王子とこじき 8
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問題文
(はーふぉーどきょうは、よびりんのつなをひいて、おうじのしんしつがかりのはーばーとをよんだ。)
ハーフォード卿は、呼び鈴の綱を引いて、王子の寝室係のハーバートを呼んだ。
(そして、うやうやしくとむをしんしつへあんないさせた。)
そして、恭しくトムを寝室へ案内させた。
(あさからみずをひとくちものんでいなかったとむは、)
朝から水を一口も飲んでいなかったトムは、
(さっそくへやのすみにみずさしをみつけて、こっぷにみずをつごうとした。)
さっそく部屋の隅に水差しを見つけて、コップに水をつごうとした。
(すると、すばやくそれこそとりがきのみをさらうように、)
すると、素早くそれこそ鳥が木の実をさらうように、
(はーばーとはとむのてからこっぷをもぎとり、みずをついできんのおぼんにのせてから)
ハーバートはトムの手からコップをもぎ取り、水をついで金のお盆にのせてから
(ひざまずいてとむにわたした。)
ひざまずいてトムに渡した。
((そうか。じぶんでみずをのんではいけないのだな。そんなことをしたら、)
(そうか。自分で水を飲んではいけないのだな。そんなことをしたら、
(このおとこのやることがなくなってしまって、くびになるかもしれないのだ。)
この男のやることがなくなってしまって、くびになるかもしれないのだ。
(とむはいすにすわって、しゃくにさわるほどあしをしめつけているくつをぬごうとした。)
トムは椅子に座って、癪にさわるほど足を締め付けている靴を脱ごうとした。
(すると、はーばーとではない、きっとくつがかりとでもいうのだろう、)
すると、ハーバートではない、きっと靴係とでもいうのだろう、
(ひとりのおとこがとびだしてきて、くつをぬがして、ていねいにちいさなふとんのうえへのせた)
一人の男が飛び出してきて、靴を脱がして、ていねいに小さな布団の上へのせた
(ふくもぬがせてくれて、やっとゆったりとしたねまきになれたとむは、)
服も脱がせてくれて、やっとゆったりとした寝間着になれたトムは、
(ふかふかのべっどのうえにねることができた。)
ふかふかのベッドの上に寝ることができた。
(だがおどろいたことに、へやのなかではくすりっぱをあしにはめにくるかかりがいたのである)
だが驚いたことに、部屋の中で履くスリッパを足にはめにくる係がいたのである
(とむはそっとあたりをみまわすと、なにのかかりかわからないけらいが)
トムはそっとあたりを見回すと、何の係かわからない家来が
(あとしち、はちにんもべっどをとりまいていた。)
あと七、八人もベッドを取り巻いていた。
(そして、じいっとおうじのめいれいをまっているのである。)
そして、じいっと王子の命令を待っているのである。
((まいったなあ。おうじさまというものは、)
(参ったなあ。王子様というものは、
(ねるときまでこんなにけらいにみつめられているのかな。)
寝る時までこんなに家来に見つめられているのかな。
(といって、でてゆけといえばやくめがなくなるだろうし))
と言って、出て行けと言えば役目がなくなるだろうし)
(とむはそうおもってあきらめた。)
トムはそう思ってあきらめた。
(しかし、とりかこんだけらいたちは、こうおもっていたのだ。)
しかし、取り囲んだ家来たちは、こう思っていたのだ。
((いつものおうじさまなら、さがっていいといってくださるのに、)
(いつもの王子様なら、下がっていいと言ってくださるのに、
(やっぱりこのかたは、ごびょうきなのだ))
やっぱりこのかたは、ご病気なのだ)
(ところで、さっきまでとむのいたへやでは、はーふぉーどきょうと)
ところで、さっきまでトムのいた部屋では、ハーフォード卿と
(せんとじょんきょうがしんぱいのあまり、へやのなかをぐるぐるとあるきまわっていた。)
セント・ジョン卿が心配のあまり、部屋の中をぐるぐると歩き回っていた。
(そのうちに、せんとじょんきょうはだまっているのが)
そのうちに、セント・ジョン卿は黙っているのが
(とてもおそろしくなったのにちがいない。)
とても恐ろしくなったのに違いない。
(「じつのところ、えどわーどさまのあのありさまをどうおかんがえですかな」)
「実のところ、エドワード様のあのありさまをどうお考えですかな」
(とくちをきった。するとはーふぉーどきょうはあたりをみまわして)
と口を切った。するとハーフォード卿はあたりを見回して
(だれもたちぎきしているものがいないとわかると)
誰も立ち聞きしている者がいないとわかると
(「うちあけたはなし、せんとじょんきょう。こくおうへいかのごびょうきはたいへんおわるいのだ。)
「打ち明けた話、セント・ジョン卿。国王陛下のご病気は大変お悪いのだ。
(いしゃも、もうながいことはないというておる。)
医者も、もう長いことはないと言うておる。
(だともうすのに、つぎのいぎりすこくおうになるはずのえどわーどが・・・)
だと申すのに、次のイギリス国王になるはずのエドワードが・・・
(おお、かみさま、あのおうじはわしのおいにあたるのだ。)
おお、神様、あの王子はわしの甥に当たるのだ。
(なのに、たしかにきがくるっている。いちにちじゅうではないにしても)
なのに、確かに気が狂っている。一日中ではないにしても
(とつぜん、とんでもないことをくちにだすのは、そのときどきくるうしょうこだ」)
突然、とんでもないことを口に出すのは、その時々狂う証拠だ」
(「・・・かっか。あなたばかりではありませんぞ。)
「・・・閣下。あなたばかりではありませんぞ。
(このわたくしも、むねがつぶれるおもいがいたします。)
このわたくしも、胸がつぶれる思いがいたします。
(しかし、こくおうへいかのまえで、らてんごをすらすらとおよみになったということは)
しかし、国王陛下の前で、ラテン語をすらすらとおよみになったということは
(きっとしょうきにもどられるのもちかいとおもいます」)
きっと正気に戻られるのも近いと思います」
(ふたりとも、とむがにせものだとは、つゆかんがえなかったのである。)
二人とも、トムが偽物だとは、つゆ考えなかったのである。