先生 後編 -8-

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師匠シリーズ
以前cicciさんが更新してくださっていましたが、更新が止まってしまってしまったので、続きを代わりにアップさせていただきます。
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問題文

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(どれくらいねむっただろうか。だれかがへやにはいってくるけはいがして、)

どれくらい眠っただろうか。誰かが部屋に入ってくる気配がして、

(ぼくはめをさます。ふすまをしめてふとんをそばにやってきたのはじいちゃんだった。)

僕は目を覚ます。襖を閉めて布団をそばにやってきたのはじいちゃんだった。

(「ちんじゅのもりのむこうにいったのか」とじいちゃんはきいてきた。)

「鎮守の森の向こうに行ったのか」とじいちゃんは聞いてきた。

(しげちゃんからきいたようだ。そうだ、とぼくがくちをとがらすと、)

シゲちゃんから聞いたようだ。そうだ、と僕が口を尖らすと、

(いつになくむずかしいかおをしてうでぐみのままこざをかいた。)

いつになく難しい顔をして腕組みのまま胡座を掻いた。

(そしてぼくのみみはしんじられないことをきいた。)

そして僕の耳は信じられないことを聞いた。

(あのしゅうらくは、じいちゃんがこどものころにおそろしいびょうきがはやって)

あの集落は、じいちゃんが子どものころに恐ろしい病気が流行って

(みんなばたばたとしんでしまい、のこったひとびともしゅうらくをすててちりぢりになり、)

みんなバタバタと死んでしまい、残った人々も集落を捨てて散り散りになり、

(いまではだれもいないしゅうらくのあとだけがうちすてられているのだという。)

今では誰もいない集落の跡だけが打ち捨てられているのだという。

(そんなわけはない。だってぼくはげんにそのしゅうらくにいったのだし。)

そんなわけはない。だって僕は現にその集落に行ったのだし。

(げんにせんせいにあったのだし。げんに・・・・・)

現に先生に会ったのだし。現に・・・・・

(はっとする。)

ハッとする。

(ぼくはそのとき、あのもりのむこうのくうかんにはのどかなさんかんのしゅうらくが)

僕はその時、あの森の向こうの空間にはのどかな山間の集落が

(たしかにそんざいしたけれど、せんせいいがいのにんげんにであっていないことに)

確かに存在したけれど、先生以外の人間に出会っていないことに

(いまさらのようにきづいた。)

今更のように気づいた。

(こうしゃのとなりのいえにいるというせんせいのおかあさんも、ぼくのほかによんにんいるという)

校舎の隣の家にいるという先生のお母さんも、僕のほかに四人いるという

(なつやすみがっこうのせいとも、けっきょくだれひとりとしてみていない。)

夏休み学校の生徒も、結局誰一人として見ていない。

(でもほんとうにそんなすてられたしゅうらくだというのなら、)

でも本当にそんな捨てられた集落だというのなら、

(どうしてせんせいはあんなところにひとりでいたのだろう。)

どうして先生はあんなところに一人でいたのだろう。

(そして、どうしてうそをついていたのだろう。)

そして、どうして嘘をついていたのだろう。

など

(わからない。かんがえていると、またねつがぶりかえしてきそうだ。)

分からない。考えていると、また熱がぶりかえしてきそうだ。

(「そのびょうきって、なに」)

「その病気って、なに」

(ようやくそれだけをいったぼくに、じいちゃんはむすっとしたままこたえた。)

ようやくそれだけを言った僕に、じいちゃんはムスッとしたまま答えた。

(「けっかくじゃ」)

「結核じゃ」

(けっかく。てれびでみたことがある。)

結核。テレビで見たことがある。

(むかしのどらまで、りょうようじょにはいっているじょせいがせきをしていたのがおもいうかぶ。)

昔のドラマで、療養所に入っている女性が咳をしていたのが思い浮かぶ。

(「はいけっかくでな。みることのできるいしゃがおらんかった」)

「肺結核でな。診ることのできる医者がおらんかった」

(かぜがはやっているのよ。)

