死と嘆きと風の都

(いそいであなたたちあねもんのしんかんさまがおまちよ)

「急いで、貴方達？風神殿の神官様がお待ちよ」

(んもぅしんいりぐずぐずしてるとあたいのてっけんがひをふくよ)

「んもぅ 新入り…グズグズしてるとアタイの鉄拳が火を噴くよ？」

(んふふ)

「んふふ…」

(ごごめんなさい)

「ご…ごめんなさい…」

(あまぞんのようなわんりょくはないけれど)

女蛮族のような腕力はないけれど

(げいのないただのぽるねとはちがうわ)

芸のない唯の売女とは違うわ

(ああどらくまとまごころをひきかえにうるわしのゆめをうる)

嗚呼... 花代と真心を引き換えに美しの夢を売る...

(そふぃあのようなきょうようはないけれど)

敬愛する詩人のような教養はないけれど

(がくのないただのでみえとはちがうわ)

学のない唯の街娼とは違うわ

(ああもともとかなしきかなしきどれいのみとはいえ)

嗚呼... 元々哀しき 哀しき 奴隷の身とはいえ

(いまはさきほこるばらへたいら)

今は咲き誇る薔薇【高級遊女】

(はなひらきかぜかおるはるをひさぐいがい)

花開き風薫る春を鬻ぐ以外

(みよりなきむすめにはなにもないけれど)

身寄りなき娘には何もないけれど

(あわれみならばいらないわばかにしないで)

憐れみならば要らないわ... 馬鹿にしないで...

(あなたのそれはあいじゃない)

アナタの其れは愛じゃない！

(っとついたわねぇ)

「っと、着いたわねぇ」

(わーぉ)

「わーぉ！」

(ここがいりおん)

「ここが、風の都…？」

(いしをはこぶものかわいたねにうたれ)

壁石を運ぶ者　乾いた音に打たれ

(いしをさけぶものちにふしてむなしく)

医師を叫ぶ者　地に臥して虚しく

(いしをつげるものどれいのかえあまた)

遺志を継げる者　奴隷の替え数多

(いしをとげるものめいふへのとうひこう)

縊死を遂げる者　冥府への逃避行

(あいといつくしみだけにだかれそだったしょうねんは)

愛と慈しみだけに抱かれ育った少年は

(いかりとにくしみだけをだいていまをたえしのぶ)

怒りと憎しみだけを抱いて今を耐え忍ぶ

(いっそしんだららくだなんてきっといまよりましだなんて)

いっそ死んだらラクだなんてきっと今よりマシだなんて

(よったうわごとくりかえしてさったきぼうにおいすがった)

酔った譫言繰り返して去った希望に追い縋った

(そんなまけいぬのようにみらにかいならされはしない)

そんな負け犬のように運命に飼い馴らされはしない

(たとえどれいがいぬであれむくべききばはわすれない)

たとえ奴隷が犬であれ剥くべき牙は忘れない

(おおかみははしるまえにまんげつにほえる)

オオカミは奔る前に満月に吠える

(どこがいいんだいいってごらん)

「どこがイイんだい…？言ってごらん？」

(あぁっ)

「あぁっ!」

(ここかここなのか)

「…ここか、ここなのか？」

(ああっ)

「ああ…っ!」

(ここか)

「ここか？」

(うあぁ)

「うあぁ!」

(ここなのかほぁっはっはっ)

「ここなのか？ほぁっはっはっ…!」

(いやだっ)

「嫌だっ…!」

(ほぉらぁほぉらぁぁ)

「ほぉらぁ、ほぉらぁぁ…!」

(くそっいてぇあのへんたいしんかんいつかころしてやる)

「くそっ…いてぇ…あの変態神官…いつか殺してやる……！」

(よぉぶさいくちゃんひでぇつらだなぁ)

「よぉ、ブサイクちゃん♡ひでぇツラだなぁ」

(ふんひとのこといえたつらかよ)

「フン 人のこと言えたツラかよ…」

(ふっふふっちげぇねぇ)

「…フッフフッ　ちげぇねぇ！」

(あははははは)

「アハ…ハハハハ！」

(ひとはだれもがしすべきさだめをせおい)

人は誰もが　死すべき運命を背負い

(ままだいてだかれてさびしさをあいでうめる)

儘... 抱いて抱かれて　寂しさを愛で埋める

(されどかれらのおおくはしすべきさだめをのろい)

されど彼等の多くは　死すべき運命を呪い

(ままうばいうばわれむなしさでむねをみたす)

儘... 奪い奪われ　虚しさで胸を満たす

(しょうじょのほおをつたわるけがれなきしずくを)

少女の頬を伝わる清らかな雫を

(あかぐろきしたさきがすくいかけたせつな)

汚らわしき舌先が掬いかけた 刹那

(にがさないよこねこちゃん)

「逃がさないよ、子猫ちゃん…」

(いやぁ)

「いやぁ…」

(いひいひいっひっひっひっひ)

「イヒイヒイッヒッヒッヒッヒ」

(いやぁこないでぇ)

「いやぁ…来ないでぇ！」

(わたしのかわきをうるおしてくれぇ)

「私の渇きを潤してくれぇ」

(うぅいやぁ)

「うぅ…いやぁ…」

(やぁぁぁっ)

「ヤァァァッ！」

(ああーおぉううおぉぅぅ)

「アアーオォ！う、うおぉぅぅ」

(だいじょうぶかいきみ)

「大丈夫かい、君？」

(えれふ)

「エレフ？」

(みーしゃおってがくるまえににげようみーしゃ)

「ミーシャ！？追っ手が来る前に逃げよう！ミーシャ！」

(うん)

「うん！」

(ううぅだれぞおらぬかあぁぁ)

「う…うぅ誰ぞおらぬかあぁぁ！」

(てやっ)

「てやっ！」

(まてぇ)

「…待てぇ！」

(つかまるんじゃねぇぞえれふ)

「つかまるんじゃねぇぞ！エレフ！」

(おまえこそなおりおん)

「お前こそな！オリオン！」

(やぁ)

「やぁ！」

(つないだてとてがかけぬけるいりおんいりおん)

繋いだ手と手が　駈け抜ける風の都イリオン...

(ふりそそぐほしくずよいやみのいりおんいりおん)

降り注ぐ星屑　夕闇の風の都イリオン...

(なげきとしのじょうへきそびえたついりおんいりおん)

嘆きと死の城壁　聳え立つ風の都　イリオン...

(ふりかえるはいごにとおざかるいりおんいりおん)

振り返る背後に　遠離る風の都イリオン...

(まてまてぇ)

「待て待てぇ！」

(たぁ)

「たぁ！」

(ぐわぁ)

「ぐわぁ！」

(ひっさつゆみがしなりはじけたほのおよぞらをこおらせてうちっ)

「必殺☆“弓がしなり弾けた焔、夜空を凍らせて”射ちっ！」

(わざめいなげぇよばか)

「技名長ぇよ バカ！！」

(だまらっしゃいこれぞおりおんりゅうきゅうじゅつがしんずい)

「だまらっしゃい！これぞオリオン流弓術が真髄！」

(あははははっ)

「「あははははっ」」