品川心中

(めしもりのやどしながわの)

飯盛の宿品川の

(あさはきぬぎぬやまはふじ)

朝は衣々山は富士

(ええこっちゃえーええこっちゃえー)

ええこっちゃエー　ええこっちゃエー

(おそめだゆうのまきがみの)

お染太夫の巻き紙の

(そいますぬしとあらかしこ)

添います主とあらかしこ

(ありがたやありがたや)

有り難や　有り難や

(ねんがあけたらごしんぞに)

年季（ねん）が明けたらご新造に

(めおとぜんざいででれこでん)

夫婦善哉　デデレコデン

(しばのほんやのきんぞうは)

芝の本屋の金蔵は

(しんそかるけりゃみもかるい)

身上（しんそ）軽けりゃ身も軽い

(ええこっちゃえーええこっちゃえー)

ええこっちゃエー　ええこっちゃエー

(おきつしらなみみめにしわ)

沖つ白波見目に皺

(まわるきんすもおちゃをひく)

回る金子もお茶を挽く

(おうじょうやおうじょうや)

往生や　往生や

(いきてうきながたつじゃなし)

生きて浮き名が立つじゃなし

(おそのろくさかなんまいだ)

おその六三か　ナンマイダ

(はるのうみにこぶねがぶかり)

春の海に小舟がぶかり

(ひとはうまるるときはひとり)

人は生まるる時はひとり

(てにてとりあうならばふたり)

手に手　取り合うならばふたり

(さあうみへうみへまいりまほう)

さあ　海へ　海へ　参りまほう

(にしのそらにやっこがふわり)

西の空に奴凧（やっこ）がふわり

(ひとはしにゆくときもひとり)

人は死にゆくときもひとり

(めとめたがいにつむるふたり)

目と目　互いに瞑るふたり

(さあうみへうみへはいりまほう)

さあ　海へ　海へ　入りまほう

(「おはようござい」)

「お早う御座い」

(「なんだい、きんぞうじゃないかい」)

「何だい、金蔵じゃないかい」

(「たってるのはきんぞうで、あしもとにあるのがぞうきん」)

「立ってるのは金蔵で、足元にあるのが雑巾」

(「なにをいってやがる。どうしたんだい、)

「何を言ってやがる。どうしたんだい、

(かおみせねえじゃねえか、このごろ」)

顔見せねえじゃねえか、この頃」

(「えー、つきまして、あたくしもしあわせわるくいたしまして」)

「えー、つきまして、私も仕合せ悪く致しまして」

(「あたりまえだ。)

「当たり前だ。

(しあわせがあるとさけくらっちゃおんなばかりかって、)

仕合せがあると酒喰らっちゃ女ばかり買って、

(ふらふらしてやがるんじゃなあ」)

フラフラしてやがるんじゃなあ」

(「えーしようがありませんから、)

「えー仕様がありませんから、

(いなかへでもいってすこしかせごうかと」)

田舎へでも行って少し稼ごうかと」

(「おうおう、それがいいや。)

「おうおう、それが良いや。

(いってこい、な。どっちへいくんだい、ええ？」)

行って来い、な。どっちへ行くんだい、ええ？」

(「ほうがくは、にしのほうへ」)

「方角は、西の方へ」

(「にしのほうへ。で、いつけえってくるんだい？」)

「西の方へ。で、いつ帰って来るんだい？」

(「おぼんのじゅうさにちにはかえります」)

「お盆の十三日には帰ります」

(「やなやろうだな、こんちくしょう、どうも。)

「嫌な野郎だな、こん畜生、ドウモ。

(で、にしへまいりますって、にしはいったいどこなんだい？」)

で、西へ参りますって、西は一体どこなんだい？」

(「さいほう～あみだ～」)

「西方～阿弥陀～」

(めでためでたのしろむくは)

目出度目出度の白無垢は

(しでのたびじのひだりまえ)

死出の旅路の左前

(かんにんやかんにんや)

堪忍や　堪忍や

(しょたいもちたやあのよでも)

世帯持ちたやあの世でも

(はすのうてなでとてりんしゃん)

蓮の台（うてな）でトテリンシャン