『妖怪博士』江戸川乱歩1

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少年探偵団シリーズ第3作品『妖怪博士』
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

○少年探偵団シリーズ第3作品『妖怪博士』
次回→https://typing.twi1.me/game/369849

第2作品→https://typing.twi1.me/game/329807
第1作品→https://typing.twi1.me/game/314206
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 berry 7951 8.0 98.5% 585.2 4723 70 100 2024/09/25
2 ももも 6954 S++ 7.4 94.1% 644.5 4777 295 100 2024/10/15
3 BE 4335 C+ 4.6 94.1% 1041.5 4815 300 100 2024/10/15

関連タイピング

問題文

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(「きかいなろうじん」)

「奇怪な老人」

(そらいちめん、しろいくもにおおわれた、どんよりとむしあつい、)

空一面、白い雲に覆われた、どんよりと蒸し暑い、

(はるのにちようびのゆうがたのことでした。じゅうに、さんさいの)

春の日曜日の夕方のことでした。十二、三歳の

(かわいらしいしょうがくせいが、あざぶのろっぽんぎにちかい、かんせいな)

可愛らしい小学生が、麻布の六本木に近い、閑静な

(やしきがつづいているまちをひとりでくちぶえをふきながらあるいて)

屋敷が続いている町を一人で口笛を吹きながら歩いて

(いました。このしょうねんはあいかわたいじくんといって、しょうがくろくねんせい)

いました。この少年は相川泰二君といって、小学六年生

(なのですが、きょうはちかくのおともだちのところへあそびに)

なのですが、今日は近くのお友だちの所へ遊びに

(いって、おなじあざぶにあるおうちへかえるとちゅうなのです。)

行って、同じ麻布にあるおうちへ帰る途中なのです。

(みちのりょうがわはおおきなやしきのへいがつづいていたり、じんじゃのはやしが)

道の両側は大きな屋敷の塀が続いていたり、神社の林が

(あったりして、いつもひとどおりのすくないばしょですが、)

あったりして、いつも人通りの少ない場所ですが、

(それがきょうはどうしたことか、いっそうさびしくて、)

それが今日はどうしたことか、一層寂しくて、

(ながいまちのむこうのはしまで、あすふぁるとのどうろが)

長い町の向こうの端まで、アスファルトの道路が

(しろくつづいているばかりで、ひとのかげもみえないのです。)

白く続いているばかりで、人の影も見えないのです。

(そらはくもっていますし、それにもうひぐれにちかいので、)

空は曇っていますし、それにもう日暮れに近いので、

(たいじくんは、なんだかみょうにこころぼそくなってきました。)

泰二君は、なんだかみょうに心細くなってきました。

(くちぶえをふきつづけているのも、そのこころぼそさをまぎらす)

口笛を吹き続けているのも、その心細さをまぎらす

(ためかもしれません。ところが、あしばやにあるいていた)

ためかもしれません。 ところが、足早に歩いていた

(たいじくんは、とあるまちかどをまがったかとおもうと、はっと)

泰二君は、とある町角を曲がったかと思うと、ハッと

(したようにくちぶえをやめてたちどまってしまいました。)

したように口笛をやめて立ち止まってしまいました。

(みょうなものをみたようです。にじゅうめーとるほど)

みょうなものを見たようです。二十メートルほど

など

(むこうのみちのまんなかに、ひとりのぶきみなろうじんがうずく)

向こうの道の真ん中に、一人の不気味な老人がうずく

(まって、みょうなことをしているのです。ろうじんは、)

まって、みょうなことをしているのです。 老人は、

(えいがにでてくるせいようのこじきみたいなふうぼうでした。)

映画に出て来る西洋の乞食みたいな風貌でした。

(ながいあいだとこやにいったこともないような、)

長いあいだ床屋に行ったこともないような、

(もじゃもじゃのしらがあたま、かおじゅうをうめるかのような)

モジャモジャのしらが頭、顔中を埋めるかのような

(しろいほおひげとあごひげ、からだにはごみばこのなかからでも)

白い頬ヒゲとあごヒゲ、体にはゴミ箱の中からでも

(ひろいだしたようなぼろぼろのふるぎをきて、くつしたもない)

拾いだしたようなボロボロの古着を着て、靴下もない

(あしにやぶれたくつをはいています。そのこじきのような)

足に破れた靴をはいています。 その乞食のような

(ろうじんが、どうろのまんなかにうずくまって、ちょーくで)

老人が、道路の真ん中にうずくまって、チョークで

(じめんになにかかいているのです。たいじくんは、)

