ドグラ・マグラ/夢野久作

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プレイ回数26難易度(4.4) 3499打 長文
ドグラ・マグラという日本三大奇書の一つの作品です。
約70問ほどあります。
一部カットしている部分があります。ご了承ください。

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問題文

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(・・・・・・ぶううーーーんんんーーーんんん・・・・・・。) ……ブウウーーーンンンーーーンンン……。 (わたしがうすうすとめをさましたとき、こうしたみつばちのうなるようなおとは、) 私がウスウスと眼を覚ました時、こうした蜜蜂の唸るような音は、 (まだ、そのだんりょくのふかいよいんを、わたしのみみのなかにはっきりとひきのこしていた。) まだ、その弾力の深い余韻を、私の耳の中にハッキリと引き残していた。 (それをじっときいているうちに・・・・・・いまはまよなかだな・・・・・・とちょっかんした。) それをジッと聞いているうちに……今は真夜中だな……と直感した。 (そうしてどこかちかくでぼんぼんとけいがなっているんだな・・・・・・とおもいおもい、) そうしてどこか近くでボンボン時計が鳴っているんだな……と思い思い、 (またもうとうとしているうちに、そのみつばちのようなよいんは、) 又もウトウトしているうちに、その蜜蜂のような余韻は、 (いつとなくつぎつぎにきえうすれていって、そこいらちゅうが) いつとなく次々に消え薄れて行って、そこいら中が (ひっそりとしずまりかえってしまった。わたしはふっとめをひらいた。) ヒッソリと静まり返ってしまった。私はフッと眼を開いた。 (かなりたかい、しろぺんきまみれのてんじょううらから、うすじろいほこりにおおわれた) かなり高い、白ペンキ塗の天井裏から、薄白い塵埃に蔽われた (はだかのでんきゅうがたったひとつぶらさがっている。) 裸の電球がタッタ一つブラ下がっている。 (そのあかきいろくひかるがらすだまのよこばらに、おおきなはえがいっぴきとまっていて、) その赤黄色く光る硝子球の横腹に、大きな蠅が一匹とまっていて、 (しんだようにじっとしている。) 死んだように凝然としている。 (そのましたのかたい、さめたいじんぞうせきのゆかのうえに、) その真下の固い、冷めたい人造石の床の上に、 (わたしはだいのじなりにながくなってねているようである。) 私は大の字型に長くなって寝ているようである。 (・・・・・・おかしいな・・・・・・・・・。) ……おかしいな………。 (わたしはだいのじがたにじっとしたまま、まぶたをひとぱいにみひらいた。) 私は大の字型に凝然としたまま、瞼を一パイに見開いた。 (そうしてめのたまだけをぐるりぐるりとじょうげさゆうにかいてんさしてみた。) そうして眼の球だけをグルリグルリと上下左右に廻転さしてみた。 (あおぐろいこんくりーとのかべでかこまれたにけんしほうばかりのへやである。) 青黒い混凝土の壁で囲まれた二間四方ばかりの部屋である。 (そのさんぽうのかべに、くろいてつごうしと、かなあみでにじゅうにはりつめた、) その三方の壁に、黒い鉄格子と、金網で二重に張り詰めた、 (おおきなたてながいすりがらすのまどがひとつずつ、つごうみっつとりつけられている、) 大きな縦長い磨硝子の窓が一つ宛、都合三つ取り付けられている、
など
(とてもようじんけんごにかまえたへやのかんじである。) トテも要心堅固に構えた部屋の感じである。 (まどのないがわのかべのつけねには、やはりがんじょうなてつのしんだいがいっこ、) 窓のない側の壁の附け根には、やはり岩乗な鉄の寝台が一個、 (いりぐちのほうこうをまくらにしてよこたえてあるが、そのうえのまっしろなしんぐが、) 入口の方向を枕にして横たえてあるが、その上の真白な寝具が、 (きちんとしきならべたままになっているところをみると、) キチンと敷き展べたままになっているところを見ると、 (まだだれもねたことがないらしい。) まだ誰も寝たことがないらしい。 (・・・・・・おかしいぞ・・・・・・・・・。) ……おかしいぞ………。 (わたしはすこしあたまをもちあげて、じぶんのからだをみまわしてみた。) 私は少し頭を持ち上げて、自分の身体を見廻してみた。 (しろい、あたらしいごわごわしたもめんのきものがにまいかさねてきせてあって、) 白い、新しいゴワゴワした木綿の着物が二枚重ねて着せてあって、 (たんかいがーぜのおびがいっぽん、むなだかにむすんである。) 短かいガーゼの帯が一本、胸高に結んである。 (そこからまるまるとふとってつきでているよんほんのてあしは、) そこから丸々と肥って突き出ている四本の手足は、 (ぜんたいにどすくろく、あかだらけになっている・・・・・・そのきたならしさ・・・・・・。) 