風邪が流行っているのよ。

(かぜがはやって。)

風邪が流行って。

(せきだ。せき。せんせいもせきをしていた。どういうことなんだ。)

咳だ。咳。先生も咳をしていた。どういうことなんだ。

(わけがわからず、ぼくはそのことばをなんどもあたまのなかでくりかえす。)

わけが分からず、僕はその言葉を何度も頭の中で繰り返す。

(じいちゃんはそんなぼくからしせんをそらしてたちあがり、)

じいちゃんはそんな僕から視線を逸らして立ち上がり、

(へやからでてゆこうとふすまにてをかけてから、おもいだしたようにいった。)

部屋から出て行こうと襖に手をかけてから、思い出したように言った。

(「わしらがかおにゅうどうさんのおこったかおをみたのもそのころじゃ」)

「わしらが顔入道さんの怒った顔を見たのもそのころじゃ」

(もういくでない。)

もう行くでない。

(ぴしり。ふすまがしまる。)

ピシリ。襖が閉まる。

(わけがわからない。いや、ぼくのあたまのどこかすみのほうではわかっている。)

わけが分からない。いや、僕の頭のどこか隅の方では分かっている。

(ただ、わかりたくないのだった。ぼくじしんが。)

ただ、分かりたくないのだった。僕自身が。

(あたまをかかえていると、すこししてまたふすまがひらかれ、)

頭を抱えていると、少ししてまた襖が開かれ、

(こんどはおかゆをおぼんにのせてばあちゃんがはいってきた。)

今度はおかゆをお盆に乗せてばあちゃんが入ってきた。

(ぼくはばあちゃんにすがるようにうったえる。)

僕はばあちゃんにすがるように訴える。

(「でも、せんせいはしってた。おおきないぶきのにわのあるいえっていっただけで、)

「でも、先生は知ってた。大きなイブキの庭のある家って言っただけで、

(しげちゃんって」)

シゲちゃんって」

(ばあちゃんは、はいはい、とこどもをあやすようにぼくのてを)

ばあちゃんは、はいはい、と子どもをあやすように僕の手を

(かいくぐっておぼんをまくらもとにおき、なんでもしっているというかおで)

掻い潜ってお盆を枕元に置き、なんでも知っているという顔で

(むにゃむにゃとつぶやいた。)

むにゃむにゃと呟いた。

(じいちゃんはこどものじぶん、おとにきこえたたいへんないたずらこぞうで、)

じいちゃんは子どもの時分、音に聞こえた大変なイタズラ小僧で、

(きんりんのしゅうらくのものならばだれでもしっていたというほどあくめいを)

近隣の集落のものならば誰でも知っていたというほど悪名を

(とどろかせていたのだという。なまえはしげはる。)

轟かせていたのだという。名前は茂春。

(まごのしげちゃんはそのひともじをもらったのだそうだ。)

孫のシゲちゃんはその一文字をもらったのだそうだ。

(じいちゃんがこどものころからこのいえのにわのいぶきのきは、)

じいちゃんが子どものころからこの家の庭のイブキの木は、

(おおきなえだをいえのやねまでのばしていたのだという。)

大きな枝を家の屋根まで伸ばしていたのだと言う。

(「やっぱりつかれちょったな。あやうい。あやうい。)

「やっぱり憑かれちょったな。あやうい。あやうい。

(とりころされんでよかった。なむあみだぶつ。なむあみだぶつ」)

取り殺されんで良かった。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏」

(ぶつぶつというと、「えっへ」とこしをあげ)

ぶつぶつと言うと、「エッヘ」と腰を上げ

(じいちゃんとおなじようにへやからでてきった。)

じいちゃんと同じように部屋から出てきった。

(とりつかれていた?ぼくが?)

とりつかれていた?僕が?

(いろいろなことがあたまをかけまわりすぎて、がたがたとからだがふるえた。)

色々なことが頭を駆け回りすぎて、ガタガタと身体が震えた。

(そしてしらないあいだになみだがながれていた。)

そして知らないあいだに涙が流れていた。

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