ねえあんた／ちあきなおみ

(ねえどうしたのあんた)

ねえ　どうしたの　あんた

(ねえあんたなにかとってあげようか)

ねえ　あんた　何か取ってあげようか

(おなかすいてるんじゃないの)

お腹　空いてるんじゃないの

(のみはじめたらいつだって)

呑みはじめたら　いつだって

(ぜんぜんものをたべないんだから)

全然ものを　食べないんだから

(いちょうがよわいおとこはさながいきしないってそういうよ)

胃腸が弱い男はさ　長生きしないって　そういうよ

(ねえあんた)

ねえ　あんた

(ぼたんがひとつとれてるよ)

ボタンがひとつ　取れてるよ

(そとをあるいておかしいじゃない)

外を歩いて　おかしいじゃない

(あたしはりももてるんだ)

あたし　針も持てるんだ

(こっちへおかしつけてあげるよ)

こっちへお貸し　付けてあげるよ

(だらしがないおとこはさ)

だらしがない男はさ

(しゅっせをしないってそういうよ)

出世をしないって　そういうよ

(ねえあんたまっちがいっぱいはいってるね)

ねえ　あんた　マッチが　いっぱい入ってるね

(いろんなみせへいってるんだね)

いろんな店へ　行ってるんだね

(まわりがみんなさわぐとき)

周りがみんな　騒ぐとき

(ひとりでねたりしちゃいけないよ)

ひとりで寝たりしちゃ　いけないよ

(やぼでむくちなおとこはさ)

野暮で無口な　男はさ

(ばかにされるってそういうよほんとだよ)

馬鹿にされるって　そういうよ　ほんとだよ

(あたしずががとくいだったの)

あたし　図画が得意だったの

(いなかのまちのてんらんかいで)

田舎の町の　展覧会で

(しょうひんもらったこともあるんだ)

賞品　貰ったこともあるんだ

(だからほらかべもふすまも)

だから　ほら　壁もふすまも

(あたしがえらんでかえたんだ)

あたしが選んで　換えたんだ

(それだけしゃっきんかさんだけどね)

それだけ借金　かさんだけどね

(このてんじょうもまいにちみてると)

この天井も　毎日見てると

(いろんなもようにみえてくるんだ)

いろんな模様に　見えてくるんだ

(ひつじやふねやくびかざり)

羊や船や　首飾り

(あんたのかおにだってみえてくるんだ)

あんたの顔にだって　見えてくるんだ

(ねえあんたなんでそんなにふきげんなの)

ねえ　あんた　なんでそんなに　不機嫌なの

(あたしなにかいっちゃったかしら)

あたし　何か言っちゃったかしら

(ほかのどこかのひとみたいにいいことばかりいえないんだよ)

他のどこかの人みたいに　いいことばかり　言えないんだよ

(すぐにおこるおとこはさもてないってほんにでてたよ)

すぐに怒る男はさ　モテないって　本に出てたよ

(ねえあんたいまいったことうそだろ)

ねえ　あんた　今言ったこと　嘘だろ

(ごめんってひとこといっておくれよ)

ゴメンって　ひとこと　言っておくれよ

(こんなところのおんなにもいっちゃいけないことばがあるんだ)

こんなところの女にも　言っちゃいけない　言葉があるんだ

(そんなこというおとこはさここじゃかえれっていわれるよ)

そんなこと言う男はさ　ここじゃ帰れって　言われるよ

(やっぱりあたしはどぶがわぐらし)

やっぱり　あたしは　ドブ川暮らし

(あんたをまってちゃいけないおんなさ)

あんたを待ってちゃ　いけない女さ

(そうなんだろうねえあんた)

そうなんだろう　ねえ　あんた

(ねえあんた)

ねえ　あんた

(あんた)

あんた