全体にドス黒く、垢だらけになっている……そのキタナラシサ……。 (・・・・・・いよいよおかしい・・・・・・。) ……いよいよおかしい……。 (こわごわわめてをあげて、じぶんのかおをなでまわしてみた。) 怖わ怖わ右手をあげて、自分の顔を撫でまわしてみた。 (・・・・・・はながとんがって・・・・・・めがおちくぼんで・・・・・・) ……花が尖んがって……目が落ち窪んで…… (あたまがぼうぼうとみだれて・・・・・・あごひげがもじゃもじゃとのびて・・・・・・。) 頭髪が蓬々と乱れて……顎鬚がモジャモジャと延びて……。 (・・・・・・わたしはがばとはねおきた。) ……私はガバと跳ね起きた。 (もういちど、かおをなでまわしてみた。) モウ一度、顔を撫でまわしてみた。 (そこいらをきょろきょろとみまわりわした。) そこいらをキョロキョロと見廻わした。 (・・・・・・だれだろう・・・・・・おれはこんなにんげんをしらない・・・・・・。) ……誰だろう……俺はコンナ人間を知らない……。 (むねのどうきがみるみるたかまった。はやがねをつくようにみだれうちはじめた。) 胸の動悸がみるみる高まった。早鐘を撞くように乱れ打ち始めた。 (・・・・・・・・・こきゅうが、それにつれてあらくなった。) ………呼吸が、それに連れて荒くなった。 (・・・・・・かとおもうとまた、ひっそりとしずまってきた。) ……かと思うと又、ヒッソリと静まってきた。 (・・・・・・こんなふしぎなことがあろうか・・・・・・。) ……こんな不思議なことがあろうか……。 (・・・・・・じぶんでじぶんをわすれてしまっている・・・・・・。) ……自分で自分を忘れてしまっている……。 (・・・・・・いくらかんがえても、どこのなにものだかおもいだせない。) ……いくら考えても、どこの何者だか思い出せない。 (・・・・・・じぶんのかこのおもいでとしては、) ……自分の過去の思い出としては、 (たったいまきいたぶうーーんんんというぼんぼんとけいのおとがたったひとつ、) たった今聞いたブウーーンンンというボンボン時計の音がタッタ一つ、 (きおくにのこっている。・・・・・・それっぎりである・・・・・・。) 記憶に残っている。……ソレっ切りである……。 (・・・・・・それでいてきはたしかである。しんかんとしたあんこくが、) ……それでいて気は慥かである。森閑とした暗黒が、 (へやのそとをとりまいて、どこまでもどこまでもつづきひろがっていることが) 部屋の外を取巻いて、どこまでもどこまでも続き広がっていることが (はっきりとかんじられる・・・・・・。) ハッキリと感じられる……。 (・・・・・・ゆめではない・・・・・・たしかにゆめでは・・・・・・・・・・・・。) ……夢ではない……たしかに夢では…………。 (わたしはとびあがった。) 私は飛び上った。 (・・・・・・まどのまえにかけよって、すりがらすのへいめんをのぞいた。) ……窓の前に駈け寄って、磨硝子の平面を覗いた。 (そこにうつったじぶんのかおかたちをみて、なにかのきおくをよびおこそうとした。) そこに映った自分の容貌を見て、何かの記憶を喚び起そうとした。 (・・・・・・しかし、それはなんにもならなかった。) ……しかし、それは何にもならなかった。 (すりがらすのひょうめんには、かみのけのもじゃもじゃしたあっきのような、) 磨硝子の表面には、髪の毛のモジャモジャした悪鬼のような、 (わたしじしんのかげぼうししかうつらなかった。) 私自身の影法師しか映らなかった。 (わたしはみをひるがえしてしんだいのまくらもとにあるいりぐちのどあにかけよった。) 私は身を飜して寝台の枕元に在る入口の扉に駈け寄った。 (かぎあなだけがぽつんとあいているしんちゅうのかなぐにかおをちかづけた。) 鍵穴だけがポツンと空いている真鍮の金具に顔を近付けた。 (けれどもそのかなぐのひょうめんは、わたしのかおをうつさなかった。) けれどもその金具の表面は、私の顔を写さなかった。 (ただ、きいろいうすぐらいひかりをはんしゃするばかりであった。) 只、黄色い薄暗い光りを反射するばかりであった。 (・・・・・・しんだいのあしをさがしまわった。しんだいをひっくりかえしてみた。) ……寝台の脚を探しまわった。寝台を引っくり返してみた。 (きているきものまでもおびをといてうらがえしてみたけれども、) 着ている着物までも帯を解いて裏返してみたけれども、 (わたしのなまえはぐか、かしらもじらしいものすらはっけんしえなかった。) 私の名前は愚か、頭文字らしいものすら発見し得なかった。 (わたしはぼうぜんとなった。わたしはいぜんとしてみちのせかいにいるみちのわたしであった。) 私は呆然となった。私は依然として未知の世界に居る未知の私であった。 (わたしじしんもだれだかわからないわたしであった。) 私自身も誰だかわからない私であった。
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