芥川龍之介『黄粱夢』

順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | baru | 3407 | D | 3.8 | 90.6% | 529.7 | 2013 | 208 | 28 | 2025/03/28 |
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問題文
(ろせいはしぬのだとおもった。めのまえがくらくなって、こやまごのすすりなくこえが、)
盧生は死ぬのだと思った。目の前が暗くなって、子や孫のすすり泣く声が、
(だんだんとおいところへきえてしまう。そうして、めにみえないふんどうがあしのさきへついて)
だんだん遠い所へ消えてしまう。そうして、眼に見えない分銅が足の先へついて
(でもいるように、からだがしたへしたへとしずんでいく--とおもうと、きゅうにはっとなにかに)
でもいるように、体が下へ下へと沈んで行く--と思うと、急にはっと何かに
(おどろかされて、おもわずめをおおきくひらいた。するとまくらもとにはいぜんとして、どうしの)
驚かされて、思わず眼を大きく開いた。すると枕もとには依然として、道士の
(ろおうがすわっている。しゅじんのかしいでいたきびも、いまだにじゅくさないらしい。ろせいは)
呂翁が坐っている。主人の炊いでいた黍も、未だに熟さないらしい。盧生は
(せいじのまくらからあたまをあげると、めをこすりながらおおきなあくびをした。かんたんのあきの)
青磁の枕から頭をあげると、眼をこすりながら大きな欠伸をした。邯鄲の秋の
(ごごは、おちばしたきぎのこずえをてらすひのひかりがあってもうすらさむい。「めが)
午後は、落葉した木々の梢を照らす日の光があってもうすら寒い。「眼が
(さめましたね。」ろおうは、ひげをかみながら、えみをかみころすようなかおをして)
さめましたね。」呂翁は、髭を噛みながら、笑を噛み殺すような顔をして
(いった。「ええ」「ゆめをみましたろう。」「みました。」「どんなゆめを)
云った。「ええ」「夢をみましたろう。」「見ました。」「どんな夢を
(みました。」「なんでもたいへんながいゆめです。はじめはせいかのさいしのむすめといっしょに)
見ました。」「何でも大へん長い夢です。始めは清河の崔氏の女と一しょに
(なりました。うつくしいつつましやかなむすめだったようなきがします。そうして)
なりました。うつくしいつつましやかな女だったような気がします。そうして
(あくるとし、しんしのしけんにきゅうだいして、いなんのいになりました。それから、かんさつぎょしや)
明る年、進士の試験に及第して、渭南の尉になりました。それから、監察御史や
(ききょしゃじんちせいこうをへて、とんとんびょうしにちゅうしょもんかへいしょうじになりましたが、ざんを)
起居舎人知制誥を経て、とんとん拍子に中書門下平章事になりましたが、讒を
(うけてあぶなくころされるところをやっとたすかって、かんしゅうへながされることになりました。)
受けてあぶなく殺される所をやっと助かって、驩州へ流される事になりました。
(そこにかれこれごろくねんもいましたろう。やがて、えんをすすぐことができたおかげで)
そこにかれこれ五六年もいましたろう。やがて、冤を雪ぐ事が出来たおかげで
(またしょうかんされ、ちゅうしょれいになり、えんこくこうにふうぜられましたが、そのときは)
また召還され、中書令になり、燕国公に封ぜられましたが、その時は
(もういいとしだったかとおもいます。こがごにんに、まごがなんじゅうにんとありましたから。」)
もういい年だったかと思います。子が五人に、孫が何十人とありましたから。」
(「それから、どうしました。」「しにました。たしかはちじゅうをこしていたように)
「それから、どうしました。」「死にました。確か八十を越していたように
(おぼえていますが。」ろおうは、とくいらしくひげをなでた。「では、ちょうじょくのみちもきゅうたつの)
覚えていますが。」呂翁は、得意らしく髭を撫でた。「では、寵辱の道も窮達の
(うんも、ひととおりはあじわってきたわけですね。それはけっこうなことでした。いきると)
運も、一通りは味わって来た訳ですね。それは結構な事でした。生きると
(いうことは、あなたのみたゆめといくらもかわっているものではありません。これで)
云う事は、あなたの見た夢といくらも変っているものではありません。これで
(あなたのじんせいのしゅうじゃくも、ねつがさめたでしょう。とくそうのりもしせいのじょうもしって)
あなたの人生の執着も、熱がさめたでしょう。得喪の理も死生の情も知って
(みれば、つまらないものなのです。そうではありませんか。」ろせいは、)
見れば、つまらないものなのです。そうではありませんか。」盧生は、
(じれったそうにろおうのことばをきいていたが、あいてがねんをおすとともに、せいねんらしい)
じれったそうに呂翁の語を聞いていたが、相手が念を押すと共に、青年らしい
(かおをあげて、めをかがやかせながら、こういった。「ゆめだから、なお)
顔をあげて、眼をかがやかせながら、こう云った。「夢だから、なお
(いきたいのです。あのゆめのさめたように、このゆめもさめるときがくるでしょう。)
生きたいのです。あの夢のさめたように、この夢もさめる時が来るでしょう。
(そのときがくるまでのあいだ、わたしはしんにいきたといえるほどいきたいのです。あなたは)
その時が来るまでの間、私は真に生きたと云えるほど生きたいのです。あなたは
(そうおもいませんか。」ろおうはかおをしかめたまま、しかりともいなともこたえなかった。)
そう思いませんか。」呂翁は顔をしかめたまま、然りとも否とも答えなかった。