巨人の研究 -6-

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師匠シリーズ
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問題文

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(「なんなんです、それは」)

「なんなんです、それは」

(「なんなんだろうな」)

「なんなんだろうな」

(ためすようなめつき。)

試すような目付き。

(こびとをみたというひとがふえている?どうしてそんなことがおこる?)

小人を見たという人が増えている?どうしてそんなことが起こる?

(かんがえてもわからない。くちさけおんなやじんんめんけんのように、)

考えても分からない。口裂け女や人面犬のように、

(こどものこみゅにてぃーのなかでばくはつてきにひろがるとしでんせつはあるが、)

子どものコミュニティーの中で爆発的に広がる都市伝説はあるが、

(このこびとのはなしはただちいさいひとをみたというきょうつうこうがあるだけで、)

この小人の話はただ小さい人を見たという共通項があるだけで、

(あらわれかたにいっかんせいがない。)

現れ方に一貫性がない。

(としでんせつのたぐいにしてはいわかんがある。)

都市伝説の類にしては違和感がある。

(「なぜなんです」)

「なぜなんです」

(すなおにきいた。こたえがあるならばしりたかった。)

素直に訊いた。答えがあるならば知りたかった。

(ししょうはやきゅうのれんしゅうにもってきていたさっきののーとをかざすようにてにして。)

師匠は野球の練習に持って来ていたさっきのノートをかざすように手にして。

(こどものようなえがおをうかべた。)

子どものような笑顔を浮かべた。

(「きょしんたんかい、そうたいてきにものごとをみれば、あるかせつがしぜんとみちびきだされる」)

「虚心坦懐、相対的に物事を見れば、ある仮説が自然と導き出される」

(そうしてのーとのおもてにまじっくでかかれた「きょじんのけんきゅう」というもじを)

そうしてノートの表にマジックで書かれた「巨人の研究」という文字を

(ゆっくりとゆびさす。)

ゆっくりと指さす。

(「こびとをみるひとがふえているということは、きょじんがふえているということだ」)

「小人を見る人が増えているということは、巨人が増えているということだ」

(ばかだ。)

バカだ。

(とっさにそうおもった。それからすこしかんがえても、やはりばかだとおもった。)

とっさにそう思った。それから少し考えても、やはりバカだと思った。

(ししょうはたまにとっぴょうしもないことをいいだすが、これはひどい。)

師匠はたまに突拍子もないことを言い出すが、これは酷い。

など

(「でかいちいさいってのはつねにそうたいてきなものだ。ころぽっくるからみれば)

「デカイ小さいってのは常に相対的なものだ。コロポックルから見れば

(にんげんはきょじんかもしれないが、だいにゅうどうからみればこびとだ。)

人間は巨人かも知れないが、大入道から見れば小人だ。

(そしてそのだいにゅうどうもだいだらぼっちからみればこびとにすぎない」)

そしてその大入道もダイダラボッチから見れば小人に過ぎない」

(だからって、いくらなんでもきょじんがふえてるなんてはなしにはならないだろう。)

だからって、いくらなんでも巨人が増えてるなんて話にはならないだろう。

(きょじんのけんきゅうって、そんなたんらくてきなりゆうではじめたのか。)

巨人の研究って、そんな短絡的な理由で始めたのか。

(「まあきけ」)

「まあ聞け」

(「いや、でもまってくださいよ。おかしいでしょう。はなしのでどころが)

「いや、でも待って下さいよ。おかしいでしょう。話の出どころが

(きょじんたちじしんのうわさばなしだとでもいうんですか。それじたいがりっぱなかいだん、)

巨人たち自身の噂話だとでも言うんですか。それ自体が立派な怪談、

(ていうかおかるとですよ」)

ていうかオカルトですよ」

(「ふれんど・おぶ・ふれんどだ。このてのはなしのでどころにしょうたいはない」)

「フレンド・オブ・フレンドだ。この手の話の出どころに正体はない」

(「ぼくはたいけんしたほんにんからききました。もちろんふつうのがくせいです」)

「僕は体験した本人から聞きました。もちろん普通の学生です」

(「わたしからすれば「ともだちからきいたはなし」だ」)

「わたしからすれば「友だちから聞いた話」だ」

(「だったらつれてきますよ。ちょくせつきいたらどうですか」)

「だったら連れて来ますよ。直接訊いたらどうですか」

(ふんがいしてそういうと、ししょうはあつくなるな、というじぇすちゃーをする。)

憤慨してそう言うと、師匠は熱くなるな、というジェスチャーをする。

(「わるかった。いまのはじょうだんだ」)

「悪かった。今のは冗談だ」

(どこまでがじょうだんなのだか・・・・・)

どこまでが冗談なのだか・・・・・

(めをほそめてまゆげをさげながらみぎてをおじぎさせるししょうをまえにして、)

目を細めて眉毛を下げながら右手をお辞儀させる師匠を前にして、

(ぼくはなんだかつかれてしまった。)

僕はなんだか疲れてしまった。

(「せっかくしらべたんだから、きょじんのはなしもきいてくれよ」)

「せっかく調べたんだから、巨人の話も聞いてくれよ」

(すきにしてください、というきぶんだった。)

好きにして下さい、という気分だった。

(ししょうはのーとをひろげてぱらぱらとめくる。)

師匠はノートを広げてパラパラとめくる。

(「ようし。きょじんときいてまずなにをおもいうかべる?」)

「ようし。巨人と聞いてまず何を思い浮かべる?」

(「だいだらぼっち」)

「ダイダラボッチ」

(「それさっきわたしがいったからだろう」)

「それさっきわたしが言ったからだろう」

(「じゃあぎがんてす。たいたん。あとらす。あとさいくろぷす」)

「じゃあギガンテス。タイタン。アトラス。あとサイクロプス」

(「にほんでもrpgげーむとかでおなじみになったなまえだな。)

「日本でもRPGゲームとかでお馴染みになった名前だな。

(どれもぎりしゃしんわにでてくるきょじんだ。ぎがーす、てぃたーん、)

どれもギリシャ神話に出てくる巨人だ。ギガース、ティターン、

(あとらーす、そしてきゅくろーぷす。)

アトラース、そしてキュクロープス。

(いずれもだいちのかみがいあをはは、もしくはそぼにもち、かみとしてのきょじん、)

いずれも大地の神ガイアを母、もしくは祖母に持ち、神としての巨人、

(つまりきょしんといっていいそんざいだ。ただ、こうせいになるにつれかいぶつとしての)

つまり巨神といっていい存在だ。ただ、後世になるにつれ怪物としての

(そくめんがでんしょうじょうにあらわれ、ひぞくか、わいしょうかしていったけいこうがあるな。)

側面が伝承状に現れ、卑俗化、矮小化していった傾向があるな。

(ほくおうしんわではなにかしっているか」)

北欧神話では何か知っているか」

(ほくおうしんわか。たしかしゅしんのおーでぃんのじゅうしゃだかこぶんだかに)

北欧神話か。確か主神のオーディンの従者だか子分だかに

(ゆうめいなやつがいたはずだ。)

有名なヤツがいたはずだ。

(「ろきでしたっけ」)

「ロキでしたっけ」

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