怖い話《私は、ある意味では死にました》1
| 順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | berry | 7294 | 光 | 7.4 | 98.0% | 627.7 | 4674 | 95 | 95 | 2025/11/07 |
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問題文
(まだ、わたしがとないででんしゃつうがくしていたころですから、)
まだ、私が都内で電車通学していた頃ですから、
(もう15ねんいじょうまえになるでしょうか。)
もう15年以上前になるでしょうか。
(ちじんがわたしのかおをみるなり、あちこちで)
知人が私の顔を見るなり、あちこちで
(「たなかくん(わたしのこと、かめいです)をみかけた」)
「タナカくん(私のこと、仮名です)を見かけた」
(ときゅうにいってくるようになりました。)
と急に言ってくるようになりました。
(「たなかくん、きのうすーぱーのむかいのたちのみやさんにいたよね。)
「タナカくん、昨日スーパーの向かいの立ち飲み屋さんにいたよね。
(とおりがかっててをふったのに、きづいてくれないんだもん」)
通りがかって手を振ったのに、気付いてくれないんだもん」
(「たなかくんさあ、きのうのよるこうばんのところのこんびににいたよね。)
「タナカくんさあ、昨日の夜交番のところのコンビニにいたよね。
(いつもかってるの、あのめいがらのたばこだっけ?」)
いつも買ってるの、あの銘柄のたばこだっけ?」
(「たなかくん、おとといあそこのにかいのばーでのんでたよね。)
「タナカくん、一昨日あそこの二階のバーで飲んでたよね。
(このまえおれもせんぱいにつれられていってきたんだけど、)
この前俺も先輩に連れられて行ってきたんだけど、
(ああいうところにもひとりでいくんだね」)
ああいうところにも一人で行くんだね」
(ちじんどうしのまったくふつうのかいわであるとおもわれるかもしれませんが、)
知人同士のまったく普通の会話であると思われるかもしれませんが、
(これにはひとつみょうなてんがありました。)
これにはひとつ妙な点がありました。
(こういうはなしのどれひとつとして、わたしにはみにおぼえがないのです。)
こういう話のどれひとつとして、私には身に覚えがないのです。
(わたしはちじんたちのいうようなにちじに、ちじんたちのいうようなばしょには)
私は知人たちの言うような日時に、知人たちの言うような場所には
(まったくいっていなかったのです。)
全く行っていなかったのです。
(それでも、ちじんたちのみかけたじんぶつというのはわたしにじつによくにていました。)
それでも、知人たちの見かけた人物というのは私に実によく似ていました。
(たにんのそらにといいますし、おなじようなふんいきのじんぶつが)
他人の空似と言いますし、同じような雰囲気の人物が
(たまたまちかいせいかつけんにいただけだとさいしょはおもっていたのですが、)
たまたま近い生活圏にいただけだと最初は思っていたのですが、
(ちじんたちのいうじんぶつのがいけんはそうとうとくしゅなものまでいっちしていました。)
知人たちの言う人物の外見は相当特殊なものまで一致していました。
(おーるばっくにかためたながめのとうはつ)
オールバックに固めた長めの頭髪
(くろいふれーむのまるめがね)
黒いフレームの丸メガネ
(くちひげに、もみあげからあごをいっしゅうするあごひげ)
口ひげに、もみあげから顎を一周する顎ひげ
(こいいろのじゃけっとにえりつきのいろしゃつ)
濃い色のジャケットに襟付きの色シャツ
(したにはでにむをはいていて、あしもとはげたばき)
下にはデニムを履いていて、足元は下駄履き
(きばつないでたちにおもわれるかもしれませんが、)
奇抜な出で立ちに思われるかもしれませんが、
(これがとうじ、ぶんがくぶのがくせいだったころのわたしがまいにちのようにしていたよそおいでした。)
これが当時、文学部の学生だった頃の私が毎日のようにしていた装いでした。
(たにんとはちょっとことなるいでたちであるだけに、)
他人とはちょっと異なる出で立ちであるだけに、
(おなじようなかっこうをしたおなじようなとしごろのじんぶつが、)
同じような格好をした同じような年頃の人物が、
