アトリの鐘
(リクエストユーザー:ジョナジュリ)
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問題文
(むかしむかし、いたりあのあとりというまちのおはなしです。)
むかしむかし、イタリアのアトリという町のお話です。
(あるひ、おうさまのめいれいでまちのひろばのとうに、)
ある日、王さまの命令で町の広場の塔に、
(おおきなかねがつるされました。)
大きな鐘がつるされました。
(かねからは、ながいつながさがっています。)
鐘からは、長いつなが下がっています。
(「どんなおとがするのだろう?」)
「どんな音がするのだろう?」
(まちのひとたちはとうをとりかこんで、)
町の人たちは塔をとりかこんで、
(むねをわくわくさせながらおうさまがくるのをまちました。)
胸をわくわくさせながら王さまが来るのを待ちました。
(やがてばしゃでやってきたおうさまが、あつまったひとびとにこういいました。)
やがて馬車でやって来た王さまが、集まった人々にこう言いました。
(「このかねは、ただじこくをしらせたり、おとをきくだけのものではない。)
「この鐘は、ただ時刻を知らせたり、音を聞くだけのものではない。
(「ただしさのかね」として、ここにつるしたのじゃ」)
『正しさの鐘』として、ここにつるしたのじゃ」
(「ただしさのかね?」)
「正しさの鐘?」
(ひとびとは、ふしぎそうにおうさまをみつめました。)
人々は、不思議そうに王さまを見つめました。
(「そうじゃ「ただしさのかね」じゃ。)
「そうじゃ『正しさの鐘』じゃ。
(おまえたちのうちのだれでも、もしひとにいじめられたり、)
お前たちのうちの誰でも、もし人にいじめられたり、
(つらいめにあわされたりしたら、ここへきてかねをならせばよい。)
つらいめにあわされたりしたら、ここへ来て鐘をならせばよい。
(かねがなればさいばんかんがすぐにきて、おまえたちのいいぶんをきいてくれる。)
鐘がなれば裁判官がすぐに来て、お前たちの言い分を聞いてくれる。
(そしてなにがただしいかを、きめてくれるであろう」)
そして何が正しいかを、決めてくれるであろう」
(「だれがかねをならしても、よろしいのですか?」)
「誰が鐘をならしても、よろしいのですか?」
(「だれがならしてもよい。)
「誰がならしてもよい。
(こどもでもよいぞ。)
子どもでもよいぞ。
(みよ、そのためにつなは、このようにながくしてあるのじゃ」)
見よ、そのためにつなは、このように長くしてあるのじゃ」
(こうしてあとりのまちでは、そのひからひとにつらいめにあわされたひとや、)
こうしてアトリの町では、その日から人につらいめにあわされた人や、
(あらそいごとのあるひとはとうのしたにきて、かねをならすようになりました。)
争い事のある人は塔の下に来て、鐘をならすようになりました。
(そしておうさまのおっしゃったとおりかねがなるとさいばんかんがやってきて、)
そして王さまのおっしゃった通り鐘がなると裁判官がやって来て、
(だれがただしいか、なにがしんじつかをきめてくれるのです。)
誰が正しいか、何が真実かを決めてくれるのです。
(かねのおかげでまちのみんなは、たのしくまいにちをすごせるようになりました。)
鐘のおかげで町のみんなは、楽しく毎日を過ごせるようになりました。
(そしてながいねんげつのあいだにおおぜいのひとがつなをひっぱったので、つながきれて)
そして長い年月の間に大勢の人がつなを引っ張ったので、つなが切れて
(あたらしいつなができるまでぶどうのつるがさげられることになりました。)
新しいつなが出来るまでブドウのつるがさげられることになりました。
(さて、あとりのまちはずれに、ひとりのかねもちのおとこがすんでいました。)
さて、アトリの町はずれに、一人の金持ちの男が住んでいました。
(このおとこはわかいころはうまにのってわるものをたくさんやっつけた、)
この男は若い頃はウマに乗って悪者をたくさんやっつけた、
(いさましくただしいひとでした。)
いさましく正しい人でした。
(でもとしをとるにしたがって、)
でも年を取るにしたがって、
(だんだんといじわるのけちんぼうになってしまったのです。)
だんだんと意地悪のけちん坊になってしまったのです。
(あるひ、かねもちはかんがえました。)
ある日、金持ちは考えました。
(「もっと、おかねをためるほうほうはないだろうか?)
「もっと、お金をためる方法はないだろうか?
(・・・そうだ。うまにえさをやらなければいいんだ」)
・・・そうだ。ウマにエサをやらなければいいんだ」
(こうしてむかしはいっしょにかつやくしたうまなのに、)
こうしてむかしは一緒に活躍したウマなのに、
(えさをやるのをやめてしまったのです。)
エサをやるのをやめてしまったのです。
(やせほそったうまはよろよろしながら、)
やせほそったウマはヨロヨロしながら、
(やっとあとりのまちへたどりつきました。)
やっとアトリの町へたどりつきました。
(そしてひろばのとうのしたまでくると、つなのかわりにさがっていた)
そして広場の塔の下まで来ると、つなのかわりに下がっていた
(ぶどうのつるのはをむしゃむしゃたべはじめたのです。)
ブドウのつるの葉をムシャムシャ食べ始めたのです。
(がらん、がらん。)
ガラン、ガラン。
(うまがたべるたびに、かねががらんがらんとなりました。)
ウマが食べるたびに、鐘がガランガランとなりました。
(まちのひとたちもさいばんかんもひろばにとんできて、そのうまをみました。)
町の人たちも裁判官も広場に飛んで来て、そのウマを見ました。
(「かわいそうに、こんなにやせている」)
「かわいそうに、こんなにやせている」
(「うまはくちがきけないから、かねをならして、つらいことをうったえているのだ」)
「ウマは口がきけないから、鐘をならして、つらいことをうったえているのだ」
(すぐにかいぬしだったかねもちが、ひろばによばれました。)
すぐに飼い主だった金持ちが、広場に呼ばれました。
(さいばんかんは、かねもちにいいました。)
裁判官は、金持ちに言いました。
(「このうまは、いままでとてもあなたのやくにたってきたはず。)
「このウマは、今までとてもあなたの役に立ってきたはず。
(あなたのためたおかねのはんぶんは、このうまのものではありませんか?」)
あなたのためたお金の半分は、このウマの物ではありませんか?」
(かねもちのおとこのひとはぶどうのはをたべているうまをみているうちに、)
金持ちの男の人はブドウの葉を食べているウマを見ているうちに、
(むねがいっぱいになりました。)
胸がいっぱいになりました。
(じぶんがどんなにひどいことをしたか、ようやくわかったのです。)
自分がどんなにひどい事をしたか、ようやくわかったのです。
(そしてそれからはうまをたいせつにして、いつまでもなかよくくらしました。)
そしてそれからはウマを大切にして、いつまでも仲良く暮らしました。
(あとりのかねは、うまにとっても「ただしさのかね」だったのです。)
アトリの鐘は、ウマにとっても『正しさの鐘』だったのです。