読書子に寄す―岩波文庫発刊に際して―
関連タイピング
-
プレイ回数706万短文かな137打
-
プレイ回数10万歌詞200打
-
プレイ回数4044かな314打
-
プレイ回数96万長文かな1008打
-
プレイ回数1.1万313打
-
プレイ回数6065歌詞かな767打
-
プレイ回数2052歌詞1426打
-
プレイ回数28長文3856打
問題文
(しんりはばんじんによってもとめられることをみずからほっし、)
真理は万人によって求められることを自ら欲し、
(げいじゅつはばんじんによってあいされることをみずからのぞむ。)
芸術は万人によって愛されることを自ら望む。
(かつてはたみをぐまいならしめるために)
かつては民を愚昧ならしめるために
(がくげいがもっともせまきどううにへいさされたことがあった。)
学芸が最も狭き堂宇に閉鎖されたことがあった。
(いまやちしきとびとをとっけんかいきゅうのどくせんよりうばいかえすことは)
今や知識と美とを特権階級の独占より奪い返すことは
(つねにしんしゅてきなるみんしゅうのせつじつなるようきゅうである。)
つねに進取的なる民衆の切実なる要求である。
(いわなみぶんこはこのようきゅうにおうじそれにはげまされてうまれた。)
岩波文庫はこの要求に応じそれに励まされて生まれた。
(それはせいめいあるふきゅうのしょをしょうすうしゃのしょさいとけんきゅうしつとよりときはなして)
それは生命ある不朽の書を少数者の書斎と研究室とより解放して
(がいとうにくまなくたたしめみんしゅうにごせしめるであろう。)
街頭にくまなく立たしめ民衆に伍せしめるであろう。
(きんじたいりょうせいさんよやくしゅっぱんのりゅうこうをみる。)
近時大量生産予約出版の流行を見る。
(こうだいにのこすとこしょうするぜんしゅうがそのへんしゅうにばんぜんのよういをなしたるか。)
後代にのこすと誇称する全集がその編集に万全の用意をなしたるか。
(せんこのてんせきのほんやくきとにけいけんのたいどをかかざりしか。)
千古の典籍の翻訳企図に敬虔の態度を欠かざりしか。
(さらにぶんばいをゆるさずどくしゃをけばくしてすうじっさつをしうるがごとき、)
さらに分売を許さず読者を繋縛して数十冊を強うるがごとき、
(はたしてそのようげんするがくげいかいほうのゆえんなりや。)
はたしてその揚言する学芸解放のゆえんなりや。
(ごじんはてんかのめいしのこえにわしてこれをすいきょするにちゅうちょするものである。)
吾人は天下の名士の声に和してこれを推挙するに躊躇するものである。
(このときにあたって、いわなみしょてんはじこのせきむのいよいよじゅうだいなるをおもい、)
このときにあたって、岩波書店は自己の責務のいよいよ重大なるを思い、
(じゅうらいのほうしんのてっていをきするため、すでにじゅうすうねんいぜんよりこころざしてきたけいかくを)
従来の方針の徹底を期するため、すでに十数年以前より志して来た計画を
(しんちょうしんぎこのさいだんぜんじっこうすることにした。ごじんははんをかのれくらむぶんこにとり)
慎重審議この際断然実行することにした。吾人は範をかのレクラム文庫にとり
(ここんとうざいにわたってぶんげいてつがくしゃかいかがくしぜんかがくとうしゅるいのいかんをとわず、)
古今東西にわたって文芸・哲学・社会科学・自然科学等種類のいかんを問わず、
(いやしくもばんじんのひつどくすべきしんにこてんてきかちあるしょをきわめてかんいなる)
いやしくも万人の必読すべき真に古典的価値ある書をきわめて簡易なる
(けいしきにおいてちくじかんこうし、あらゆるにんげんにしゅようなるせいかつこうじょうのしりょう、)
形式において逐次刊行し、あらゆる人間に須要なる生活向上の資料、
(せいかつひはんのげんりをていきょうせんとほっする。)
生活批判の原理を提供せんと欲する。
(このぶんこはよやくしゅっぱんのほうほうをはいしたるがゆえに、どくしゃはじこのほっするときに)
この文庫は予約出版の方法を排したるがゆえに、読者は自己の欲する時に
(じこのほっするしょもつをかっこにじゆうにせんたくすることができる。)
自己の欲する書物を各個に自由に選択することができる。
(けいたいにべんにしてかかくのひくきをさいしゅとするがゆえに、)
携帯に便にして価格の低きを最主とするがゆえに、
(がいかんをかえりみざるもないようにいたってはげんせんもっともちからをつくし、)
外観を顧みざるも内容に至っては厳選最も力を尽くし、
(じゅうらいのいわなみしゅっぱんぶつのますますはっきせしめようとする。)
従来の岩波出版物のますます発揮せしめようとする。
(このけいかくたるやせけんのいちじのとうきてきなるものとことなり、)
この計画たるや世間の一時の投機的なるものと異なり、
(えいえんのじぎょうとしてごじんはびりょくをけいとうし、あらゆるぎせいをしのんで)
永遠の事業として吾人は微力を傾倒し、あらゆる犠牲を忍んで
(こんごえいきゅうにけいぞくはってんせしめ、もってぶんこのしめいをいかんなくはたさしめることを)
今後永久に継続発展せしめ、もって文庫の使命を遺憾なく果たさしめることを
(きする。げいじゅつをあいしちしきをもとむるしの)
期する。芸術を愛し知識を求むる士の
(みずからすすんでこのきょにさんかし、きぼうとちゅうげんとをよせられることは)
自ら進んでこの挙に参加し、希望と忠言とを寄せられることは
(ごじんのねつぼうするところである。そのせいしつじょうけいざいてきには)
吾人の熱望するところである。その性質上経済的には
(もっともこんなんおおきこのじぎょうにあえてあたらんとするごじんのこころざしをりょうとして、)
最も困難多きこの事業にあえて当たらんとする吾人の志を諒として、
(そのたっせいのためよのどくしょしのうるわしききょうどうをきたいする。)
その達成のため世の読書子とのうるわしき共同を期待する。
(しょうわにねんしちがつ)
昭和二年七月