(かぎられたちいきでそうそうひんぱんにみつかるようにもおもわれません。)
限られた地域でそうそう頻繁に見つかるようにも思われません。
(もしかしてちじんどうしにめんしきがあって、みなでわたしのことをかついでいるのか、)
もしかして知人同士に面識があって、皆で私のことを担いでいるのか、
(ともおもわれましたが、ちじんどうしぜんいんがたがいにめんしきがあるわけでもないことから、)
とも思われましたが、知人同士全員が互いに面識があるわけでもない事から、
(おそらくそんなことはないでしょう。)
恐らくそんなことはないでしょう。
(「どっぺるげんがー」ということばが、ふとのうりにうかびました。)
「ドッペルゲンガー」という言葉が、ふと脳裏に浮かびました。
(それはもうひとりのじぶんじしんであり、)
それはもう一人の自分自身であり、
(「そうぐうしてしまうとしぬ」などといういいつたえもあるようです。)
「遭遇してしまうと死ぬ」などという言い伝えもあるようです。
(そのしょうたいはじぶんじしんのいきりょうであるとか、)
その正体は自分自身の生霊であるとか、
(じぶんのつみのいしきがうみだしたげんかくであるとか、いろいろにいわれているようで、)
自分の罪の意識が生み出した幻覚であるとか、色々に言われているようで、
(そういえばとうじあいどくしていたあくたがわりゅうのすけのたんぺんにもとうじょうしていました。)
そういえば当時愛読していた芥川龍之介の短編にも登場していました。
(まさか・・・)
まさか・・・
(ばーでわたしをみかけたというちじんとはだいがくでひかくてきよくはなすあいだがらだったので、)
バーで私を見かけたという知人とは大学で比較的よく話す間柄だったので、
(とくにくわしくはなしをきいてみました。)
特に詳しく話を聞いてみました。
(かれによれば、わたしらしきじんぶつがわたしのいつもすっているたばこをくわえて)
彼によれば、私らしき人物が私のいつも吸っているたばこを咥えて
(しえんをくゆらせながら、わたしがあいようしているのとそっくりなまんねんひつで)
紫煙をくゆらせながら、私が愛用しているのとそっくりな万年筆で
(なにかこむずかしいかきものをしていた、といいます。)
なにか小難しい書き物をしていた、と言います。
(ぶきみになったわたしは、そのちじんからばーのばしょをききだして、)
不気味になった私は、その知人からバーの場所を聞き出して、
(とにかくそのみせにいってみることにしました。)
とにかくその店に行ってみることにしました。
(もしもそのじんぶつがばーのじょうれんきゃくならば、)
もしもその人物がバーの常連客ならば、
(きっとひんぱんにあしをはこんでいるはずであり、)
きっと頻繁に足を運んでいるはずであり、
(てんいんやじょうれんきゃくからもうわさをきくこともできるだろうし、)
店員や常連客からも噂を聞くこともできるだろうし、
(そのうちにほんにんがあらわれることもあるだろう、とかんがえたからです。)
そのうちに本人が現れる事もあるだろう、と考えたからです。
(わたしは23くからすこしはなれたがくせいがいにすんでおり、)
私は23区から少し離れた学生街に住んでおり、
(もんだいのばーは、わたしはよくあしをはこぶとなりのえきからでてすぐの)
問題のバーは、私はよく足を運ぶ隣の駅から出てすぐの
(めだたないざっきょびるのにかいにはいっていました。)
目立たない雑居ビルの二階に入っていました。
(ばーのかんばんにはおうねんのえいがからとったとおぼしきみせのなまえがついており、)
バーの看板には往年の映画からとったと思しき店の名前がついており、
(まどからかいまみえるてんないもしぶいかんじで、とうじのじぶんのようなじゃくはいものが)
窓から垣間見える店内も渋い感じで、当時の自分のような若輩者が
(じょうれんきゃくのしょうかいもなくとつぜんにゅうてんするのはきおくれしてしまうようなみせでした。)
常連客の紹介もなく突然入店するのは気後れしてしまうような店でした。
(それでもしいてどあをひらいてはいってみると、)
それでも強いてドアを開いて入ってみると、
(はちにんくらいすわれるlじがたのかうんたーに)
八人くらい座れるL字型のカウンターに
(よんにんがけのちいさなてーぶるせきがふたつついた、こじんまりとしたばーでした。)
