マリスの晩餐
作詞・作曲・ストーリー/奏音69
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歌詞(問題文)
(もりのおくには、よるのあくまがすむんだ。)
森の奥には、夜の悪魔が住むんだ。
(やつらにことばなどはつうじない。)
奴らに【言葉】などは通じない。
(ひがしずむまえには、かえっておいで。)
太陽[ひ]が沈む前には、帰っておいで。
(みらはとほうにくれた。)
少女[ミラ]は途方に暮れた。
(かえりみちをみうしなってしまったのだ。)
帰り道を見失ってしまったのだ。
(はやくかえらなきゃ)
「早く帰らなきゃ……」
(みらはもりのおくへとあるきだした。)
ミラは森の奥へと歩きだした__。
(よるのあくまなんて、いるはずないわ。)
夜の悪魔なんて、いるはずないわ。
(だれしもことばでわかりあえるもの。)
誰しも【言葉】で理解[わか]りあえるもの。
(やがてきのかげで、みらはみつけた。)
やがて木の陰で、ミラは見つけた。
(ふるびたやかたに、うごめくなにかを。)
古びた洋館[やかた]に、蠢く何かを。
(ここには、ねぇ、だれかがいるの?)
此処には、ねぇ、誰かがいるの?
(ろうそくのひが、ぶきみにてらした。)
蝋燭の燈[ひ]が、不気味に照らした。
(あなたはだあれ?)
「……貴方はだあれ?」
(おぞましいあかいめ。ちにうえたしろいきば。)
悍ましい紅い眼。血に飢えた皓[しろ]い牙。
(あぁ、ざんこくですうきなこのであい。)
あぁ、残酷で数奇なこの出遇い。
(たすけてとなげいて、おねがいとわめいても、)
救けてと嘆悔[なげ]いて、お願いと喚鳴[わめ]いても、
(そうかあくまにはことばはつうじない。)
そうか……悪魔には【言葉】は通じない。
(そのあくま、まりすはなにかにきづいてたちどまった。)
その悪魔、マリスは何かに気付いて立ち止まった。
(みらはにげることなく、かれにやさしくはなしかけた。)
ミラは逃げることなく、彼に優しく話しかけた。
(つみはおかしたひとだけのもの。)
罪は犯した人だけのもの。
(うまれはかんけいないわ。)
血統[うまれ]は関係ないわ。
(あなたは、あなた。)
あなたは、あなた。
(それから、ふたりはさがしはじめた。)
それから、ふたりは探し始めた。
(あくまとしょうじょが、わかりあうみちを。)
悪魔と少女が、理解[わか]りあう道を。
(あるよる、ふと、だれかのあしおと。)
ある夜、ふと、誰かの靴音。
(まねかれざるさついをにぎって。)
招かれざる殺意を握って。
(かのじょをかえせ!)
「……彼女を還せ!」
(おびえたくろいみみ。ふるえるてからはきょうだん。)
怯えた黒い耳。震える手からは凶弾。
(あぁ、すがたならみらとにているのに。)
あぁ、姿形[すがた]ならミラと似ているのに……。
(はなしをとといた。きいてくれとさけんだ。)
対話[はなし]をと説いた。聞いてくれと叫んだ。
(なぜおまえにはことばがつうじない?)
なぜ……お前には【言葉】が通じない?
(あくまをころせ!)
「悪魔を殺せ!」
(すがたのちがうものたちが、わかりあうのはむずかしい。)
姿形[すがた]の違う者たちが、理解[わか]りあうのは難しい。
(もはやかれらにことばはつうじない。)
もはや彼らに【言葉】は通じない。
(いったいどちらが、ほんもののあくまなのだろう。)
一体どちらが、本物の悪魔なのだろう。
(あさやけにいたむからだをおして、まりすはむらのほうがくへはしった。)
朝焼けに傷む身体を押して、マリスは村の方角へ走った。
(このすがたをみられたら、きっところされるだろう。)
この姿形[すがた]を見られたら、きっと殺されるだろう。
(それでもまりすは、このしょうじょを)
それでもマリスは、この少女を__
(ことばを、しんじてみたかった。)
【言葉】を、信じてみたかった。
(おれがこわいだろう。しんじてはくれないだろう。)
悪魔[おれ]が恐いだろう。信じてはくれないだろう。
(ただ、ひとつでいい。ねがいをきいてくれないか!)
ただ、ひとつでいい。願いを聞いてくれないか!
(うつろなあかいめ。はいとかすしろいきば。)
虚ろな紅い眼。灰と化す皓[しろ]い牙。
(あぁ、よがあける。)
あぁ、夜が明ける。
(えがおはもう、みれないな。)
笑顔はもう、見れないな……。
(おかしたれきしは、けっしてもどらない。)
侵略[おか]した歴史は、決して戻らない。
(でもみら、いうとおりだ。)
でもミラ、言うとおりだ。
(すがたはちがえど、あくまのこだとしても、)
姿形[すがた]は違えど、悪魔の子だとしても、
(ことばでわかりあった。)
【言葉】で理解[わか]りあった。
(みらはただしかったんだ。)
ミラは正しかったんだ。
(まりすはみたされたようにわらって、)
マリスは満足[みた]されたように笑って、
(しずかにあさやけにちった。)
静かに……朝焼けに散った。