先生 後編 -11-

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問題文
(かつてかだんがあったのだろうか。くろいつちがもられているいっかくだった。)
かつて花壇があったのだろうか。黒い土が盛られている一角だった。
(そのつちのうえにきのいたがいっぽんつきたっている。)
その土の上に木の板が一本突き立っている。
(それがまるでぼひょうにようにみえてむねがどきんとした。)
それがまるで墓標にように見えて胸がドキンとした。
(いたにはなにかかいてあったが、あめでながれたのかもうよめなかった。)
板にはなにか書いてあったが、雨で流れたのかもう読めなかった。
(ぼくはきぎれをひろってきて、つちをほりはじめた。)
僕は木切れを拾ってきて、土を掘り始めた。
(まうえにのぼったたいようがぼくのかげをじめんにやきつける。ぽたぽたとあせがおちて、)
真上に登った太陽が僕の影を地面に焼き付ける。ポタポタと汗が落ちて、
(それがしゅんしゅんとつちにすわれる。ほりかえされたつちがしゅういにさかられていくなか、)
それがシュンシュンと土に吸われる。掘り返された土が周囲に盛られていく中、
(きぎれのさきになにかがあたるかんしょくがあった。)
木切れの先になにかが当たる感触があった。
(ひざをつき、りょうてをつちをほる。ゆびのさきにふれたものは、)
膝をつき、両手を土を掘る。指の先に触れたものは、
(あたまをよぎったようなしろいほねではなかった。)
頭をよぎったような白い骨ではなかった。
(ぼろぼろになったぬのぶくろがつちをかぶってあらわれてきたのだ。)
ボロボロになった布袋が土を被って現れてきたのだ。
(くちのあたりをつまみあげ、つちをはらおうとしたとたんにぼそぼそと)
口のあたりをつまみ上げ、土を払おうとした途端にボソボソと
(ぬのぶくろのそこがぬけてくろくよごれたなかみがじめんにおちた。)
布袋の底が抜けて黒く汚れた中身が地面に落ちた。
(それはおりがみだった。おりがみのつるだ。ぐしゃぐしゃになり、ぺったんこになり、)
それは折り紙だった。折り紙の鶴だ。ぐしゃぐしゃになり、ぺったんこになり、
(つちにまみれていろあせたつるだった。)
土にまみれて色褪せた鶴だった。
(そのときこみあげてきたものにたえられなかった。)
その時込み上げてきたものに耐えられなかった。
(だれもいないはいきょのようなこうていにたっていた。)
誰もいない廃墟のような校庭に立っていた。
(まぼろしもみえなかった。なにひとつみえなかった。どうしてもうみえないんだろう。)
幻も見えなかった。なに一つ見えなかった。どうしてもう見えないんだろう。
(けれどぼくはそうぞうする。)
けれど僕は想像する。
(そこにいるつもりでそうぞうする。ぼくのそばにせんせいがたっている。)
そこにいるつもりで想像する。僕のそばに先生が立っている。
(とうめいになってたっている。ぼくのかたにてをおいている。)
透明になって立っている。僕の肩に手を置いている。
(こまったような、はにかんだような、やさしいかおで。)
困ったような、はにかんだような、優しい顔で。
(かぜがかおにふきつけて、それはきえる。きれいに、あとかたもなく。)
風が顔に吹き付けて、それは消える。綺麗に、跡形もなく。
(なみだをながしきって、ぼくはぼやけるしかいでてもとをみる。)
涙を流しきって、僕はぼやける視界で手元を見る。
(せんばはいないけれど、ちぎれかけたいとにぶらさがって)
千羽はいないけれど、千切れかけた糸にぶら下がって
(たくさんのつるがゆれていた。)
たくさんの鶴が揺れていた。
(そのなかに、ぼくはふしぎなものをみつけた。)
その中に、僕は不思議なものを見つけた。
(それはぶかっこうにゆがんでいるつるで、どうたいはかたむき、)
それは不恰好に歪んでいる鶴で、胴体は傾き、
(かおなんかよこをむいてしまっている。)
顔なんか横を向いてしまっている。
(けれどひとつだけ、たったひとつだけかっこいいぶぶんがあるのだ。)
けれど一つだけ、たった一つだけ格好いい部分があるのだ。
