、例の階段とも部屋ともそれっきりで」

(「・・・、・・・」)

「・・・、・・・」

(「でもわたし、それからもいろんな”ほかのひとにはみえないばしょ”にいってたなぁ」)

「でも私、それからも色んな”他の人には見えない場所”に行ってたなぁ」

(いえのとなりはくさがおいしげったあきちのはずなのに、ときどきそこにおおきないえがみえた。)

家の隣は草が生い茂った空き地のはずなのに、時々そこに大きな家が見えた。

(いえからでてきたおねえさんにさそわれてはなかにはいり、)

家から出てきたお姉さんに誘われては中に入り、

(そのたびみたこともないようなおいしいおかしをごちそうになった。)

その度見た事もないようなおいしいお菓子を御馳走になった。

(ごじつははおやにそのことをはなしたところ、あきやにはいってはいけないとしかられたが、)

後日母親にその事を話したところ、空き家に入ってはいけないと叱られたが、

(おねえさんのはなしじたいはいっさいしんじてもらえなかった。)

お姉さんの話自体は一切信じてもらえなかった。

(じんじゃのおまつりにいったとき、けいだいのうらてにあるいていくひとをみたのでついていった。)

神社のお祭りに行った時、境内の裏手に歩いていく人を見たのでついて行った。

(するとそこもやたいやおどりをやっていて、まわりのひとたちはなにかのおめんをつけていた。)

するとそこも屋台や踊りをやっていて、周りの人達は何かのお面をつけていた。

(おかねをもっていなかったのでおやからもらいにもどったところ、)

お金を持っていなかったので親から貰いに戻ったところ、

(けいだいのうらにやたいなんてでるわけないといわれ・・・)

境内の裏に屋台なんて出るわけないと言われ・・・

(ははのてをひいてもういちどいってみたところ、そこにはひとっこひとりいなかった。)

母の手を引いてもう一度行ってみたところ、そこには人っ子一人いなかった。

(ほかにも、あいちゃんはいくつかのふしぎなくうかんのはなしをしてくれた。)

他にも、愛ちゃんはいくつかの不思議な空間の話をしてくれた。

(びょうしつのべっどのしたにあるはしご、のうこつしつのうらにあるひろば、)

病室のベッドの下にある梯子、納骨室の裏にある広場、

(くろーぜっとのおくのとびらからおこなけるさんかっけいのへや。)

クローゼットの奥の扉から行ける三角形の部屋。

(ひとにはなすとみえなくなってしまうものもあれば、)

人に話すと見えなくなってしまうものもあれば、

(はなしてもかわらずみえつづけるものもあったらしい。)

話しても変わらず見え続けるものもあったらしい。

(ただ、あいちゃんが”ふしぎのくにのありす”でいられたじかんは)

ただ、愛ちゃんが”不思議の国のアリス”でいられた時間は

(そうながいものではなかったようだった。)

そう長いものではなかったようだった。

(「でも、10さいになったころからさっぱりみえなくなっちゃったんですよね。)

「でも、10歳になった頃からさっぱり見えなくなっちゃったんですよね。

(ひみつのあそびばがみんななくなっちゃって、けっこうがっかりしたおぼえがあります」)

秘密の遊び場がみんななくなっちゃって、結構がっかりした覚えがあります」

(「へー・・・けどさぁ、ひんぱんにそんなところでいりしてさわぎにならなかったの?)

「へー・・・けどさぁ、頻繁にそんなところ出入りして騒ぎにならなかったの?