地面に何か書いているのです。 泰二君は、

(「おかしいな」とおもったものですから、まちかどにみを)

「おかしいな」と思ったものですから、町角に身を

(かくすようにしてそっとみていると、ろうじんはじめんに)

隠すようにしてソッと見ていると、老人は地面に

(なにかかきおわるとたちあがって、ふしんそうに)

何か書き終わると立ち上がって、不審そうに

(きょろきょろとあたりをみまわし、そのままむこうへ)

キョロキョロとあたりを見まわし、そのまま向こうへ

(あるいていきます。たいじくんはろうじんがたちさるのを)

歩いて行きます。 泰二君は老人が立ち去るのを

(まって、そのばしょへいき、なにをかいたのかと、じめんの)

待って、その場所へ行き、何を書いたのかと、地面の

(あすふぁるとのうえをながめましたが、そこにはちょっけい)

アスファルトの上をながめましたが、そこには直径

(はっせんちほどのまるのなかにじゅうじがかいてあって、)

八センチほどの丸の中に十字が書いてあって、

(そのじゅうじのいっぽんのぼうのはしにやじるしがついているのです。)

その十字の一本の棒の端に矢印がついているのです。

(としよりのくせに、こんなみょうないたずらがきをする)

年寄りのくせに、こんなみょうなイタズラ書きをする

(なんて、あのおじいさんはきちがいなのかと、)

なんて、あのおじいさんはキチガイなのかと、

(むこうへとおざかっていくうしろすがたをみていると、)

向こうへ遠ざかって行く後ろ姿を見ていると、

(どうしたことでしょう。むこうのまがりかどで、ろうじんが)

どうしたことでしょう。向こうの曲がり角で、老人が

(またうずくまっているではありませんか。そして)

またうずくまっているではありませんか。そして

(まえとおなじように、じめんへなにかをかいているのです。)

前と同じように、地面へ何かを書いているのです。

(あいてがそこをたちさるのをまっていってみると、)

相手がそこを立ち去るのを待って行ってみると、

(やっぱりおなじまるのなかにじゅうじです。そしていっぽんのぼうの)

やっぱり同じ丸の中に十字です。そして一本の棒の

(はしに、ほうがくをしめすようなやじるしがついています。)

端に、方角を示すような矢印がついています。

(「へんだぞ。ひょっとしたら、あのじいさん、なにか)

「変だぞ。ひょっとしたら、あのじいさん、何か

(わるだくみをしているんじゃないか。なかまになにかあいずを)

悪だくみをしているんじゃないか。仲間に何か合図を

(するために、こんなあんごうみたいなものをかきあるいて)

するために、こんな暗号みたいな物を書き歩いて

(いるのかもしれない」たいじしょうねんは、ふとそんな)

いるのかもしれない」泰二少年は、ふとそんな

(ふうにうたがってみないではいられませんでした。)

ふうに疑ってみないではいられませんでした。

(「よし、あのじいさんのあとをつけてみよう」)

「よし、あのじいさんのあとをつけてみよう」

(そうこころでつぶやいて、しょうねんはあいてにさとられないように)

そう心でつぶやいて、少年は相手に悟られないように

(ちゅういしながら、そっとびこうをはじめました。)

注意しながら、ソッと尾行を始めました。

(どくしゃしょくんは、しょうがくせいのたいじくんがこんなたんていみたいな)

読者諸君は、小学生の泰二君がこんな探偵みたいな

(まねをするのはへんだとおかんがえでしょうね。しかし、)

真似をするのは変だとお考えでしょうね。しかし、

(これにはわけがあるのです。「かいじんにじゅうめんそう」や)

これには訳があるのです。「怪人二十面相」や

(「しょうねんたんていだん」をおよみになったしょくんには、よく)

「少年探偵団」をお読みになった諸君には、よく

(ごぞんじでしょうが、めいたんていあけちこごろうのしょうねんじょしゅの)

ご存知でしょうが、名探偵明智小五郎の少年助手の

(こばやしよしおくんがだんちょうとなって、しょうがくせいじゅうにんほどでそしき)

小林芳雄君が団長となって、小学生十人ほどで組織

(している、「しょうねんたんていだん」というだんたいがあるのです。)

している、「少年探偵団」という団体があるのです。

(そしてあいかわたいじくんも、じつはそのしょうねんたんていだんいんのひとり)

そして相川泰二君も、実はその少年探偵団員の一人

(なのです。そういうわけですから、なにかはんざいにかんけいの)

なのです。 そういう訳ですから、何か犯罪に関係の

(ありそうなものにであうと、ついそのひみつを)