(ぼくはてをたかくあげ、そのつるの、せんとうきのようにはしがくいっとたっているはねを)
僕は手を高く上げ、その鶴の、戦闘機のように端がくいっと立っている羽を
(そらにかざして、きっさきがかぜをきるおとをきいた。)
空に翳して、切っ先が風を切る音を聞いた。
(なつのおわるにおいをかいだきがした。)
夏の終わる匂いをかいだ気がした。
(そっと、じてんをとじる。)
そっと、辞典を閉じる。
(ちいさなころのきおくがゆめのようにあふれて、そしてきえていった。)
小さなころの記憶が夢のようにあふれて、そして消えていった。
(じてんをほんだなにもどし、だいがくのとしょかんにいたことを、ようやくおもいだす。)
辞典を本棚に戻し、大学の図書館にいたことを、ようやく思い出す。
(やわらかいゆかがいろんなおとをすいとって、あたりはやけにしずかだ。)
柔らかい床が色んな音を吸い取って、あたりはやけに静かだ。
(すこしのあいだめをとじて、ゆっくりとだいがくせいのじぶんをとりもどす。)
少しのあいだ目を閉じて、ゆっくりと大学生の自分を取り戻す。
(ふと、しげちゃんはどうしているだろうかとおもった。ずいぶんあっていない。)
ふと、シゲちゃんはどうしているだろうかと思った。随分会っていない。
(あいかわらずおやぶんをしているだろうか。)
相変わらず親分をしているだろうか。
(どうくつのかおにゅうどうも、わらったままだろうか。そのおくのだれもいれない)
洞窟の顔入道も、わらったままだろうか。その奥の誰も入れない
(みっしつのなかにいるというおぼうさんのそくしんぶつは、)
密室の中にいるというお坊さんの即身仏は、
(いまもやまにさまようししゃのれいをとむらっているのだろうか。)
今も山に彷徨う死者の霊を弔っているのだろうか。
(あのころのことをおもいかえすと、ふしぎなことがまだいくつかある。)
あのころのことを思い返すと、不思議なことがまだいくつかある。
(せんせいのねんだいであれば、こうこうからだいがくへというがくれきがおかしいのだ。)
先生の年代であれば、高校から大学へという学歴がおかしいのだ。
(おそらくこうとうじょがっこうからこうとうじょししはんがっこうか、じょしだいとはなばかりの)
おそらく高等女学校から皇統女子師範学校か、女子大とは名ばかりの
(しりつがっこうへあがったのではないかとおもうのだが、そのころのぼくの)
私立学校へ上がったのではないかと思うのだが、そのころの僕の
(おもっていたこうこう、だいがくということばでつうじていたというのがよくわからない。)
思っていた高校、大学という言葉で通じていたというのがよく分からない。
(ほかにもじだいてきなそじがちがうため、きっとかみあわないぶぶんが)
ほかにも時代的な素地が違うため、きっと噛み合わない部分が
(あったはずなのだ。けれどそんなおぼえはない。かいわはすむーずだったとおもう。)
あったはずなのだ。けれどそんな覚えはない。会話はスムーズだったと思う。
(もしかすると、かわしたとおもっていたかいわさえほんとうは)
もしかすると、交わしたと思っていた会話さえ本当は
(そんざいしなかったものなのかもしれない。)
存在しなかったものなのかも知れない。
(ただつかのま、うつろなせかいのはざかいでたましいがふれあい、かさなりあい、)
ただつかのま、うつろな世界のはざかいで魂が触れあい、重なり合い、
(そしてひびきあっただけなのかもしれない。)
そして響きあっただけなのかも知れない。
(そのしょうがっこうさいごのなつやすみがおわり、しんがっきがはじまったとき、)
その小学校最後の夏休みが終わり、新学期が始まった時、
(ぼくはさんすうのせいせきがぐっとあがっていてたんにんのせんせいをおどろかせた。)
僕は算数の成績がぐっと上がっていて担任の先生を驚かせた。
(もっとあとでせかいしをならったときには、もうわすれてしまっていたけど。)
もっと後で世界史を習った時には、もう忘れてしまっていたけど。
(ふ、とわらいがもれる。)
ふ、と笑いが漏れる。
(ほんだなにもどしたじてんのせびょうしをみつめる。)
本棚に戻した事典の背表紙を見つめる。