遺書

(ぼくはいしょをかいている)

僕は遺書を書いている

(はしるぺんとかみのおと)

走るペンと紙の音

(じさつぜんやにしてはおだやかで)

自殺前夜にしては穏やかで

(ばかだなってわらうだろうか)

馬鹿だなって笑うだろうか

(ぼくはいしょをかいている)

僕は遺書を書いている

(かくことになやんでいる)

書くことに悩んでいる

(さよならってつげるほどせかいは)

さよならって告げるほど世界は

(どれほどうつくしいだろうか)

どれほど美しいだろうか

(ぼくはいしょをかいている)

僕は遺書を書いている

(ここでふとぺんがとまる)

ここでふとペンが止まる

(できるだけいたくないほうほうで)

できるだけ痛くない方法で

(ねむるようにしにたい)

眠るように死にたい

(ひさしくあってないともも)

久しくあってない友も

(わすれたいもとこいびとも)

忘れたい元恋人も

(ぜんぶぜんぶひっくるめて)

全部全部ひっくるめて

(ここへおいていこう)

ここへおいていこう

(とにかくぼくはしにたいんだ)

とにかく僕は死にたいんだ

(へんにじゃまをしないでくれ)

変に邪魔をしないでくれ

(だまってひとりでしなせてくれよ)

黙って一人で死なせてくれよ

(うるせぇんだよてめぇら)

うるせぇんだよてめぇら

(はいけい)

拝啓

(さよならしたいくそったれな)

さよならしたいくそったれな

(このせかいへ)

この世界へ

(ぼくがいなくなったせかいは)

僕がいなくなった世界は

(どうせなにもかわらんだろうな)

どうせ何も変わらんだろうな

(ばいばい)

バイバイ

(あいしかたもわからない)

愛し方もわからない

(ぼくのちっぽけなめーでー)

僕のちっぽけなメーデー

(ぼくがいなくなったせかいは)

僕がいなくなった世界は

(どうかすこしかわってほしいな)

どうか少し変わってほしいな

(てきとうにいきれるやつらが)

適当に生きれる奴らが

(しんそこうらやましい)

心底うらやましい

(ぼくもてきとうになってばかになって)

僕も適当になって馬鹿になって

(なにもかんじなくなりたい)

何も感じなくなりたい

(そしたらこうやってしぬこともきっと)

そしたらこうやって死ぬこともきっと

(やめられるだろうか)

やめられるだろうか

(あそっかぼくはぼくでしかないや)

あ　そっか僕は僕でしかないや

(もういやだたくさんだ)

もう嫌だ　たくさんだ

(はいけい)

拝啓

(ゆめをもってたあのぼくへ)

夢を持ってたあの僕へ

(こんなふうになってごめんな)

こんなふうになってごめんな

(じゃあね)

じゃあね

(ぼくのしたいをだきしめて)

僕の死体を抱きしめて

(どうかあいしてほしい)

どうか愛してほしい

(いきたくないんだ)

いきたくないんだ

(いきていたいんだ)

生きていたいんだ

(でももうむりだ)

でももう無理だ

(せかいがほんとうにこわいんだ)

世界が本当に怖いんだ

(ぼくはいしょをかいてる)

僕は遺書を書いてる

(ねえあいされたいなあいしたいな)

ねえ愛されたいな愛したいな

(このせかいを)

この世界を

(ぼくはしねない)

僕は死ねない

(だってしぬにはしんぞうがうるさかった)

だって死ぬには心臓が五月蝿かった

(はいけい)

拝啓

(ぺんもかみもなげすてて)

ペンも紙も投げ捨てて

(このせかいで)

この世界で

(いきるかちすらないじぶんに)

生きる価値すらない自分に

(しぬほどかちなどあるわけないな)

死ぬほど価値などあるわけないな

(そうだ)

そうだ

(うるさいくらいのはくどうと)

うるさいくらいの拍動と

(もうきこえないめーでー)

もう聞えないメーデー

(あんがいぼくはこわがりだ)

案外僕は怖がりだ

(だからずっとないていた)

だからずっと泣いていた

(ぼくはいしょをかいていた)

僕は遺書を書いていた