迷い込んだ年賀状

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投稿者投稿者ちいさん  いいね0  お気に入り登録
プレイ回数2  難易度(5.0) 3888打 長文
実体験とフィクション混合
2024年秋に年賀状を見つけました

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問題文

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(11がつのかぜは、おどろくほどすんでいた。) 11月の風は、驚くほど澄んでいた。 (くもひとつないあきばれのごご。) 雲一つない秋晴れの午後。 (わたしはにわのうえきばちのすきまに、いろあせたいちまいのかみきれがはさまっているのをみつけた。) 私は庭の植木鉢の隙間に、色褪せた一枚の紙切れが挟まっているのを見つけた。 (ひろいあげてみると、それはねんがじょうだった。) 拾い上げてみると、それは年賀状だった。 (まだ11がつおまけにあてなはわたしではない。) まだ11月おまけに宛名は私ではない。 (ごきんじょのこにしさんのおくさま、みちこさんあてだった。) ご近所の小西さんの奥様、みちこさん宛だった。 (「じゅうしょとうきょうのねりまく?」ここはさいたまだ。) 「住所  東京の練馬区?」ここは埼玉だ。 (いぜん、とうきょうにすんでいたというはなしはきいていたが、そこにいんさつされたえと。) 以前、東京に住んでいたという話は聞いていたが、そこに印刷された干支。 (どこかなつかしいいぬのいらすと。) どこか懐かしい犬のイラスト。 (せいれきは2006ねん。いまから20ねんもまえのねんがじょうだった。) 西暦は2006年。今から20年も前の年賀状だった。
(ぶんめんはてがきの、あたたかみのあるまるもじでつづられている。) 文面は手書きの、温かみのある丸文字で綴られている。 (「さくねんはしばいみにいけなかったが、らいねんこそはみにいってかんそうを) 「昨年は芝居観に行けなかったが、来年こそは観に行って感想を (のべたいなどとおもっています、ことしはよいとしでありますように。) 述べたいなどと思っています、今年は良い年でありますように。 (おたがいにねよいおとしを2006いぬ」) お互いにね よいお年を 2006 いぬ」 (それはおんなともだちからみちこさんあてのきんきょうほうこくだった。) それは女友達からみちこさん宛の近況報告だった。 (きつねにつままれたようなここちのまま、わたしはすまーとふぉんのまっぷあぷりを) 狐につままれたような心地のまま、私はスマートフォンのマップアプリを (ひらき、そのねりまくのじゅうしょをけんさくしてみた、がめんにひょうじされたのは) 開き、その練馬区の住所を検索してみた、画面に表示されたのは (きいろいかんばんとあすふぁると。みちこさんたちがくらしていたばしょは、) 黄色い看板とアスファルト。みちこさんたちが暮らしていた場所は、 (いまはつめたいこいんぱーきんぐになっていた。わたしはそのじゅうしょをじっとみつめ) 今は冷たいコインパーキングになっていた。私はその住所をじっとみつめ (ながら、こにしさんいっかのこれまでのあゆみにおもいをはせた。) ながら、小西さん一家のこれまでの歩みに思いを馳せた。
など
(わがやのむすこはげんざい32さい、こにしさんのところのちょうなんのれんくんはうちのむすこのひとつしたで ) 我家の息子は現在32歳、小西さんのところの長男の蓮くんは家の息子の一つ下 (31さいに、みちこさんがさいたまにひっこしてきたのは、まだこどもたちが) 31歳に、みちこさんが埼玉に引っ越してきたのは、まだ子供たちが (ようしょうのころ、ちょうなんのれんくんが5さいるいくんが3さい。まだおとうさんのしすら) 幼少の頃、長男の蓮君が5歳類くんが3歳。まだお父さんの死すら (よくわかっていないおさないおとこのこをふたりをかかえ、みよりのないこのとちへ) よくわかっていない幼い男の子を二人を抱え、身寄りのないこの土地へ (にげるようにしてうつりすんできたのだ。) 逃げるようにして移り住んできたのだ。 (そして、ふときがついてむねがつかれた。れんくんが5さいだったあのとし) そして、ふと気が付いて胸がつかれた。蓮君が5歳だったあの年 (だんなさまがなくなったあのかなしみのとしは、まさに2006ねんいぬどしだったのでは) 旦那様がなくなったあの悲しみの年は、まさに2006年戌年だったのでは (ないか。そのひのゆうがた、わたしはねんがじょうをもってこにしさんのいえをたずねた。) ないか。その日の夕方、私は年賀状を持って小西さんの家を訪ねた。 (「あら、これ!」げんかんさきではがきをうけとったみちこさんは) 「あら、 これ  !」玄関先ではがきを受けとったみちこさんは (いきをのんだ。りびんぐからかおをだしたおとなになったむすこさんふたりも) 息を呑んだ。リビングから顔を出した大人になった息子さん二人も (ははおやのようすにおどろいてちかづいてくる。「これ、わたしがねりまにいたときの) 母親の様子に驚いて近づいてくる。「これ、私が練馬にいた時の (でもどうして?あのいえをひきはらうとき、しゅじんのいひんせいりにおわれて、) でもどうして?あの家を引き払う時、主人の遺品整理に追われて、 (このとしのねんがじょうはぜんぶなくしちゃったの。