(まわりからすれば、あいちゃんがきゅうにいなくなったようにみえるとおもうんだけど」)

周りからすれば、愛ちゃんが急にいなくなったように見えると思うんだけど」

(「ああ、だいじょうぶでしたよ。あっちとこっちだとねぇ、)

「ああ、大丈夫でしたよ。あっちとこっちだとねぇ、

(たぶんじかんのながれかたがちがうんじゃないかなぁ」)

多分時間の流れ方が違うんじゃないかなぁ」

(あいちゃんによると、その”ふしぎなばしょ”にはいってながいじかんあそんでいても、)

愛ちゃんによると、その”不思議な場所”に入って長い時間遊んでいても、

(いざそこをでてみるとぜんぜんじかんがけいかしていないのだという。)

いざそこを出てみると全然時間が経過していないのだという。

(いちじかんとかたいざいしても、もどってとけいをみるとすうふんしかたってない・・・)

一時間とか滞在しても、戻って時計を見ると数分しか経ってない・・・

(なんてばあいがほとんどだったそうだ。)

なんて場合がほとんどだったそうだ。

(「すげぇな、むてきのひみつきちじゃんそれ。ずっとあそんでてもだれにも)

「すげぇな、無敵の秘密基地じゃんそれ。ずっと遊んでても誰にも

(もんくいわれないとか、こどもにしてみればさいこうだろ」)

文句言われないとか、子供にしてみれば最高だろ」

(あそびざかりの)

遊び盛りの

(こどもにとっていちばんのてきはじかんだ。)

子供にとって一番の敵は時間だ。

(どれだけまだあそびたくてもひがくれてしまったらかえらなければならないし、)

どれだけまだ遊びたくても日が暮れてしまったら帰らなければならないし、

(そのおきてにそむけばおやからのげんこつがまっている。)

その掟に背けば親からのゲンコツが待っている。

(そうかんがえるとともだちをつれていれないでめりっとはあれど、)

そう考えると友達を連れて入れないデメリットはあれど、

(あいちゃんくらいきものすわったこどもにとって”ふしぎくうかん”はらくえんかもしれない)

愛ちゃんくらい肝の据わった子供にとって”不思議空間”は楽園かもしれない

(みんなそうおもったが、それはほかならぬあいちゃんがやんわりひていした。)

みんなそう思ったが、それは他ならぬ愛ちゃんがやんわり否定した。

(「あはは。でも、そんなにずっとはいってたことはないんですよね」)

「あはは。でも、そんなにずっと入ってた事はないんですよね」

(あいちゃんはにがわらいしながら、つづける。)

愛ちゃんは苦笑いしながら、続ける。

(むかしのことをおもいかえしているような、そんなちょっととおいめをしながら。)

昔の事を思い返しているような、そんなちょっと遠い目をしながら。

(「さいしょはやっぱりすごいたのしいんですよ。)

「最初はやっぱり凄い楽しいんですよ。

(おおごえだしてもいかられないし、じかんきにしなくていいし。)

大声出しても怒られないし、時間気にしなくていいし。

(でもあんまりながくいると、だんだんきもちわるくなってくるんですよね」)

でもあんまり長くいると、段々気持ち悪くなってくるんですよね」

(ちょっとこわいけどゆめのある、ふしぎなはなし。)

ちょっと怖いけど夢のある、不思議な話。

(そううけとってすこしわきあいあいとしたくうきになっていたそのばがしんとしずまった。)

そう受け取って少し和気藹々とした空気になっていたその場がしんと静まった。

(「あ、もうかえらないとだめだなっておもうんですよ、そのかんかくで。)

「あ、もう帰らないとダメだなって思うんですよ、その感覚で。

(あれいまおもうと、ほんのうがけいこくしてくれてたのかなぁ」)

あれ今思うと、本能が警告してくれてたのかなぁ」

(「・・・けいこく?」「かえれなくなるぞ、って」)

「・・・警告?」「帰れなくなるぞ、って」

(・・・あ、これふつうにこわいはなしだ。)

・・・あ、これ普通に怖い話だ。

(おくればせながらさーくるのめんばーたちは、これがちゃんと)

遅ればせながらサークルのメンバー達は、これがちゃんと

(かいだんかいというばにそぐうはなしなのだとりかいした。)

怪談会という場にそぐう話なのだと理解した。

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