ありそうなものに出会うと、ついその秘密を

(さぐってみたくなるのもむりのないことだったのです。)

探ってみたくなるのも無理のないことだったのです。

(さて、みえたりかくれたりしながらびこうをつづけていると、)

さて、見えたり隠れたりしながら尾行を続けていると、

(あやしいろうじんはそうともしらず、ますますかんせいな)

怪しい老人はそうとも知らず、ますます閑静な

(やしきがつづいているまちへとてくてくあるいていきましたが、)

屋敷が続いている町へとテクテク歩いて行きましたが、

(みょうなことにまちかどへくるたび、かならずじめんにしゃがむ)

みょうなことに町角へ来る度、必ず地面にしゃがむ

(のです。そしてぜんごをみまわしながら、ちょーくでまるに)

のです。そして前後を見まわしながら、チョークで丸に

(じゅうじのきごうみたいなものをかくのです。「やっぱり、)

十字の記号みたいな物を書くのです。「やっぱり、

(あいつあやしいやつだ。まちのまがりかどにくるたびに、あの)

あいつ怪しい奴だ。町の曲がり角に来る度に、あの

(きごうをかくのをみると、きっとなかまのわるものに、)

記号を書くのをみると、きっと仲間の悪者に、

(どこかへのみちじゅんをしらせるためにちがいない」たいじくんは)

どこかへの道順を知らせるために違いない」泰二君は

(こころのなかでつぶやきながら、いよいよねっしんにびこうをつづけ)

心の中でつぶやきながら、いよいよ熱心に尾行を続け

(ました。ろうじんとたいじくんは、それからいつつのまちかどを)

ました。 老人と泰二君は、それから五つの町角を

(まがりました。つまり、まるにじゅうじのきごうがいつつ)

曲がりました。つまり、丸に十字の記号が五つ

(かかれたのです。ところがむっつめのきごうはまちかどでは)

書かれたのです。ところが六つ目の記号は町角では

(なく、いっけんのようかんのもんのまえのじめんにしるされました。)

なく、一軒の洋館の門の前の地面にしるされました。

(たいじくんは、そのまちはいままでとおったことがなく、その)

泰二君は、その町は今まで通ったことがなく、その

(ようかんもはじめてみたのですが、これがいまのとうきょうにある)

洋館も初めて見たのですが、これが今の東京にある

(たてものとはおもえないくらいとてもふるめかしく、なんだか)

建物とは思えないくらいとても古めかしく、なんだか

(いっせいきもむかしのせいようのものがたりにでてくるようなようかん)

一世紀も昔の西洋の物語に出て来るような洋館

(でした。ずっとあかいれんがべいがつづき、そのちゅうかん)

でした。 ずっと赤いレンガ塀が続き、その中間

(くらいのところにこけのはえたいしのもんに、からくさもように)

くらいの所にコケの生えた石の門に、唐草模様に

(なったてつのとびらがしまっています。そのなかにある)

なった鉄の扉が閉まっています。その中にある

(たてものは、おなじあかれんがのにかいだてで、さんかっけいに)

建物は、同じ赤レンガの二階建てで、三角形に

(とんがったやねには、むかしふうなしかくいだんろのえんとつが)

とんがった屋根には、昔風な四角い暖炉の煙突が

(にゅーっとつきだしています。まどはちいさくてかずも)

ニューッと突き出しています。窓は小さくて数も

(すくなく、いえのなかはさぞうすぐらいだろうとおもわれる)

少なく、家の中はさぞ薄暗いだろうと思われる

(ような、いんきくさくてうすきみわるいけんちくです。その)

ような、陰気臭くて薄気味悪い建築です。 その

(れんがべいのかどにみをかくして、じっとようすをうかがって)

レンガ塀の角に身を隠して、ジッと様子をうかがって

(いると、あやしいろうじんは、そのいしのもんのまえのじめんに)

いると、怪しい老人は、その石の門の前の地面に

(うずくまって、ねっしんにれいのきごうをかいていましたが、)

うずくまって、熱心に例の記号を書いていましたが、

(それをかきおわってたちあがると、またあたりを)

それを書き終わって立ち上がると、またあたりを

(じろじろみまわしてから、からくさもようのてつのとびらに)

ジロジロ見まわしてから、唐草模様の鉄の扉に

(ちかづき、それをほそめにひらいて、ようかんのもんのなかへ、)

近づき、それを細めにひらいて、洋館の門の中へ、

(しのびこむようにきえていきました。)

忍び込むように消えていきました。

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