かみかくしにでもあったみたいに) この年の年賀状は全部なくしちゃったの。神隠しにでもあったみたいに (こつぜんときえて。みちこさんのてがかすかにふるえていた。あのとししゅじんが) 忽然と消えて。みちこさんの手が微かに震えていた。あの年主人が (きゅうにいってしまって、わたしはこころをやんでしまってともだちからのはげましや) 急に逝ってしまって、私は心を病んでしまって友達からの励ましや (おしばいのさそいにもいっさいこたえられなくなってしまった。けいたいもかいやくして) お芝居の誘いにも一切応えられなくなってしまった。携帯も解約して (だれともれんらくをたってこのまちにきたの。さしだしにんのようこにもふぎりをしたまま) 誰とも連絡を絶ってこの街に来たの。差出人の陽子にも不義理をしたまま (みちこさんはなみだぐみながら、20ねんまえのゆうじんのもじをなぞった。) みちこさんは涙ぐみながら、20年前の友人の文字をなぞった。 (そのとき、ちょうなんのれんくんがしずかにくちをひらいた。「おふくろ、これ、おやじが) その時、長男の蓮君が静かに口を開いた。「お袋、これ、親父が (かくしてたんだよ。きっと」「え?」「おれなんとなくおぼえてる。おやじが) 隠してたんだよ。きっと」「え?」「俺なんとなく憶えてる。親父が (びょうしつで、おふくろあてのゆうびんぶつをいとおしそうにながめてたこと。じぶんがしんだら) 病室で、お袋宛の郵便物を愛おしそうに眺めてたこと。自分が死んだら (おふくろがともだちとのつながりまでたちきってひきこもちゃうのわかってたんだよ) お袋が友達との繋がりまで断ち切って引きこもちゃうの分かってたんだよ (だから、じぶんがしんでも「よいとしでありますように、おたがいにね」って) だから、自分が死んでも「良い年でありますように、お互いにね」って (いえるくらい、おふくろのこころがげんきになるまで、どこかにかくしておいたんじゃ) 言えるくらい、お袋の心が元気になるまで、どこかに隠しておいたんじゃ (ないかな」「でも、ここはさいたまよ?ねりまのいえは、もうちゅうしゃじょうに) ないかな」「でも、ここは埼玉よ?練馬の家は、もう駐車場に (なちゃってるのよ?」じなんのるいくんが、すまーとふぉんのがめんにうつる) なちゃってるのよ?」次男の類くんが、スマートフォンの画面に映る (こいんぱーきんぐのすとりーとびゅーをみつめながら、ぽつりといった。) コインパーキングのストリートビューを見つめながら、ぽつりと言った。 (「かたちがあるばしょはなくなってもさ、きおくのとおりみちみたいなのがあるの) 「形がある場所はなくなってもさ、記憶の通り道みたいなのがあるの (かもね。ほら、きょうはおやじのめいにち(つきめいにち)じゃん。しかも、ものすごい) かもね。ほら、今日は親父の命日(月命日)じゃん。しかも、ものすごい (あきばれ。おやじ、あそこのちゅうしゃじょうから、かぜにのせてここまでとどけたんじゃ) 秋晴れ。親父、あそこの駐車場から、風に乗せてここまで届けたんじゃ (ない?。」かがくてきにはありえないはなしだ。とうきょうのこいんぱーきんぐの) ない?。」科学的にはあり得ない話だ。東京のコインパーキングの (すきまに20ねんかんはさまっていたはがきが、とっぷうにあおられてさいたまのわがやの) 隙間に20年間挟まっていたはがきが、突風に煽られて埼玉の我が家の (うえきばちまでとんでくるはずがない。けれど、わたしはあのひ、うえきばちのつちに) 植木鉢まで飛んでくるはずがない。けれど、私はあの日、植木鉢の土に (きれいに、まるでだれかがていねいにさしこんだかのように、そのはがきが) きれいに、まるで誰かが丁寧に差し込んだかのように、そのはがきが (はさまれているのをみたのだ。「おふくろ、おしばいまたみにいきなよ。) 挟まれているのを見たのだ。「お袋、お芝居また観に行きなよ。 (おにいちゃんとおれで、ちけっととるからさ」るいくんがみちこさんのかたをたたく) お兄ちゃんと俺で、チケット取るからさ」類くんがみちこさんの肩を叩く (「そうね、ようこさがして、あやまって、いっしょにいかなくちゃね」) 「そうね、陽子探して、謝って、一緒に行かなくちゃね」 (みちこさんはなみだをぬぐい、20ねんごしにまえをむいたえがおをみせた。) みちこさんは涙を拭い、20年越しに前を向いた笑顔を見せた。 (かえりみち、わたしはよぞらをみあげた。2006ねんのあのひ、たいせつなかぞくをのこして) 帰り道、私は夜空を見上げた。2006年のあの日、大切な家族を残して (たびだっただんなさまのたましいは、きっとあのこいんぱーきんぐのそらにずっと) 旅立った旦那様の魂は、きっとあのコインパーキングの空にずっと (とどまっていたのだろう。のこされたつまが、せいちょうしたむすこたちにささえられ、) 留まっていたのだろう。残された妻が、成長した息子たちに支えられ、 (もういちどじぶんのじんせいをあるきだせるそのひを、20ねんかんずっとまちつづけながら。 ) もう一度自分の人生を歩きだせるその日を、20年間ずっと待ち続けながら。 (そしていま、やくめをおえたいちまいのてがみが、あきかぜにとけていくようなきがした。) そして今、役目を終えた一枚の手紙が、秋風に溶けていくような気が気がした。
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