四人掛けの小さなテーブル席が二つついた、こじんまりとしたバーでした。
(たなにはういすきーがたくさんならんでいます。)
棚にはウイスキーが沢山並んでいます。
(かうんたーのなかから「いらっしゃい」とこえをかけてくれたのは、)
カウンターの中から「いらっしゃい」と声を掛けてくれたのは、
(さんじゅうさいくらいのきれいなじょせいでした。)
三十歳くらいの綺麗な女性でした。
(おみせのがいかんからしぶくてがんこなおじさまのますたーをそうぞうしていたので、)
お店の外観から渋くて頑固なおじ様のマスターを想像していたので、
(しょうしょういがいでした。)
少々意外でした。
(まだはやいじかんだったから、てんないにせんきゃくはおらず、わたしひとりでした。)
まだ早い時間だったから、店内に先客はおらず、私一人でした。
(じょせいがにこりとしてこえをかけてきます。)
女性がにこりとして声を掛けてきます。
(「たなかさん、いつもの?」)
「タナカさん、いつもの?」
(はじめてみせにはいったのにもかかわらずなげかけられた)
初めて店に入ったのにも関わらず投げかけられた
(「いつもの?」というといかけにわたしはぎょっとしました。)
「いつもの?」という問いかけに私はぎょっとしました。
(よほどみょうなひょうじょうをしていたのでしょう。)
よほど妙な表情をしていたのでしょう。
(じょせいはしんぱいそうにことばをかさねました。)
女性は心配そうに言葉を重ねました。
(「どうしたの?」)
「どうしたの?」
(「あ、いえ。あの、どうしてぼくのなまえを・・・?」)
「あ、いえ。あの、どうして僕の名前を・・・?」
(「どうしてって、ちょっとだいじょうぶ?いつもきてくれてるでしょう?」)
「どうしてって、ちょっと大丈夫?いつも来てくれてるでしょう?」
(「え、あれ・・・」)
「え、あれ・・・」
(げんじつにあまりにもわけのわからないことがおこると、)
現実にあまりにも訳の分からない事が起こると、
(どうもにんげん、おもうようにこえがでないようです。)
どうも人間、思うように声が出ないようです。
(てんいんのじょせいがいうには、わたしはまいしゅうのようにこのみせにきてらむしゅをのみながら、)
店員の女性が言うには、私は毎週のようにこの店に来てラム酒を飲みながら、
(むずかしそうなてつがくのほんをひろげている、と。)
難しそうな哲学の本を広げている、と。
(たしかにそのころはわたしはらむしゅばかりをのんでいましたし、)
確かにその頃は私はラム酒ばかりを飲んでいましたし、
(だいがくでのせんこうもてつがくでした。)
大学での専攻も哲学でした。
(じょせい(みやびさん)はわたしがえんせんのだいがくにかようがくせいだということもいいあてました。)
女性(ミヤビさん)は私が沿線の大学に通う学生だという事も言い当てました。
(しどろもどろになり、ぼくはなぜかみやびさんにはなしをあわせようとしていました。)
しどろもどろになり、僕は何故かミヤビさんに話を合わせようとしていました。
(「あ、あの・・・なんかさいきんのみすぎてておぼえてないっていうか・・・」)
「あ、あの・・・何か最近飲みすぎてて覚えてないっていうか・・・」
(「そう?わかいからってあんまりのみすぎちゃだめだよ。おみずいる?」)
「そう?若いからってあんまり飲みすぎちゃ駄目だよ。お水いる?」
(「あ、どうも・・・」)
「あ、どうも・・・」
(そのあと、わたしはもうしわけていどにさけをちゅうもんしてから、なにかいいかげんなことをいって)
その後、私は申し訳程度に酒を注文してから、何かいい加減な事を言って
(かいけいをすませるとそのばをたちさりました。)
会計を済ませるとその場を立ち去りました。
(みせのどあをあけてそとにでたところで、いっかいからこちらにあがってくるひとがいます。)
店のドアを開けて外に出たところで、一階からこちらに上ってくる人がいます。
(ちょうどいれちがいでおきゃくさんがきたのでしょう。)
ちょうど入れ違いでお客さんが来たのでしょう。
(ひとがすれちがうのもむずかしい、せまいかいだんでしたから)
人がすれ違うのも難しい、狭い階段でしたから
(わたしはそのひとがあがりきるのをまっていました。)
私はその人が上り切るのを待っていました。
(ところが、そのじんぶつがきみょうなのです。)
ところが、その人物が奇妙なのです。
